第156話 悠久の時の果てに
一瞬で船酔いのような気持ち悪さに平衡感覚を奪われる。気を持ち直そうにも後ろに引っ張られた勢いのままに体がくるくる回る無重力感に狂わされる。
回る視界で捕らえる限り、何も無い。宇宙の方が星空が見えるだけ、よっぽど賑やかとでも言うほど何も無い空間が広がり、視界を遮るものが見えない。
重力もなく、何も無い空間。
何も無いなら座標のとらえ方次第、俺が回るんじゃない、この空間ただ一つの座標である俺を中心に回っている。そう、認識し直せば回転は止まっていた。これでこの空間が俺を中心に高速回転しているのかもしれないが、何も無いので確かめようがない。
白く何も無く広がる空間、無いも無いから実際にどのくらい広い空間なのか認識する手段は無い。何も無いが自分の手を見れば見えるということは、光はある。だが光源が何処にあるのか全く分からない。まるで空間自体が発光でもしているのか、本当は目で見てなどないのか。あまり考えるのはよそう、その思考の先は碌な結論はない。
現実と歪みが生み出す狭間の空間の裏の空間にでも落ちたか。狭間の空間の裏なら現実世界というほど甘くないようだ。
そして、視界が何処までも伸びていく空間に水波の姿はない。水波と俺を繋ぐワイヤーも無くなっていた。これで他者と俺を繋ぐものは無し。信じてくれた水波には悪いが、せめてもう少しマシなところに行けたと祈るくらいしか俺には出来ないようだ。
何も無く広がる空間に俺一人。
脱出への手掛かりなどありはしない、無。
上もなければ下もない。
見上げる者もいなければ見下げる者もいない。
認識するものは俺一人。
認識されるものも俺一人。
時間の概念すら怪しいこの空間
無限に等しい時間、孤独に押し潰され無となるか。
無限に等しい時間、己の意思のみで何かを成し遂げるか。
それは自由。
何も無い空間で覚悟を決めて、精神を集中させる。
どのくらいの時が過ぎたであろうか?
1秒、一分、1時間、一ヶ月、1年、それとも千年。
何も無く重力すらない空間に通常の時間の流れはない、自分が思った時間が流れる。
悠久とも言える時を過ごして俺は目を見開き、俺は自分の先に自分の背中を見る。
何も無い空間、通常のXYZ座標に俺はt座標を付け加え、少し位置座標をずらして10秒後の進化した俺を認識したのだ。
これが悠久の思考と認識の鍛錬の先に産みだした能力。凡人といえど悠久の時の孤独に押し潰されず鍛錬に費やせばこのくらいは出来るようになる。
10秒後の進化した俺はまた少し位置座標をずらして11秒後の進化した俺を認識する。10秒の時で俺はそこまで進化した。
11秒後の進化した俺はまた少し位置座標をずらして12秒後の進化した俺を認識する。12秒の時で俺はそこまで進化した。
12秒後の進化した俺はまた少し位置座標をずらして13秒後の進化した俺を認識する。13秒の時で俺はそこまで進化した。
13秒後の進化した俺はまた少し位置座標をずらして14秒後の進化した俺を認識する。14秒の時で俺はそこまで進化した。
15秒後の進化した俺はまた少し位置座標をずらして16秒後の進化した俺を認識する。16秒の時で俺はそこまで進化した。
16秒後の進化した俺はまた少し位置座標をずらして16秒後の進化した俺を認識する。16秒の時で俺はそこまで進化した。
16秒後の進化した俺はまた少し位置座標をずらして17秒後の進化した俺を認識する。17秒の時で俺はそこまで進化した。
17秒後の進化した俺はまた少し位置座標をずらして18秒後の進化した俺を認識する。18秒の時で俺はそこまで進化した。
18秒後の進化した俺はまた少し位置座標をずらして19秒後の進化した俺を認識する。19秒の時で俺はそこまで進化した。
19秒後の進化した俺はまた少し位置座標をずらして20秒後の進化した俺を認識する。 19秒の時で俺はそこまで進化した。
20秒後の進化した俺はまた少し位置座標をずらして21秒後の進化した俺を認識する。21秒の時で俺はそこまで進化した。
21秒後の進化した俺はまた少し位置座標をずらして22秒後の進化した俺を認識する。22秒の時で俺はそこまで進化した。
1秒づつの進化でも無限の時と空間を使って絶え間なく進化させ、鏡合わせように無限に俺は認識されていき、極限へと能力を進化していく。
進化の果て、能力が頂点にまで高まり極まった俺は、振り返る。振り返ってこの空間における全ての原点たる俺を見て、更にこの空間にあるはずの無いさかのぼった過去の俺を認識する。
「これで分かっただろ。もう俺達がこのエスカレーターに乗って調べることなど無い。
だったら風景でも見ていた方が有意義というものだ」
「これで分かっただろ。もう俺達がこのエスカレーターに乗って調べることなど無い。
だったら風景でも見ていた方が有意義というものだ」
そう言って俺は再び外の風景を見る。外を見ようとベルトに乗りかかった俺の腕に暖かく柔らかいものが押しつけられる。
そう言って俺は再び外の風景を見る。外を見ようとベルトに乗りかかった俺の腕に暖かく柔らかいものが押しつけられる。
「うわっすご」
見れば子供の様に目を輝かせる水波の顔が直ぐ傍にあった。
ここしかない。
「かわいいなっ」
「はえっ」
俺は水波の腰に手を伸ばし、そのままリフティングした。
「ちょっちょっちょ、っとなにこれなにこれ」
「はっはははははっ、そーれそれそれ高い高い」
俺はDNQの如く場所も弁えずはしゃぎまくる。
「ちょっと何あれ」
「バカップルすぎ~」
「雰囲気ぶち壊し、迷惑考えろよ」
騒ぐ俺達に上下にいたカップル達の視線が突き刺さり、群衆の死角は消える。
「ちょっちょ視線が痛い的な~」
「楽しまなきゃそんなんだろっ」
俺を見下げる水波にウィンクして言う。
こうして俺達は冷たい視線に晒されながらも、天空のエレベーターの上に何事も無く辿り着いたのであった。
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