第52話「調査開始」

 事の発端は、数日前の地震だったという。

 地震そのものはたいして大きくなかったものの、長い間にわたって雨風にさらされ続けてきたせいで土砂崩れがおき、山の斜面からその建物が出てきたという。そしてその建物が大昔に建てられたものだろうと予想されたため、考古学者であるローレンスがやって来たという。


「まず、建物周辺の地質などを調べた結果、この建物が埋もれたのは大体5000年ほど前だということが分かりました」

「建物が埋もれるって結構なことだと思うんですけど、よくあることなんすか」

「ええ。大昔は山とかがよく降ってたみたいですし、おかしくはないですね」

 そうなんだ。それを聞いておかしいと思うのは俺だけか。さすが異世界。

「そして、この建物に使われている石ですけど、これも年代的におかしくはありませんでした。建物内にある机や用具入れも、大体5000年前のものでした」

「そうなんですね」

 そう言いながら用具入れを調べる。大きさとしては、人ひとり余裕で入れるくらいの大きさだが、中は空っぽで、どこかにつながる秘密の通路のようなものはなかった。

「で、この壁とかにはられている紙は、のりかなんかでくっついてるんですか」

「ええ、そうですね。植物からつくられた接着剤で、大昔から存在しています。建物が土に埋まっているおかげか、はがれずにこうしてくっついているみたいです」

「それで、いざこの建物内に入って調査をしようとしたのですが、扉がびくともしなかったんです。そこで、扉ではなく壁の石を切り取って、出入り口を作りました」

 ローレンスは鋭い刃を持つ少し大ぶりなナイフを見せる。

「石と石の間にナイフの刃を入れ、石を積み木を抜くような感じで、人が通れるくらいの穴をあけました」

「ただ、中が目張りされてたんで、結構開けるのに苦労したんですよね」

 とハワード。

 建物の外には、壁から引き抜いた石のブロックが置いてあり、そのどれもに紙がこびりついている。

「それにしても、壁に穴を開けて建物は崩れなかったんですね」

 ぼんやりと建物を見ながら、俺は思った事を言った。

「まあ、そこは気を付けていました。それと、どうやらこの建物、特別な力が込められているようなんです」

「特別な力?」

「ええ。この建物の地下に、とあるものが封印されているようで、それを保護するためにこの建物が建てられているみたいなんです」

「へえ。その割には建物の中は結構殺風景ですけど」

 封印というからには、魔法陣だとかなんか色々な道具とか必要な気がする。

「それはこの建物が存在することで、その地下の物を封印してあるようなんです」

「ねえ、その地下に封印されているものって何かわかるかしら」

 横からマリアが口をはさむ。

「それですが、呪いの盾のようです」

「それは興味深いわね。さっそく掘り起こしましょう」

 目を輝かせるマリア。

「あほか。太古の昔に封印されたあぶねーもんをわざわざ取り出すやつがいるか」

「大丈夫よ。私呪いにかからないペンダントを装備してるから」

「いや、俺たちが大丈夫じゃないんだよ」

 5000年も前のアイテムは見たことがないから、らしいが、好奇心旺盛なのもほどほどにして欲しい。

 そんな俺たちのやり取りをうけ、

「まあ、呪いの盾と言っても、時間が経っているので、呪いの効力はほぼ消えているだろう思われます」

 とローレンスが取りなすように言う。

「ちなみに、呪いってどんな呪いなんです?」

「ええ、それを装備すると、朝起きた時、布団があったかくて抜け出せず、働くことができなくなる呪いです。

「それ封印するまでのものなのか⁉」

 ただのニート製造機だった。

「それがかなり被害をもたらしたそうです。文献によると、その盾のせいで国が三つほど滅んだそうです」

 すげえな。そんなお布団から出られないだけで国が滅ぶのか。


「……それで、この建物は特殊な力がかかっていたっていうことだけど、結界みたいなものなんですか?」

 話を元に戻す。

「そうですね。まず、この地中深くに呪いの武器を埋め、その上にこの建物を建てます。そしてその建物を覆うように結界を張り、封印が完了するというかんじですね」

「その結界って、人の出入りを制限するものなんですか?」

「いえ、違いますね。純粋に呪いを封じるための結界であり、もう一つは、魔法を封じるためのものですね」

「魔法を封じる……つまり、使、ということですか」

「はい」

 マリアの持っている道具でも確認したが、この建物内で魔法を使用することが出来ず、さらには建物の外から中に向けて魔法を使うことも出来なかった。つまり、建物の外からサイコキネシス的な力で閂を動かしたり、壁の中の目張りをするのは不可能ということだ。

「えーっとつまり、このミイラの手足を縛り剣を刺した犯人は、その手で紙で建物内に目張りをして、閂をした……ってことね」

「魔法が使えないとなると、そう言う事になりますね」

 そして、建物の隅々を調べたが、出入口は一つだけだった。

 うん、これは結構しっかりとした密室なのかもしれない。



「えーっと、この扉が開かないということが分かって、扉の横の壁に穴を開けたわけだけど、そこが元々何かしらの細工がされていたとかそういう訳じゃないんですよね?」

「ええ。石のブロックにしてもそうですし、内側に貼ってあった紙の目張りについても、特に細工はなかったと思います」

「……それじゃあ、そろそろ扉でも開けてみましょうか。まだ手を付けてないんですよね?」

「ええ」

 まずは扉の周辺に貼られた目張りを剥いでいく。そして、ハワードが重たい閂をスライドさせる。その際、ぎりぎりと少し不快な音がした。

 閂を鎹から外し、扉を外から押し開けてみる。少し重たいだけで、特に変わった仕掛けなどは見当たらなかった。

「うーん……いわゆる糸とかを使って閂をはめるっていうのは無理そうですね」

「そうっすね。結構重たかったんで、外からどうこうするのは難しいと思います」

 実際ハワードが言う通り、閂だけで数キロあった。

「それに、扉の周りの隙間は内側から塞がれていたものね」

 マリアの言う通り、建物の外からどうこうできる感じがしない。

 この後、建物内をもう一度詳しく調べたが、何も手掛かりはつかめなかった。

 建物内にある机、その上に置いてあった壺、用具入れ、死体及び身に着けていた衣服や凶器である剣を事細かに調べたが、新しい発見は一切なかった。


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る