敬老の日特別編:ふわふわ

 赤く染まった空。


 鬱蒼とした暗緑色の森。


 大地を流れる血の大河。


 

 ここは魔界。

 魔のモノ達が住まう禁断の地。



 その魔界の一角に聳える岩山には、白亜の城が築かれている。そして、城の中にある謁見の間では……


「よーし、モロコシ!今日はなんの日か分かるか!?」


 頭に三角巾を被り水色のエプロンを身につけたサバトラの仔猫が、凛々しい表情で仁王立ちをしていた。


 ペラペラの尖った耳。


 空色をしたアーモンド型の大きな目。


 ピンク色の小さな鼻。


 フカフカの白い手。


 ピンク色の肉球。


 シマシマの尻尾。

 

 その他もろもろの魅力満載の仔猫こそ、シーマ十四世殿下。

 魔界を統べる魔王の弟にして、キューティーでマジカルな仔猫ちゃんだ。

 そんなシーマの前では、三角巾を被り緑色のエプロンを身につけた茶トラの仔猫が、凛々しい表情を浮かべようとしながら立っていた。


「はーい!分かりまーす!」


 シーマより少し低い身長。


 飾り毛のついた小さな耳。


 ボタンのように丸い緑の目。


 ピンク色の小さな鼻。


 フカフカの白い手。


 ピンク色の肉球。


 シマシマの尻尾。

 

 やはりその他もろもろの魅力満載な茶トラの仔猫の名は、モロコシ。

 シーマ十四世殿下の友人にして、バッタの申し子だ。ちなみに、リンゴ農園のひとり息子でもある。

 シーマはモロコシの返事を聞くと、腕を組みながらコクリと頷いた。


「よし!じゃあ、なんの日か言ってみろ!」


「はーい!おじいちゃんととおばあちゃんの日でーす!」


 シーマの言葉に、モロコシは元気良く答えると、ピスピスと鼻を鳴らした。


「正解だ!よくやったな!モロコシ!」


「ありがとうございまーす!」


 二人は体育会系風味のやりとりを一通り終えると、うんうん、と頷き合った。


「ということで、お祝いのお菓子を作ろうと思うんだけど……モロコシは、何がいいと思う?」


 シーマが尻尾の先をクニャリと曲げながら尋ねると、モロコシはフカフカの白い手を口元に当てた。


「えーとね……あ、そうだ!去年お母さんと一緒にホットケーキを焼いたら、うちのおじいちゃん喜んでくれたよ!」


 モロコシが答えると、シーマは耳と尻尾をピンと立てながら目を輝かせた。


「ホットケーキか!それはいいな!」


「でしょー!」


 二人はそう言うと、再び、うんうん、と頷き合った。


「よーし!じゃあ、早速作りに行こうか!」


「うん!」


 そして、魔王城の台所に向かって、パタパタと駆けていった。

 そんなわけで、シーマとモロコシによる敬老の日大作戦が始まった。


 一方その頃、魔王城の台所では、クラシカルなメイド服を着た老女がニコニコしながら掃除をしていた。


 パーマのかかった短い白髪頭。


 顔に刻まれた深い笑いじわ。


 円らな瞳。


 老女の名は、森山はつ江。

 シーマの世話役として魔界に召喚された、御歳米寿のハツラツばあさんだ。


「ふーふふんふふーふふー」


 はつ江が鼻歌交じりに、コンロの周りを布巾で拭いていると、台所の扉が勢いよく開いた。はつ江が驚いて顔を向けると、シーマとモロコシが並んで立っていた。


「あれまぁよ!二人とも、可愛らしい格好してどうしたんだい?」


 はつ江が尋ねると、シーマは得意げな表情で、ふふん、と鼻を鳴らした。


「今からモロコシと二人で、ホットケーキを作るんだ!」


「おじいちゃんとおばあちゃんの日のお祝いだよー!」


 続いて、モロコシもシーマの真似をして、得意げな表情でピスピスと鼻を鳴らしながらそう言った。二人の言葉に、はつ江はニッコリと笑った。


「そうかい、そうかい!それは、嬉しいねぇ。二人とも、ありがとうね」


 はつ江はそう言うと、トコトコと二人に近づいて膝を屈めてフカフカと頭をなでた。シーマとモロコシは、目を細めて喉をゴロゴロと鳴らした。しかし、シーマはすぐにハッとした表情を浮かべると、顔を洗う仕草をしてからプイッとそっぽを向いた。


