第40話 羽ばたき
バサーー、鯨が浮上するが如く時雨の上半身が渦の表面から飛び上がった。
だがこれでは、また渦に飲まれるだけだ。
時雨は両手を伸ばして背を反らすと、渦の表面を両手で叩いた。
「はっ」
高速で叩かれ硬化した水面に支えられ下半身が渦から抜け出し、奇跡とも言える体術で水の上倒立をする。
程よく付いた背筋が盛り上がり、指の先から足の爪先まで美しい弓なりの曲線を描いた時雨の体。
そのまま倒立前転を行っていく。
軟体動物のように滑らかに体がしなやかに動いていき、足が水面に付くと同時に水面を蹴った。
陸上のクラウチングスタイルの如きダッシュ。
渦の螺旋力に逆らい向かうことで相対速度を稼ぎ水面を硬化させ、濡れた半紙の上を破かず走れるほどの足裁き、二つが重なり体術の芸術を描く。
パシャパシャパシャ、まるで水たまりの上を走るかのように時雨は渦を駆け上がっていく。
駆け上がりつつ、左手に音叉、右手に小太刀が握られる。
ぶんっ、時雨は羽ばたくように左手を振り空気を叩く。
タイミングを少しでも間違えれば飲まれてしまう渦の上を駆け上がるだけでも驚異的なのに、時雨は音叉で空気を叩き小太刀を共鳴させる。
共鳴させた小太刀を羽ばたかせ旋律が紡ぎ出されていく。
「この状態で旋律を奏でるというの?」
余裕綽々だった鵡見の顔に恐怖が浮かび上がってくる。
巨大な渦を駆け上がる姿だけで、美しき舞い。
凍り付く寸前までに硬化し清められた湖。
雪降る中一羽の鶴が舞い降り滑る姿が幻想さえていく。
「雪月流 湖上の羽ばたき」
時雨は音叉を小太刀を羽ばたかせ、ひときわ高く舞い上がった。
それも渦から脱出する外じゃ無い、渦の中心に向かって時雨は羽ばたいたのだった。
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