第60幕 あの人を探す日々
「ほ、本当? それ本当なの!?」
司の言葉に戸惑うような……しかし信じたい、そういう強い動揺が感じているのがわかった。
……それは俺も同じだからな。
あの日の後悔も苦しみは、一時だって忘れたことはなかった。
「……あくまで似た人物を見かけたって情報だ。
小耳に挟んだだけだから詳しく聞いたわけじゃない」
妙に鬱陶しそうな顔をしている司だったが、それ以上に目はエセルカを捉えている。
まるでなにかに狙いを定めた獣のようだ。
「そ、そう……」
確信を得られたわけじゃない。
けど、望みが出来たお陰でエセルカの目は今まで以上に輝きを放っているのがわかった。
水を得た魚ってのはこういうことを言うんだろうな。
「あんた、グレリアを嫌ってたような気がするけど、どういう風の吹き回しかしらねぇ?」
「一年前、あれだけ辛気臭い顔で別れたんだ。
こっちだって思うところがあるってことだ」
ひらひらと邪魔くさそうに手を振って、『これ以上話しかけるな』というような態度を取った司にはもう聞けることはないだろう。
今日はもう遅い。
ひとまず宿を取って一休みすることにして、次の日からグレリアを探すべく、行動を開始するのだった――。
――
それから数日、俺達はグレリアの姿を探しに町に繰り出すのだけれど……なんの成果も得られず、今は俺の部屋でくずはと一緒に反省会のようなものをしていた。
アンヒュルとのいざこざはここでは起きていないそうで、司もここにしばらく滞在してから中央に行くつもりだったらしい。
だから俺達がグレリアを探しても特に問題は起こらず、むしろミシェリさんを除いたお付きの二人は嬉しそうだった。
「悪いな。俺達の好きにしてしまって……」
「別に。あたしだってあんた達がどれだけあいつの事を想っているかわかってるつもりだもの。
それに……彼には恩もあるから」
様々な場所を歩き回って日が暮れて宿に帰ってはくずはに申し訳ないと謝る。
そんな日が続いたけど、彼女の方もイギランスからの帰り道のことが頭に残っているからか、積極的に協力してくれた。
「でもここまで見つからないってことは、もうダティオにはいないんじゃない?
グレリアがこんなところに留まる理由なんてあたしにはさっぱりわからないし……」
頬杖をついて考え込むくずはの意見には俺も賛成するところがある。
実際なんでグレリアがこんなところにいたのか全くわからないし、もうルエンジャの方に帰ったんじゃないか? という気持ちも強くなってきているからだ。
だけどなぜだろうか……。
不思議とあいつはルエンジャには帰っていないと思える。
あくまで俺の勘なんだが。
「もう少し司が聞いていてくれればよかったんだけど……」
「あいつにそういうの期待したら駄目。
むしろよくグレリアの情報教えてくれたと思うわよ?」
あんまりな言い方だが……冷たく突き放すような目をしているくずはの言うことも最もだろう。
俺も最初、よく教えてくれたもんだと思っていたからな。
しっかし、こうも手がかりが見つからないんじゃ、かえって嘘くさく思えてしまうのもまた事実。
ここはやはり司にもう一度話を聞いたほうがいいだろう。
結論づけた俺は、早速司のところに向かおうとして……くずはに止められてしまった。
「ちょっと、どこ行くつもり?」
「どこって……司にもう一度話を聞こうと」
「……あんた、あいつがどの部屋に泊まってるか知ってるの?」
「あ……」
そういえば知らない。というかこの考えに至るまで興味すら湧いてきてなかった。
ため息まじりのくずはは、しょうがないと一言呟くと、俺の隣に歩み寄ってくる。
「ほら、さっさと行くわよ。
司には会いたくないけど、あんたたちのためだからね」
微妙にむすっとしているくずはは、本当に嫌がっているんだろう。
それでも俺達の為に一生懸命になってくれてる。
そんな姿がなんだか可愛くて、軽く頭を撫でてやると、途端に真っ赤な顔をして俺のことを睨んできた。
「ちょ……あ、あんた、なにを……」
「お礼だよお礼。ほら、行こうぜ」
「ちょっと、待ちなさいよ!」
おどけるように笑った俺は、そこで硬直しているくずはを置いてさっさと歩きだす。
しばらくそこで固まっていたくずはは、我に返ったと同時に大きな声で怒りながら、後ろの方をついてくるのだった。
――
それから俺達は司の部屋の事を運良く出会ったあいつの仲間に聞いたんだが、それはもう酷いものだった。
「お、ちょうどよかった。
お前たち司の部屋、教えてくんない?」
「嫌。話しかけないで」
これだったんだからな。
ここまで明確に拒絶されたら俺だって少しは傷つくぞ?
まるでゴミでも見るような目で俺を見やがって……なんでああいうキツイ性格の女と一緒に旅してるんだろうか? 俺には理解できない。
結局、くずはが宿の主人から宿台帳を見せてもらうことで司の部屋の位置を知ることが出来た。
最初は向こうも渋っていたんだけど、くずはが「同じ勇者として、今後について詳しく話し合いたい」と言うと、喜んで見せてくれた。
これが俺だったら恐らく相当怪しまれることになっただろうな……。
くずはに感謝しつつ、早速グレリアの事について知ってることを出来る限り教えてもらおうと部屋に向かっている途中――甲高い女の悲鳴が聞こえた。
それは確かに女……いや、ちょっと幼い感じのする悲鳴で……その声がした方に走っていくとそこにあったのは――。
――司の部屋だった。
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