「べ、別に、そんなに大げさに喜ぶことでもないだろ」


 シーマが尻尾を立てながらそう言うと、モロコシも尻尾を立てながらニッコリと笑った。


「頑張るから、楽しみにしててねー!」


「そうかい、そうかい!でも、二人だけでお菓子作りなんて、大変じゃないかい?」


 はつ江が心配そうに尋ねると、シーマは再び得意げな表情で、ふふん、と鼻を鳴らした。


「安心しろ!ボク達にかかれば、そのくらい簡単だ!」


「はつ江おばあちゃんは、ゆっくりしててねー」


 シーマとモロコシが答えると、はつ江はニッコリと笑って、再び二人の頭をフカフカとなでた。


「分かっただぁよ!じゃあ、二人とも、楽しみにしてるね!」


 はつ江はそう言うと、どっこいしょ、と言いながら屈めていた膝を伸ばし、トコトコと台所を出て行った。シーマとモロコシははつ江を見送ると、顔を見合わせて、うんうん、と頷き合った。


「よーし!じゃあ、頑張ろうか!」


「うん!」


 二人は士気を高めると、早速ホットケーキ作りの準備に取りかかった。

 

 台所を探し回って、ホットケーキ作りに必要な材料と道具を用意していた二人だったが、調理台を前にして早速頭を抱えていた。


「うーん……冷蔵棚にミルクが入っていたと思ったんだけどな……」


 残念そうに呟くシーマの前には、ホットケーキミックス、卵、計量カップ、ボウル、泡立て器が並んでいる。しかし、シーマの言葉どおり、ミルクだけが無かった。


「ミルクの代わりに、お水で作ってみる?」


 モロコシが尻尾の先をクニャリと曲げながら尋ねると、シーマは片耳をパタパタと動かして、うーん、と呟いた。


「でも、折角だからな……ちょっと、街まで出掛けて買ってくるよ」


 そう答えたシーマは、フカフカの手で三角巾を外そうとした。

 まさにそのとき!



