「店内消失」問題編

第84話「潜入捜査」

 ピース・メイカーであるレオポルドはとある店の前まで来ていた。


「これが例の店か?なんか結構さびれてるな」

「まあ、そうですね。……あの、今回の仕事ですけど、わざわざレオポルドさんが来る必要ないですからね」


 レオポルドの横に立つ部下のドロシー。二人はいつも着ている制服ではなく、私服を着ている。

 非合法の薬品の売人が今から向かう店に出入りしているという情報を得た特殊騎士団は、張り込み及び重要参考人の尾行を行うことにしたのだった。

 特に危険も少ないと見られ、部下たちで仕事を済ませるつもりだったのだが、レオポルドは他の仕事を押し付けられそうになったため、部下の仕事に首を突っ込んできたのだった。


「えーっと、あの店の店主が誰だっけ」

「ウィザードですね。ホッキョクグマの獣人と人間の間にできたハーフの人間で、見た目はほとんど人間みたいですね。特に変わった魔法やスキルを使うという情報はないですね」

「そうか。……で、何を販売しているんだ?」

「……あの、どうせ参加するなら少しくらいは資料に目を通してくださいね。えーっと、簡単に言えばある時間内であれば、力、速さ、防御力が急激に上昇する薬品みたいです。ただ、副作用と言うか、40%くらいの確率で飲んだ人物の体が制御不能になるようです。ここ最近その薬を飲んだ人による傷害事件が多発していますね。幸い死者は出ていませんが」

「そうか」


 ちゃんと聞いているのか聞いていないのかよく分からない感じで相槌を打つレオポルド。


「……で、何人が張り込んでるんだ?あそこに二人いるけど」

「はい、あの入口を見張る形であの森の辺りに二人います。それと、A町とB町の入口にそれぞれ二人ずついます」

 

 ドロシーたちが見張っているお店はA町とB町のちょうど中間地点に存在し、切り立った断崖に建物の側面を挟まれるようなかたちで鎮座している。

 また、建物の裏には崖に囲まれた一本道があり、大きな川にかかった橋を超えるとA町につながっており、そこもドロシーの仲間が見張っている。

 B町の方から歩いてきたレオポルドたちは、同じくB町からやって来た店主のウィザード以外だれも店に出入りしていないということは確認していた。

 レオポルドは張り込みに気づいたが、普通の人間は全く感じることができないくらい気配を消して張り込みや尾行を行っている。


「ま、雨の中外にずっといるのもあれだし、雨宿りでもするか」

「え?ちょ、ちょっと……」


 レオポルドはスタスタと店の中に入る。ドロシーは仕方なくついて行く。

 レオポルドが扉を開けると、カランと鈴の音が鳴った。

 中にはドロシーの見たことのない機材が置いてあった。それを見たドロシーは、直感的に異世界からやって来た人物が発明したものだと感じ取った。


「これなんですかね?」

「確かトウマが言ってたけど、アーケードゲームって言うらしい」

「アーケードゲーム……」

「まあ、なんか遊ぶもんだよ。……えーっと、これでもやろうかな。パック○ン」


 そう言ってレオポルドはある台の前に座り、ゲームを始める。

 ドロシーはその様子を後ろから眺める。黄色いキャラを操作して画面上のドットを食べていく。画面にはレオポルドが捜査している黄色いキャラ以外に赤や緑色のモンスターのようなキャラもいて、レオポルドはそれをよけつつドットを食べていく。そんなドットの中には、少しサイズの大きいドットがあり、それを黄色いキャラが食べると、追いかけていたモンスターの色が変わった。

 するとレオポルドは黄色いキャラをすぐさま方向転換させ、青くなったモンスターを噛みつき、食べ始める。すると、スコアと書かれた数字が上がっていく。

 順調に進めていたレオポルドだったが、最後のモンスターに噛みつこうとしたタイミングでモンスターの色が元に戻り、それに触れた黄色いキャラが触れてゲームオーバーとなった。


「残念でしたね。……それにしてもこれやったことあるんですか?ずいぶん操作が上手でしたけど」

「ん?いや、初めてだぞ。まあ、噂には聞いてたけどな」


 そう言いながら、別の台の前に座り別のゲームを始めるレオポルド。

 普通に遊んでいるレオポルドを見て、ドロシーはため息つきつつ、建物内を観察する。

 こじんまりとした店内には十台くらいの機械が置いてある。壁際にはテーブルと椅子が置いてあり、テーブルの上には器いっぱいに入った調味料類が数本置いてあり、さらには飲み水も置いてあった。おそらくここは食事をするところだろうとドロシーは推察した。

 入口の奥にはカウンターがあり、何やら絵の描かれたカードがたくさん置いてあった。それがどういうものかはドロシーにはよく分からなかった。

 一通り店内を見回ったドロシーは再びレオポルドのところへと戻った。


「どうだった?」

「特にこれといって怪しいものはなかったですね。……それで、レオポルドさんはこれからどうするんですか?」

「ん?あーそうだな………」


 レオポルドは少し考え込むと、


「あのーすいませーん」


 とカウンターの奥に向かって呼びかけた。


「はーい、どうされましたー?」


 すると、カウンター奥の部屋から金髪頭の三十過ぎの男、ウィザードが出てきた。


「いや、ちょっと話を聞きたいんですけど、ここにある機械って何なのかなって。見慣れないものですけど」

「あーそうですよね。私もこれについてはよくわかってないんですよね。なんか別の世界から来た人がこの店を作ったみたいで、私はそれを引き継いだだけなんですよ。まあ、別の世界からやって来た人とかが懐かしい、なんてよく言ってますね。そんなにお客は多くないですけど、まあ、固定客は結構いますよ」

「そうなんすね。ちなみに、これは?」


 レオポルドはカウンターの上にある小さな箱型の機械を指さす。


「あ、これですか?私もよく分かってないんですけど、この機械のボタンを押すと、この画面が変わるんですよ。ちょうど時間なんで変えてみますね」


 ウィザードが機械に何かを打ち込むと、カウンター奥の壁に取り付けられたモニターの画面に変化が起きた。

 元々モニターには大きな剣を持った緑色の髪の男の絵が映っていたのだが、青い髪の、魔法の杖を持った女の人の絵に変わった。


「……これは?」

「はい、ここで販売しているカードゲームのキャラクターです。大体三時間おきにこうしてイラストを変更しているんです。なんかこういうことをすると売り上げが良くなるなんて聞いたことがありまして。まあ、これを見るお客がそもそもほとんどいないんですけど」

「へえ。にしてもたくさん種類がありますね」

「そうなんですよ。私も全部を把握はしてないんです。まあ、私がしてるのは被らないように画像を出すように気を付けるくらいです。……それでどうです?このカードゲーム、興味ありませんか?」

「あー……まあ、また今度来たときでいいです。予定があるんで、とりあえず失礼しますね。また来ます」


 レオポルドはそう会話を切り上げ、店の外へと出る。ドロシーもその後をついて行く。



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「店内消失」は一日一話ずつ更新していきます(全6話)

 毎日21時頃更新予定

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