春の首吊り死体、祭り


首吊り死体がぶら下がっていた

街路樹の至る所に

その列は両側に長く伸び

おれたちを見下ろしていた

首吊り死体の群れはまるで果てが見えなかった

そしておれの靴下は片方ずつ別の物だった

(………引き分けだな)

何となくそう思った

首吊り死体の脚がぶらんと垂れて

すぐ目の前にあった

なんだかおれは愉快な気持ちになってきた

「メリークリスマッシュ!」

四月の半ばにそう叫んだ

首吊り死体は何も言わなかった

きっと感想が無いのだろう

よくあることだ

この世界がまるで他人事のように思えるのだ

おれは袋からおみやげを取り出した

「はいあげる」

死体に自分の腕ごと突き出した

あとこれは自分用、と言って笑いながら別の袋からもう一つ取り出した

圧死したコロッケパンだった

これを買い求めるためだけに人が刺したり刺されたりするコロッケパンだった

首吊り死体はそれを受け取らなかった

必要が無いからだ

死体にはコロッケパンも酸素も必要無い

月の光が生者と死者を平等に照らしていた

人生はパーティーだ

そう思った

だからクラッカーを片っ端から派手に打ち鳴らすべきだろう

首吊り死体がそよ風にゆっくりと一回転する

そしてまたおれと出会った

おれは持っていたコロッケパンを北北東に投げ捨てた

今なら頭上いっぱいに広がっているあの星空に手が届く気がした


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