「ごめんあそばせー」



 キッチンの天井につけられた百合の形をした拡声器から、呼び鈴の音と共にゆったりとした声が響いた。


「あれ?お客さんかな?」


 モロコシがキョトンとした表情で尋ねると、シーマは三角巾を外す手を止めて、尻尾の先をクニャリと曲げた。


「来客の予定は無かったはずだけど……ともかく、行ってみようか」


「うん!行ってみよう!」


 二人はホットケーキ作りの準備を一旦止めて、パタパタと玄関に向かっていった。


 玄関にたどり着いた二人が扉を開くと、そこには背中に翼を持つ栗色の毛並みをした雌牛が、紙袋を手にワンピース姿で立っていた。

 彼女の名はハーゲンティ。魔界水道局の局長を務める、魔界インフラ界の重鎮だ。

 ハーゲンティは二人の姿を見ると、うふふ、と笑い声を漏らした。


「あら、殿下、モロコシさん。こんにちは」


 ハーゲンティの言葉に、二人は声をあわせて、こんにちは、と言うと、ペコリと頭を下げた。


「ハーゲンティ局長。本日は兄と打ち合わせですか?」


 シーマが尻尾の先をクニャリと曲げて尋ねると、ハーゲンティはゆっくりと首を横に振った。


「いいえ。昨日一昨日で、ちょっとした旅行をしていましたの。ですから、皆様にお土産を、と思いまして」


 ハーゲンティはそう言うと、中央に紺色の線が入った白い紙袋をシーマに手渡した。


「つまらないものですが、モロコシさんも一緒に召し上がってくださいね」


「ありがとうございます!」


「ありがとうございまーす!」


 シーマとモロコシは、目を輝かせながら尻尾を立ててペコリと頭を下げた。ハーゲンティはにこやかにその姿を見つめていたが、不意に何かに気づいたような表情を浮かべた。


「ところで、殿下。可愛らしい格好をなさっていらっしゃいますが、何かあったんですの?」


 ハーゲンティに問いかけられたシーマは、気まずそうな表情で、フカフカの頬を掻いた。


「えーと……実は、ホットケーキを作ろうとしていたんですが……」


「ミルクが無かったから、買いに行こうとしてたんです」


 シーマの言葉にモロコシが続くと、ハーゲンティは、うふふ、と笑い声を漏らした。


「あらあら、そうだったんですの。なら、ちょっとお手伝いさせていただきますわ」


 ハーゲンティの提案に、シーマは目を見開いた。


「え!?そんな、悪いですよ!」


「いえいえ、お気になさらないでください。先日、蘭子がお世話になりましたから、そのお礼ですわ」


 ハーゲンティがウインクをしながらそう言うと、シーマは再び気まずそうな表情でフカフカの頬を掻いた。


「ありがとうございます。なら、お言葉にあまえます」


「ありがとうございまーす!」


 二人はそう言うと、同時にペコリと頭を下げた。そして、うふふ、と微笑むハーゲンティを台所へ案内していった。

 台所にたどり着くと、ハーゲンティは計量カップを手に取って水場に向かい、蛇口を捻った。そして、必要な分量の水を注ぐと、目をつぶってゴニョゴニョと呪文を唱えた。

 すると、計量カップに入っていた水は徐々に濁り始め……


「……こんなものですわね」


 ……ついには、完全にミルクに変化していた。

 その様子を見たシーマとモロコシは、目を輝かせてから、深々と頭を下げた。


「ありがとうございます。ハーゲンティ局長」


「ありがとうございまーす!」


 二人の言葉に、ハーゲンティは、うふふ、と笑い声を漏らした。


「いえいえ。このくらい、全く問題ございませんわよ。はい、殿下」


 ハーゲンティはそう言うと、ニッコリと笑いながら計量カップをシーマに手渡した。


「ありがとうございます。でも、いつ見てもハーゲンティ局長の魔術は凄いですね……」


 シーマは計量カップを受け取ると、感慨深そうに声を漏らした。その隣で、モロコシも目を輝かせながら、楽しそうにピョコピョコと跳びはねた。



「うん!バッタ仮面ウイングさんみたいで凄いです!」



 モロコシの言葉に、シーマはギクリとした表情を浮かべ、ハーゲンティは笑顔のまま動きを止めた。固まってしまった二人を見て、モロコシはキョトンとした表情で首を傾げた。


「あれ?二人ともどうしたの?」


 モロコシが声をかけると、ハーゲンティは翼をパサリと動かしてから、うふふ、と笑い声を漏らした。


「なんでもありませんわよ。では、あまり長居をしては申し訳ないですから、私はこれでおいとまいたしますね」


 ハーゲンティはそう言うと、キッチンの窓辺まで足を進めた。そして、窓を開くと、ごきげんよう、と口にして、翼を羽ばたかせながら空の彼方へと去っていった。

 シーマとモロコシは手を振りながら見送っていたが、ハーゲンティの姿が見えなくなると、顔を見合わせて頷き合った。


「よーし!じゃあ、改めてホットケー作りを始めようか!」


「うん!」


 そう言うと、二人は調理台のもとにパタパタと向かっていった。

 それから、二人はテキパキと作業を進め、ホットケーキの生地は無事にできあがった。そして、あとは焼くだけ、という段階になったのだが……


「よ、よーし……フライパンの準備はできたぞ……あとは、火を点けて焼くだけだ……」


 ……フライパンをコンロの上に載せたシーマは、耳を伏せて尻尾の毛を逆立てていた。怯えた様子のシーマを見て、モロコシは心配そうな表情を浮かべた。


「殿下ー、怖いなら、ぼくが代わろうか?」


「な、何を言ってるんだ!別に怖くない!それに、子供が火を使ったら危ないだろ!」


 モロコシが声をかけると、シーマは尻尾を縦にパシパシと振りながら抗議した。すると、今度はモロコシが鼻の下を膨らませながら、尻尾を縦にパシパシと振った。


「むー!大丈夫だもん!それに、殿下だって子供じゃない!」


「な、なんだと!?」


「こらこら、二人とも何をケンカしているんだ」


 シーマとモロコシがイザコザしていると、背後から男性の声が響いた。二人は驚いて飛び上がると、胸の辺りをおさえながら、クルリと振り返った。すると、背後には黒尽くめの服を着た青年が立っていた。


