第7幕 授業風景
寮で暮らし始めて初日。
学園に来ての最初の授業のある日。学園一階の隅にある教室に俺達は集まっていた。
L1の1の教室は普通というか……特に何も言うことがない部屋で、総勢30名ほどが集まっていた。
大体男女半分……ぐらいだろうか? どこか不安と期待の入り混じった空気がして微妙にこそばゆく感じてしまう。
「お、おは……おはよう、グレリアくん」
「おお、おはようエセルカ」
そんな中でもぶれないでいるのはエセルカとセイルくらいのものだろう。
小動物であるエセルカは俺の隣の机に決めたようで、そそっと隣に座っていた。
「お、いきなり彼女連れか? こりゃあ隅に置けねぇな!」
「か、かかか、彼女じゃないよ!?」
そんな風に俺達を煽り立ててきたのは、やっぱりというかセイルだった。
いきなり見知らぬ男が俺の彼女扱いしてきたからだろうか、エセルカは盛大に慌てていて、顔が真っ赤……というよりも燃えているように見える。
「おい、あまり茶化すなよ。困ってるだろ」
「うん? 別に茶化したつもりはねぇぞ?」
素で言ってるのか……。
それはそれでタチが悪いんだが……。
「あ、あの……」
「ん? 俺はセイルだ! よろしくな!」
「あ、は、はい……エセルカ・リッテルヒアと言います。よ、よろしくおねがいします!」
丁寧に頭を下げるエセルカに対し、あくまで片手を上げて気さくにしているセイル。なんか、両極端の二人に見えるな。
そんな風に楽しそう(?)に話をしていると、教室に男性が一人、入ってきた。
「はい、皆さんご静粛に」
まるで地の底から湧き上がってくるかのような声が響き渡り、さっきまで騒いでいた連中は俺達も含め、一気に静まり返ってしまった。
そこに現れたのは黒のローブを身にまとっている全身黒尽くめといってもいい男。
なぜか髪が黒い緑みたいなんだが……それがまたより一層不気味さを引き立たせている。
思わず生命を刈り取りそうな鎌を持ってたら、さぞかしサマになっていただろうなと思うほどだ。
「はい、よく出来ました。今日から皆さんを教えることになったクルスィ・キッツィです。よろしくおねがいします」
「え? 苦しいきつい?」
クルスィの名前を笑うかのようにセイルが声を上げると、ギョルン! と目だけセイルの方に向け、エセルカが「ひぃぅぅっ」と泣きそうな目で俺に助けを求めていた。
「運がいいですね……。私の名前を聞いてそういう風に言った人は……」
人は……? と発言したセイル以外もごくりと喉をならして固唾をのんでしまう。
「はい、それでは授業を始めようと思います。自己紹介は各々適当にやってください」
そのまま何事もなかったかのように本を取り出して授業をしようとするクルスィに全員が思いっきりずっこけかけたのは、言うまでもないだろう。
――だがこの後、セイルはまるで呪いでもかかったかのように足の小指をぶつけまくることになる。それも今日一日。
しかし今はそんなこと知らないのであった。
――
それから、何事もなく始められた授業。
どうやら彼の専門は座学中心のようで、文字の読み書きから数学的話に至るまで幅広く教えられるようだ。
そして今は歴史の授業中。俺が今一番興味のあるものだ。
なにせ神が俺を生まれ変わらせてくれるまでの間、何が起こったのかなんて想像がつかない。
アパート以外にもビル街とか呼ばれている四角い建物の群れのような地区があったりと……一体何でここまでになったのか、その経緯には非常に興味があったからだ。
「はい、まずは直近の英雄の話からしましょうか……」
「クルスィ先生、そこは最後からじゃないんですか?」
そこで口を出したのはシュリカ・スライズというオレンジ色の髪の赤い目をした少女だった。
こいつ、セイルがあんな恐ろしい目に遭いかけたっていうのに、よくそんな事言えるなと半ば感心していたが、別に彼を馬鹿にした……というわけでもなかったからか特に何事もなくクルスィは普通に彼女の方を見て頷いていた。
「はい、それはまず最近の英雄から徐々に最古の英雄に近づいていく……いわゆる逆行していくように進めばこそ、よりわかるものもあるというものです。
それに、最初は簡単な方がいいでしょう。」
くっくっくっ……となにやら意味ありげに笑っているが、要は徐々に人の記憶から薄れていっている英雄たちへと難易度を上げていく、ということだろう。
「なるほど! 温故知新ってやつか!」
「はい、違います」
セイルが張り切って出した答えは、クルスィにすぐさま否定されてしまい、みんながくすくすと笑っているようだった。
お前の後ろの俺まで笑われてる気分になるから、ちょっと勘弁してくれよ……。
「はい……それでは最初の英雄の話――の前に英雄召喚について少々しましょう」
それからクルスィは俺の全く知らない、『英雄召喚』と呼ばれる魔法について詳しく説明してくれた。
この世界ではない別の世界から強い者呼び出す魔法。十人の熟練した魔法の使い手が一斉に発動させなければ成功しないらしい、手間のかかる魔法の一つらしい。
……正直、あまり好きになれない魔法だ。こんなもの誘拐と同義だからな。
そしてそれで呼び出された者は、男だろうと女だろうと正に英雄に相応しい能力を持って顕現するのだそうだ。
魔王と呼ばれる者やそれに匹敵する人類の敵が現れたときのみ使用が許されるそうで、現在までに生きている英雄は存在しないのだとか。
そのかわり、英雄が遺した血と知識は、延々と受け継がれているらしい。
要は、その遺った血というのが全員貴族になって……あんな意味のわからない家柄が完成したというわけだ。
ここで疑問が出てくる。俺も含め古い英雄たちは最初から秀でていた者もいたが、鍛錬により強くなった者たちもいたのだ。
俺の知らない英雄たちは、それを上回る強さを持っているということなのか? だとすれば、神が俺を転生させた理由とは……?
尽きない疑問が頭の中から湧いてくるのを止められなかったが、今から色々知ろうという俺には、答えを導き出すことが出来ずにいたのであった――。
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