第7話 夜の吸血鬼と
その日、私達は3人で寝た。
ローズちゃんは自分のベッドで。
私とリーちゃんは床にお布団を敷いて並んで寝た。
で、お泊まり会と言えばやっぱり恋愛!!
恋バナです!!
というわけで、私達は恋バナに花を咲かせ……たと言いたい所だけど、私達の学校は女子校だから好きな人とかいる人が余りいない。
他校で付き合っている人は多少いるらしいけど、やっぱり珍しいらしいし、2年生から全寮制になるから交際はそんなには続かないらしい。
だから、私達が恋の話をする時は、学内の「あの子が可愛い」とか、「あの子は美人」だとかそういう話ばかりになった。
心の底に秘密の恋心を燃やしていたとして、それを言ったら周りの人から変な目で見られるというのはあまりないと思う。
けど、それを公言する人はやっぱりあまりいない。
だって、恥ずかしいじゃない。
だから、大体恋バナをする時は、探りを入れていくことになる。
「ねぇ、ローズちゃん。この人良いな。とか、気になる人とかいないの? ほら、先輩とかでさ」
「え、か、かっこいい人? 少し、ミタ先輩とかいかなぁって思うのにゃ」
「あぁ、あの人……」
スタイル良くて、運動ができて、面倒みが良くて、ボーイッシュな所が本校の女子から注目を浴びているあのミタ先輩。
「たしかに、かっこいいとは思うけど……」
女子高だから、可愛い人に嫉妬する人が多いんだけれど、カッコイイ人や男気がある人は何かと人気が高い。
みんな、男に飢えているということなのよね。
「私の好みじゃないかな。私はかっこいい系の人よりもかわいい系の人の方が好き」
「え!? そうなのにゃ!? 例えば誰にゃ?」
「た、例えば……」
ちらっと、一瞬リーちゃんを一瞥いちべつする。
顔が燃えるように熱くなって、両手をパタパタと空中に忙しく動かす。
「そ、そんなの誰でも良いでしょ!! もうっ! ほら、さっさと寝るわよ!」
胸を抑えながら、部屋の明かりを消す。
「あっ、ずるいのにゃ!!」
ばすっ!!
「うぎゃ!」
柔らかいものが顔面に直撃。
手で飛んできたものを掴む。
布団だ。
「仕返しぃ!!」
布団を飛んできた方向に投げ返す。
そんな風に暴れていたら、突然扉が開いて、
「こらっーー!! あんたらうるさい! さっさと寝なさい!」
ローズちゃんのお姉さんに怒られた。
「「「ごめんなさーい」」」
お姉さんは、部屋から出ていく際に電気を消していった。
そのせいで周りが真っ暗になってしまった。
仕方がないので、私たちは寝ることにした。
「おやすみ、みんな」
「おやすみ」
「おやすみなのにゃ」
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「〇〇〇〇〇」
頬に冷たい感触。
なぜかよく分からないけれど、自分の呼ばれたような気がした。
生温かい。
それに、柔らかいし、とてもいい匂いがする。
薔薇の甘ったるい匂い……。
目を開けると、そこにはお人形さんがいた。
流れるような銀髪が天の川のような美麗な美しさを放つ。
長い白銀の睫毛に、お人形さんのように端正な顔の細い輪郭。
天使を見ているかのような気分になる。
「リ、リーちゃん?」
顔が一気に赤くなる。
それはもう、蒸発しそうなほどに。
私がそう呼びかけると、リーちゃんはうっすらと目を開ける。
深紅の宝石のような綺麗な瞳がうっすらと覗き込む。
「ん……」
ぼんやりとしていた意識が覚醒し始めて、今の状況を私の頭は理解した。
「な、なんでリーちゃんがいるの!?」
ひしっと体を抱きしめられる。
「ちょっ……。リーちゃん」
困惑する。
それでも、彼女は止まらない。
「ユリちゃん。むにゃむにゃ」
もしかして、眠ってるの!?
彼女の柔らかい腕が首に巻きつき、互いの顔と顔の距離が近くなる。
「ち、力が強い」
流石、吸血鬼。
人間とは比べ物にならない程力が強い。
このままじゃ、首がしまっ……。
その時、私の唇に何か柔らかいものが当たった。
「ん、んんっ」
甘い薔薇の香りが口の中一杯に広がる。
脳が蕩けそうなほどに甘い。
私は体中の力が抜けて、彼女の玩具と化す。
もう、このままでいいと。
このまま、彼女と共に在りたいと。
私達は抱き締め合う。
リーちゃんの着ているフリル付きのドレスの柔らかい感触と共に、彼女の柔和な肌の感触が私の手を吸収していく。
彼女とのたった二人きりの世界に。
「ぷはっ」
手の力が緩み、唇と唇が離れる。
プルンと、リーちゃんの柔らかい唇がゼリーのように揺れる。
瞬間、彼女は口を大きく開く。
もしかして……。
その予想は当たった。
リーちゃんは牙をむき出しにして、私の首筋に噛みついてきた。
「あっ」
ひんやりとした硬い感触と痛み。
血液が。
私の血液がりーちゃんの中に流れていく。
今、彼女と私は一緒なんだ。
一緒の体なんだ。
そう思うと、不思議と心がホッとした。
安堵した。
ドクドクと私の血が彼女の中に流れていく。
これが彼女の血となり、肉となる。
なぜかそれが嬉しい。
体を共有するという事がこんなにも嬉しいだなんて。
いや、きっとリーちゃんだからこそなのかも。
吸血鬼特有の冷たい肌が暑くなりだした春の季節には持ってこいだ。
気持ちいい。
それに、私の肌に挿入した歯の刃の硬い感触と共に、彼女の柔らかい唇の感触が何とも言えないハーモニーを生み出す。
私達は黙っていた。
彼女の体を私は抱き締める。
吸いやすいように。
もっと、私のことを感じることができるように。
血を吸い取られる感覚に酔いしれながらふと思う。
これ、もしかしてリーちゃん起きているんじゃないの?
それを確かめるべく、彼女のおでこにキスしてみた。
すると、ピタリと動きが止まって、リーちゃんの頬が赤くなった。
「もう、やっぱりリーちゃん起きてた」
深紅の瞳が上目遣いで覗いてくる。
「だって、ユリちゃんを驚かせたくって」
「もう。そんなの禁止」
頬がジュウジュウ熱くなるのを感じながら、コツンと人差し指でリーちゃんのおでこをデコピンする。
ふふふっ、と笑い合う。
「それじゃ、続きする?」
「うん」
コックリと頷いてみせる。
まだまだ私たちの夜は長い。
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