 赤銅色の長い髪。


 側頭部から延びた堅牢な角。


 陶器のようにきめの整った白い肌。


 髪と同じ色の愁いを帯びた瞳。


 彼は魔王。

 シーマ十四世殿下の兄にして、魔界を統べる王だ。ちなみに、重度の猫好きだ。

 シーマは魔王の姿を確認すると、耳を後ろに反らしながら尻尾をゆらゆらと揺らした。


「脅かすなよ、バカ兄貴!」


 シーマに叱られた魔王はシュンとした表情を浮かべて、すまなかった、と呟いた。


「それで、何でケンカになっているんだ?」


 魔王が心配そうに声をかけると、シーマは、あー、と呟いて、気まずそうな表情を浮かべた。


「それが、敬老の日のお祝いに、ホットケーキを作ろうと思ったんだけど……」


「殿下が、子供が火を使ったら危ないって……」


 シーマの言葉に、耳を伏せてシュンとした表情を浮かべたモロコシが続いた。魔王は二人の言葉を聞くと、指を口元に当てて、ふぅむ、と呟いた。


「たしかに、子供達だけで火を使うのは、ちょっと危険だな……よし、二人とも、ちょっと待っていろ」


 魔王はそう言うと、指を口元から外してパチリと鳴らした。そして、赤い霧に変化するとどこかへ消えていった。


「魔王さま、どこに行ったのかな?」


「どこだろうな……でも、何かちょっとやな予感がす……」


「良い子達よ!待たせたな!」


 シーマとモロコシが困惑していると、どこからともなく高らかな男性の声が響いた。

 二人が声のする方に顔を向けると……


「とう!」


 ……黒尽くめの服を着て赤いスカーフを巻いた赤い長髪の青年が、ホットプレートを抱えて天井から降り立った。青年の顔には、写実的なバッタの面が着けられている。


「正義の使者バッタ仮面、参・上!」


 魔王……もといバッタ仮面はそう言いながら、ホットプレートを掲げて決めポーズをとった。


「わぁ!バッタ仮面さんだ!」


 バッタ仮面の登場に、モロコシは目を輝かせながら、耳と尻尾をピンと立てて喜び……


「わ、わー。バッタ仮面さんだー」


 シーマは、ヒゲと尻尾をダラリと垂らして脱力した。バッタ仮面は二人の様子を見て、うんうん、と頷いた。


「二人とも、今日ははつ江さんのために、ホットケーキを焼いているのだな?なら、これを使うと良いのだ!」


 バッタ仮面はそう言うと、スタスタとダイニング部分へ向かい、テーブルの上にホットプレートを置いた。


「これなら、火を使わずにホットケーキが焼けるのだ!しかも、温度調節機能もついてるから、綺麗な焦げ目も作りやすいのだ!」


「わー!バッタ仮面さん、ありがとう!」


「ありがとー」


 嬉しそうにピョコピョコ跳ねるモロコシに続いて、シーマも力なく喜んだ。バッタ仮面はしばらく満足げに二人を眺めていたが、不意に口元に指を当て、ふぅむ、と呟いた。


「しかし、鉄板の部分が熱くなることに変わりはないから、やはり子供達だけでは危険か……な、なのだ!」


 思わず素がでてしまったバッタ仮面が咄嗟に誤魔化していると、モロコシがニッコリと笑ってピョコンと跳びはねた。


「じゃあ、はつ江おばあちゃんと魔王さまも呼んでこよう!」


 モロコシの発言に、シーマは目を見開いてギョッとした表情を浮かべた。


「モロコシ、それじゃあお祝いにならないんじゃ……」


「大丈夫だよ、殿下!早く行こう!」


 モロコシはそう言うと、シーマの手を取ってパタパタと走り出した。


「わっ!ちょっ、待てよ!モロコシ!」


 制止の声も聞かずに、モロコシはシーマを連れてスタスタと台所を出て行った。バッタ仮面は二人の様子を見て、うむ、と満足げに呟いた。そして、指をパチリと鳴らすと、赤い霧となって自室へ向かっていった。


