第48話「この中に1人犯人がいる」
「なるほど。その会沢という男を殺害した犯人が誰かを見つければいいってことか」
これまでの経緯を聞き終えた俺とマリア。
島で生き残った小金井達の話も聞き終えた。
「ええ。……それで、分かりそうかしら?」
俺はそれには答えず、
「まず聞きたいんだが、小金井達の話を聞くに、会沢が殺されるよりも前に、牧坂と細木はモンスターによって殺されていると思うんだけど、それは間違いなさそうか」
とユノに聞いた。
「ええ。それは間違いないと思うわ。まあ、ハガという男の死体は確認できてないから、あれなんだけど、三人ともそう証言しているから、ハガという男と、マントを被った男も、アイザワという男が殺されるよりも前に死亡していたとみて間違いなさそうよ」
「じゃあ、屋代、菊田、深尾の三人については微妙なところってことか」
「ええ。その三人については、アイザワが殺された前に死亡したのか、あとに死亡したのかは微妙なところ」
「ってことは、会沢を殺害した犯人が魔物によって殺された可能性も十分にあるってことか」
うなずくユノ。
「ねえ、今思ったんだけど、この階に魔物はいなかったの?」
あたりを見渡しながらマリアが聞いた。
俺たち三人は、現場である建物に来ていた。死体は移動しているが、念のため現場の様子を確認しに来たのだった。
マリアの言う通り、会沢の死体が発見された四階には、魔物の死体は見当たらなかった。一階から三階、そして五階と屋上にはユノやその部下たちによって倒されたモンスターの死骸やその痕跡が残っていた。
「ああ、この階にはね。どうやら、この紙のせいだろうと思うんだけど……」
といって、ユノは数枚の紙を取り出した。
「……お札か?」
ユノが持っていたのは、呪いとかを封じることのできそうなお札だった。
「知ってるの?」
「ああ、たぶんこれ、悪い霊とかを防ぐ紙みたいなもんだよ」
「トウマの世界の呪い封じの呪文みたいなものね。……で、この紙が廊下の入り口に貼られていて、その紙によってモンスターたちはこの階に入れなかったみたい」
ちょうど階段と廊下の境目のところにお札があったせいで、階段を上ってきたモンスターたちは、四階を通過して五階や屋上に向かったらしい。
「で、ここが死体発見現場よ」
そこは古びた教室だった。凶器のいすはまだ床に置きっぱなしだった。
「なあ、凶器に指紋は?」
「ついてなかったわ。たぶん素手で触ったんでしょうけど、拭き取られた跡があったし。で、ひもの方は調べられないから分からないわ。両手で触っているであろう痕跡はうっすら残ってたけど、調べきれなかったわ」
指紋を調べる捜査自体最近できたもので、布とかそれに近い素材のロープの指紋を調べるのはまだ無理なのだ。
「そうか。…で、犯行現場もここでいいんだよな?」
窓から外を見ると、ちょうど真下にクモ型の魔物の死骸があった。古い建物ながら、割と四階でも高い印象を受けた。
「ええ。正確に言えばこの部屋の入り口ね。ここで犯人は首を絞めて、頭を殴った。致命傷を負った被害者はよろよろと歩いて、この窓際まで来た。頭を殴られて、しばらくしてから息を引き取ったと見られる。この窓枠の下の壁のところ分かる?血の付着した手で何か書こうとした形跡がある。まあ、なんて書いてあるかは分からないんだけどね。それと、全く別のところから死体が運ばれた痕跡はない。まあ、いくら被害者の体重が軽いからって、さすがに部屋の外から持ち込むのは難しいと思う。というか、わざわざそんなことをする理由が見当たらない」
ユノは壁にある血の汚れを見せる。小金井達に会沢の死体を確認してもらった時に気がついていたが、あえて触れなかったそうだ。部屋の入口からも、何か血で汚れているのは確認できる。
近くで見たが、特に何か文字を書いたとかそう言ったわけではなさそうだった。
頭の出血はそれほどでもなく、被害者は血のにじんだ頭に手をやり、指に血をつけてから、壁に何かを書こうとしたらしい。
「まあ、それは同感だな。……で、今回召喚魔法を使った男だけど、こいつについては何かわかってるのか?」
「ええ。最初は組織に属しているのかと思ったけど、そうじゃなかったみたい。かつて隣の大陸のある国の騎士団に属していた男で、退団した後は職を転々として、割と厳しい生活を送っていたみたい」
「へえ。そんな男がまたなんで召喚魔法なんか」
「金のためね。召喚魔法でも、この転送召喚魔法は、別世界の建物ごとこっちの世界にもってくるから、この世界にない資源とかそういうのを狙って起こすやつがいるのよ。で、この男もそういった類だと考えられているわ」
「魔物を呼び寄せたのは?」
「別に呼び寄せようと思って呼び寄せようとしたわけじゃないと思うわよ。こういう転送召喚魔法を使うと、世界と世界をつなぐ門的なものが緩くなって、今回みたいな魔物が入り込んでくるのよ」
マリアの説明にユノもうなずいた。
また、隣の大陸で起こった獣災についても、今回この島で起こったこととは関係がないことが分かっている。
「この島にいたのは、十人とそのマントの男以外にはいないんだよな?」
「ええ。もちろん、別の世界から出入りした人間もいなかった」
マントの男がこの島をこの世界に転送した瞬間、島を覆う結界が張られたみたいで、それをユノが破壊するまで誰一人として出入りできなかった状態だったそうだし、ユノ達がこの島に来たときにはすでに生存者は小金井達三人だけだった。
つまり、会沢を殺害した犯人は、小金井、青木、根津、深尾、菊田、屋代の中の六人の中にいるということだ。
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