第2話「追いやられたウィッチ」

 開拓期、新しく見つかったまさしく新天地は多くの人間の希望と欲望を駆り立てた。そして土地を拓き大地主になる者、黄金を掘り当て巨万の富を得る者、そのチャンスに便乗する者など多くの人間が新天地へやってきた。


 しかし、皆が新天地に新しい夢と希望を見るためにやって来たわけではない。中には国や故郷を追われ、仕方なく新天地へと逃げ延びてきたものもいた。そしてそのなかに「魔術師」がいたのだ。


 魔術師や錬金術師が混同され、さらには主神以外の神を敬う全てのものが邪教徒扱いされ弾圧されていた時代。汝の隣人は愛すべきもの等では決してなく、密告し、追い落とす存在と成り果てていた。


 勿論彼らの殆どは実際邪悪な存在であったし、おかしな術で周りに迷惑をかけていたのだが、科学や医療の方面で真っ当に研究をしていた術士達にとってはとてもいい迷惑であった。


 「マリア・ダンウィッチ」、彼女は正に科学・医療分野の術士であった。彼女は故郷の町では医術士として評判の人物であったが、人の心まではどうにも出来なかった。心無い愚かな人が雀の涙ほどの賞金目当てに彼女を密告したのだ、「邪教徒」として。


 当時の判決方法は「死ねば無罪」、邪教徒の烙印は即ち死を意味していた。止むを得ずマリアは逃亡することとなる。どうせならば、追っ手の来る確立のより少ないところ「新天地」へと。


 そうして新天地へとやってきた彼女の生活は中々どうして悪くなかった。元々が医術士なので食うに困ることは無く、いくつかの街を巡回して暮らしていた。


 さて、お分かりとは思うが荒野には危険が盛り沢山である。一定の期間を経、荷物をまとめて次の街へと向かうマリア。道中突然銃声が鳴り響いた。


 ガンマン同士の決闘かとも思ったが、銃声が多すぎた。物取りにしたってそうだ。もしギャングなら・・・もっと騒がしいはずである。


 不可解に思ったマリアはつい音のしたほうへ向かってしまった。するとそこには、いまにもくたばりそうなガンマンが一人転がっているだけであった。


 恐らく私刑であろう。しかも銃がホルスターに収まってるところを見るとどうにも不意打ちくさい。その上アレだけの銃声がしたというのにガンマンが(一応)生きているということは、よっぽどの下手糞が撃ったという事だ。


「まぁ何はともあれこのガンマン、まだ運は尽きてないみたいね」


 マリアはバッグから商売道具を取り出す。酷い目にあったことのある彼女は、酷い目にあった人を見過ごせない。医術士の面目躍如といったうごきで怏々の処置をすませ、よろつきながらもガンマンを馬車に乗せる。そしてマリアは先ほどまで滞在していた街「レイゼム」へと戻っていったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る