切れ目を入れて縦に裂け

雨矢健太郎

人生


おれの好物はパイン缶

それが冷蔵庫の中にあれば取り敢えず満足

でも所詮、何かを誤魔化しているだけなのかもしれない

若いときは自殺しようと思って全裸で真冬のプールに飛び込んだこともある

水面がきっちり凍っていたおかげでたんこぶが出来ただけ

「うまくいかねえ」

そう呟いた

うまくいかないから死のうと思ったのにそれすらうまくいかない

仕方ないのでその日は帰ってリンスをして寝た

夢の中に埋没してもうそこから目覚めたくなかった

現実は辛いから

チーカマを盗みに入って体育館でボコボコにされる夢

猛烈な汗をかき飛び起きるように目覚めた朝

「もう朝かよ………」

一日の楽しみは終わった

のそのそと着替えた

容器の中の塩素水で喉の渇きを潤した

そしておれは気付けば大人になっていた

会社だ

「死にてえ」

呟いた

おれの深層心理がそう言わせたのだ

おれの意思ではない

テレビで今日の天気を確かめることにした

画面の中の天気予報士は言った

「晴れのち曇りのち雨のち曇りのち晴れのち………」

いつまで続くんだ?

一体いつまで続くんだ?

限界が近付いていた

(そろそろだな)

そう思った

だがそんな気がしているだけかもしれなかった

きっとおれは限界を越えないのだろう

つまりそれって何もかも平穏無事ってこと?

けれど人生ってこんなもんなのだろうか?

わからない

「パイン缶、食べたい」

そう呟いていた

冷蔵庫を開けた

パイン缶はもう無かった

匙を握り締めたまま立ち尽くしているおれ

これで眼球でも抉れということなのだろうか


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