第80話「事件の捜査はお任せください」

「それで、まず最初になにをいたしましょう?」

「事情聴取よ。ね、トウマ」

「まあ、そうだな。……二人でするのか?」

「私もトウマと一緒に捜査に出てるからね。任せて」


 ウインクで答えるマリア。とりあえず一人ずつ話を聞くという事で、最初はホークが呼ばれた。


「マリア様、何を尋ねればいいのでしょう?」

「まあ最初は私に任せて」


 そうして連れてこられたホークにマリアが質問をぶつける。


「こほん。えーそれでは少しお話を聴かせてもらいます」

「はい」

「………ご趣味は?」

「お見合いかよ」


 いかんツッコんでしまった。


「……今の質問はなしで。えー……ガトーさんが毒を飲まされて殺されそうになったわけですが、ぶっちゃけこいつやりそうだな、っていう人はいますか」

「今度はストレート過ぎるだろ」


 ホークはものすごく困った顔をしている。ただ、ゆっくりと口を開く。


「昔――パーティーを組んでいた頃はケンカとかもしたことはありますが、そこまで長引くようなものでもありませんでしたし、大人になってからはそんなに頻繁に会ってないですからね……今日も半年以上ぶりに会いましたからね」

「付き合いはどれくらいなんです?」

「私がパーティーの皆と会ったのは魔法学校時代ですね。十五歳のときに三人と出会いましたね。たしか、アダムズはガトーとはもっと小さい時、五歳とか六歳ぐらいの時からの友達だったはずです」

「そうなんですね………」


 そう言って黙るマリア。


「いや質問もう終わりかよ。まだあるだろ」

「えー……ローラちゃん、何かある?」

「はい。犯罪が起こるのは、金か女が関係していると聞いたことがあります」

「いや、それだけじゃないと思うぞ」

「それでですね、お金のトラブルとかはなかったでしょうか?」


 とローラ姫がホークに尋ねる。質問内容で言えばマリアよりまともかもしれない。


「お金のトラブルですか……みんなきちんと働いていて、お金に困ってるとは聞いたことないですね」

「お金の貸し借りはなかったということですね」

「ええ」


 まあ、四人の中だとホークが一番稼いでるっぽいな。身につけているものとかを見ると。反対にスティーブンはずいぶん質素な気がする。


「女性関係の問題はどうでしょう?」

「はあ。ガトーは独身で、今特に付き合ってる人はいないんじゃないですかね。いえ、詳しいことは知らないですが」


 四人の中ではホークが唯一の既婚者だ。


「でもあなたパーティーの紅一点のメンバーと結婚したんでしょ?なんかはあったでしょ」


 というマリアの質問に、ホークはものすごく戸惑った様子で横にいる俺の方を見る。俺はどのみち調べればわかるから、正直に話してください、と言うにとどめる。


「正直言って、他の三人がレイチェルのことをどう思っていたかは分からないです。強いて言うならガトーはレイチェルのことを思っていたかもしれませんね。アプローチをかけていると思ったからこそ、少し早めにプロポーズをしましたから」

「へー」


 マリアはあまり興味なさそうに返事をする。お前が聞いたんだろ。


「でもあれだよね。もしレイチェルさん絡みの問題だったら、狙われるのはホークさんになるわね」

「ま、まあ、そうなりますね。それに、結婚してもう十年を超えますからね。今更な気もしますね」

「じゃあ他の理由でガトーさんの命を狙うような人はいると思います?」

「いや……分からないですね。さっきも言ったように、みんなに会うのは久々なので。そもそもこの国に帰ってきたのも今日の昼なんです」


 ホークは仕事でここ一週間第三の大陸にいたという。

 ちなみに、この世界は五つの大陸から成り立っており、俺が暮らしているエレシウス国は第一の大陸になる。すると、ローラ姫が代わって質問をする。


「世界各国で商売を行われているそうですが、お仕事は大変なのでしょうか?」

「ええ、まあ大変なときはありますが、行った先々で観光したりできますし、余裕もありますよ。よく妻からあれを買ってきて、というようなおつかいも頼まれますよ」

「そうなんですね。では、カップルにお勧めの名所などありますか?」

「え?」

「ローラ姫、それ自分が聞きたいだけですよね。もうあれなんで、次アダムズさんを呼んでください」 


 ユノが脱線しそうになった話を止め、次のアダムズを呼ぶように伝えた。





「それでは、いくつか質問をさせてもらうわ」

「は、はい」


 やってきたアダムズは、一回り以上年下の俺たちに緊張したままだ。


「……えーあなたが森を歩いていると、前からとある動物がやって来ました。その動物とは、オオカミ、タヌキ、リスの内どれですか?」

「心理テストかよ」

「えーっと、リスで」

「あんたも答えなくてもいいから」


 そう言った俺に対しマリアは、


「ちょっとトウマ、これは作戦だから。質問のハードルを少しずつ上げていく事で、言いにくい質問にも答えてもらうっていう作戦なの」

「あーさよか。本人目の前に言ってる時点であれだが、じゃあ次の質問してみろよ」

「こほん。老若男女手術中と五回言ってみてください」

「言いにくい質問ってそういうことじゃねーだろ」


 さっきから全然話は進んでない。仕方なく俺から質問する。


「最近のガトーさんはどうでしょうか?何かトラブルとかは?」

「トラブルですか。いえ、特にそう言った事はないかと、はい」

「ガトーさんとは一番付き合いが長いんですよね?人と揉めたりとかそういうことはありそうですか?」

「た、確かに、子どものころから知っていますが……むしろ誰とでも仲良くできるような奴ですよ、はい」


 それこそ老若男女問わず、如才なく人づきあいの出来る人間だという。これまでも色んな女性と付き合ってきたらしいが、別れ話がこじれるようなこともなかったという。


「一応同じ街にいるので、ちょくちょく見かけたりすることはありますが、昔ほど一緒にいることもないので、最近のガトーのことを詳しくは言えませんが、はい。それに、ここ最近、新しい店舗の開店準備でパトロクロス国の方にいたんです」


 パトロクロス国とは、このエレシウス国から西へ行ったところにある少し小さな国だ。そしてアダムズはちょうど三日前に新しい店を開いたらしい。


「どのようなお店なのですか?」

「はい、ケーキを中心に扱った店です。この街にある店がかなり売れ行きがよく、新たなお店を開けることになりまして、はい」

「そうなんですね。私、甘いものが大好きなので、お店の方にお邪魔させていただきますね」

「は、はい、お待ちしております、はい」


 ローラ姫がお店に行く約束をしたところでアダムズの事情聴取が終了することに。

 


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