デュオ


(売れたい………)

そう思った

なんとかしてヒットを飛ばしたかった

今まではそんなこと考えたこともなかった

おれたちはおれたちのやりたい音楽をやる

その結果、それが受け入れられなければそれは仕方のないことだと思っていた

今は心が折れそうなんだ

どうしてあいつらが売れているのにおれたちは売れないんだ?

そんなことばかり考えてしまうんだ

おれたちはデュオ

ここ湘南に新たな風を吹き込むことをコンセプトに結成された

一昨年の夏にデビューした

全くと言っていいほど売れなかった

もはや身内ですら買っていないのではないかと社内で噂された

「………なあ、どうしておれたちの音楽って売れないんだろうな?」

一度、相方のファンタジスト田中に尋ねてみたことがある

「………」

黙り込むファンタジスト

答えの出ないまま突き進むしかないのか?

「あいつら田舎に帰ったらしいぜ」

ようやく相方がぼそっと口を開いた

この間、一緒にイベントをやった連中のことだ

「レコード会社の契約が切れたんだってさ、おれたちももうすぐだよな」

去年の今頃なら余裕で笑えた話しなのだが

背水の陣で挑んだ新曲

『パン職人に魅せられて』

もしこれがヒットしなければ契約の延長はまず望めない

使い捨てのおれたち

季節は流れた

『パン職人に魅せられて』はチャートの圏外で生まれチャートの圏外で死んだ

焼酎がぶ飲みでミュージックステーションを眺めた

「お前ら、おれたちなんか最初から存在しないみたいな素振りしやがって!」

段々、腹が立ってきた

三ヶ月ぶりに与えられた仕事は社内の犬の散歩

嫌がらせとしか思えない

譲れないものをゆずってゆずのような曲を書いた

だがそれすらも売れない

もはや自分たちが何をやりたいのかもよくわからなかった

金が無い

結局はそこへ行き着く

樹液でも啜れってか?

おれたちの代わりなら幾らでもいた

いつか特別な存在になりたかった

その自信もあった

だが現実は甘くない

フルーツパフェみたいなあんなキラキラした世界は嘘なんだと知った


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