 そうして、モロコシに手を引かれたシーマは、はつ江と魔王の自室向かい、二人をダイニングまで連れてきた。


「……よーし、そろそろ頃合いだな……」


 はつ江の向かいの席に着いたシーマは、ホットケーキの生地にプツプツと小さな泡ができたことを確認すると、フライ返しを手に取った。


「えい!」


 そして、かけ声と共に生地を一気にひっくり返した。すると、生地は綺麗に裏返り、こんがりとした均一な焼き目が鉄板の上に姿を現した。その様子を見たはつ江は、ニッコリと笑ってパチパチと拍手を送った。


「あれまぁよ!上手だね、シマちゃん」


 はつ江の言葉に続いて、モロコシも笑顔でポフポフと拍手を送った。


「うん!殿下すごーい!」


「ふふん!ボクにかかればこんなものだね!でも、モロコシも上手だったじゃないか」


 シーマはそう言うと、今し方ひっくり返したホットケーキの隣にある、少し小ぶりのホットケーキを指さした。すると、モロコシは、えへへー、と言いながら照れ笑いを浮かべた。


「うんうん、二人ともとっても上手だぁね!」


「うむ。なかなかの腕前だな」


 はつ江と魔王が褒めると、二人は照れくさそうにしながらもニッコリと笑った。


「……でも、悪かったな、はつ江。本当は、できあがったところで呼ぼうと思ってたんだけど」


 シーマが不意に申し訳なさそうに声をかけると、はつ江はキョトンとした表情を浮かべた。しかし、すぐにニッコリと笑うと、テーブルに身を乗り出してシーマの頭をポフポフとなでた。


「何言ってるんだいシマちゃん!向こうだと一人で居ることが多かったからね、こうやって皆でワイワイしてると、凄く楽しいだぁよ!」


 はつ江がそう言うと、シーマもニッコリと笑った。


「そうか!なら良かった!」


 そんな二人の様子を見て、モロコシと魔王もニッコリと笑った。

 かくして、魔王城での敬老の日は、笑顔にあふれ賑やかに過ぎていった。




 一方その頃、草原地帯に本拠地を構えるバッタ屋さんでは……


「親方!本日は敬老の日ということで、お手伝い券を作りやした!ぞうぞ、お好きなときにお声をかけてくだせぇ!」


 カナヘビのチョロが、画用紙を切って作った回数券を手にして勢いよく頭を下げ……


「親方ー!忠二と一緒に親方の人形作ったー!」


「親方ぁ!あげるぅ!」


 白いハツカネズミの忠一と、茶色いハツカネズミの忠二が粘土細工の人形を手にピョコピョコと跳びはね……


「ヴィヴィアンも、プレゼントがあるそうでございやすよ!」


 ムラサキダンダラオオイナゴのヴィヴィアンが、オレンジ色の花を一輪口にくわえて、パサリと翅を動かした。

 バッタ屋さん責任者の黒猫、マダム・クロは、そんな一同の様子を見て、複雑な表情を浮かべた。


「アンタ達……気持ちは凄く嬉しいんだけど……私はまだそこまでの歳じゃないわよ。あと、マダムと呼んでちょうだいね」


 マダムが力なくそう言うと、三人は一斉に姿勢を正した。


「かしこまりやした親方!」

「親方!分かったー!」

「親方!分かったぁ!」


 三人に続いて、ヴィヴィアンもカクカクと首を動かした。


「アンタ達!いい加減に覚えてちょうだい!」


 相変わらずスットコドッコイぶりを発揮する一同に、クロは耳を後ろに反らしながら短い尻尾を縦に振って抗議した。


 ともあれ、魔界での敬老の日は、穏やかに過ぎていったのだった。

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