第9話「それでは捜査を開始します」

「えー俺はレオポルドって言います。ま、よろしくー」

 なんだかやる気のなさそうな表情をした二十代前半くらいの男が魔王の間に入って来た。

「ピ、ピース・メイカーかよ……」

 三人の獣人の誰かがそう呟いた。そこには畏怖のようなものも感じ取れた。

「なあ、ピース・メイカーってなんだ?」

 俺は傍らにいるマリアにこっそり聞いてみる。

「その名の通り、平和をつくりし者たちね。国と国との争い……戦争とかを収めることもするし、天災を引き起こすとも言われるモンスター……伝説のドラゴンとかを倒して人々を守ったり。エリートぞろいの特殊騎士団の中でも、ずばぬけて強い人たちがいるグループね」

 要はめっちゃ強い人たちの集まりがピース・メイカーで、今目の前にいるのがその一員であるということか。

 長身で結構ひょろく見え、顔はとってもだるそうな表情はしているが、ただものじゃない気はする。

「まあ、魔王城を運営している魔王が殺されたんだから、大事にはなるとは思うけど、ピース・メイカーが出てくるほどじゃない気がするわね。

「いやいや、あのルキナ家が事件だと連絡してくれば、ピース・メイカーも出てきますよ」

 俺とマリアの話を聞いていたのか、レオポルドが苦笑いしながらこちらに話しかけてきた。

 マリアの家は、貴族のなかでもかなり影響力のある家だということだ。まあ、普段のポンコツぶりを見る限り、そんなこと感じたことはないが。


「で、とりあえずここで起こった事件について捜査するんだが……なにからすればいいんだ?」

 とレオポルドは俺とマリアの方を見て言ってきた。

「いや、捜査する側がそれ聞くのか?」

「いやだってさー、俺殺人事件の捜査なんてしたことないぜ?しかも魔王城で魔王が殺されるっていう、わけわからん事件だし」

 そもそもこの世界では殺人事件なんてめったにないらしい。数だけで言えば、日本の方が多いみたいだ。

 でもそれを差し引いても、レオポルドからはやる気が感じられない。

「まずは名前を聞くところから始めたらどうかしら。まだ、この三人の名前も知らないわけだし」

 と冷静にマリアが答える。

「それもそうだな。じゃ、あんたらの名前とか教えてくれるか?」

「はい。私はステューシーです」

 と猿の獣人が最初に答える。

「えーっとライです」

 つづいて鳥の獣人。

「僕はミラ」

 最後に犬の獣人。

 三人きれいに並んでいた獣人たちは、レオポルドにそう言われ、緊張しながら名を名乗った。

 それぞれ、顔や体には、動物らしい毛とかが生えているが、体つきは割合人間に近い気がする。普通に俺たちと同じような服も来てるし、手や足も人間に近い。

 これは後で聞いた話だが、獣人にもその濃さがあるらしく、人間に近い種族もいれば、動物に近い種族もいるんだとか。この三人は人間に近い種族だ。

 レオポルドはそれを聞いて一つうなずき、

「はい。えーそれじゃあ、この中で魔王を殺したのは誰ですか。いたら正直に手をあげてください」

 と言って三人を順に見つめる。


「いや、雑か!そんなんで犯人が名乗り出るわけないだろ!」

 思わずツッコんでしまった。

「だってしょうがないだろ?超大物モンスターとかなら喜んで倒すけど、こーゆー事件の捜査とかまじでわかんねーだよ」

「じゃあ、他の人とか呼べばいいんじゃねーの?つーかなんで来たんだ?」

「え?そりゃ万が一ルキナ家のお嬢さんが、何か危険なことに巻き込まれたりしないようにするためとか、万が一何かしらの犯罪行為に手を染めていたら、全力でそれをもみ消したりとか、事件解決で何かしらの借りを作っておこうとかそういう意図があるんだろ。俺は上司に言われてしぶしぶな。権力には弱いから」

 あっけらかんと言ってのけるレオポルド。

「正直に全部言ったな。もみ消すとか何気にこえーな」


「ま、安心して。ピース・メイカーの手を煩わせなくても、ここには『名探偵』がいるんだから」

「…『名探偵』?……職業のことだよな?」

 不敵に笑うマリアを見て俺は不安になる。

「ええ。『名探偵』って事件を解決するものなんでしょ?だからこの事件、全部『名探偵』であるトウマに任せればいいと思うの」

「そうなのか。俺としては、ルキナ家のお嬢さんの言葉に逆らう気なんて毛頭ないし、事件の解決はまかせたぞ」

 ポン、とレオポルドに肩を叩かれた。

「いや、少しは異論となえろよ」

 やっぱりこういう展開になったか。思わずため息がでてしまう俺だった。


 

 

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