第90話 堂々巡り
「ここか」
家々の塀と塀に挟まれた車2台分くらいの舗装された道、街灯に照らされる。
現場はすっかり片付けられているが、ここでの惨劇を知る人々は自然と避けるのか人通りは無い。塀は高く視線は遮られ、住宅街の真っ只中だかの外だというのにぽつんと一人無人島に取り残されたような錯覚になる。
なぜここなのだろうか?
暗い所為だろうか、当たりを見渡しても異様なものは見当たらない。
そもそも、こんな捜査の素人が鑑識という調査のプロが調べて何も見付けられなかったのに、見付けられるのか?
傲慢だな。
そもそも旋律も奏でられず、魔の力も無い、平凡な男となんら遜色が無い退魔官。魔の気配を感じるなんて出来るのか?
逆立ちしたって出来やしない。
・・・。
明日俺一人で来て意味はあるのか? 旋律士なり退魔のプロを連れてきた方が良いような気がするが、そもそもはその退魔のプロを呼ぶかどうか判断する為の調査。だがその調査は退魔のプロで無ければ進まない。
退魔士を呼ぶか判断する為に退魔士を呼ぶ。卵が先か鶏が先かの命題かよ。
俺みたいな凡人が魔の可能性を示すには、魔の可能性意外を全て潰すことで初めて魔の可能性があると言うことが出来る。
当然そんな膨大な検証作業凡人一人に出来るわけも無く。死んでもやればと言われれば年単位の時間を掛ける必要がある。
こうなると工藤から指揮権を奪い捜査員を総動員する必要があるが、それをするには魔の関与を証明しないといけない。
見事なまでの堂々巡り。
やはり俺の投入は時期尚早だったんだな。こうなったら、コバンザメの如く捜査本部に張り付いて、魔が関与してるとなったらさっと飛び出て良いところをかっ攫うしか無い。
我ながら嫌な奴だが。俺だって最初から躓くわけには行かない。手柄を立て、権力を手に入れ一等退魔官を越える特等退魔官を目指す。
その至る道で大勢の人に嫌われ恨まれるだろう。だが、その先に進まなければ廻には勝てない。守りたい人を守れない。
さて、結論と今後の方針は決まった。ならこんな所で時間の無駄をしている必要は無いな。さっさと家に帰ろう。
歩き出した俺の視界の片隅に家々を区切る塀と塀に挟まれた細い路地が目に入った。
「ん?」
塀とは私有地を明確に主張し表す境界線。その塀が途切れ、隣家との間に隙間が出来ている。隙間は1メートルにも満たない人幅ギリギリくらい。こんな隙間を空ける意味は無い、普通私有地一杯どころか領土を寄越せとばかりにはみ出すくらいに塀で囲う。
ならこの隙間は両隣の家の土地じゃ無いということか?。っということは公用地。この道は公道なのか下は舗装されている。
こんな脇道地図には無いが、現実にはある。この脇道を抜けた先は何処に繫がっているのだろう?
地図に無い道、このフレーズが頭に浮かんでしまうともう止められない。それにもしかしたら案外事件の手掛かりがあるかもしれない。
一日待って明日通るという選択肢はなぜか浮かんでこなかった。
湧き上がる好奇心のままに俺は脇道に入っていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます