夢に出てきた美少女の幼馴染みが転校してきた。

育難学

君の夢を見る

第1話 幼なじみと朝

「ドラゴンジュニアだぞ、がおー」


 タツノオトシゴの目覚まし時計が話しかけてくる。これは毎朝のことだ。


 しかし、5回で止まるそれが、今日はいつまでも話し続けている気がする。


 それだけじゃなく、声色がいつもとけっこう違うし、次第に音が近づいている気もする。


 ぼんやりしていた頭が少しだけはっきりしてきた。


「起きるんだ、がおー。遅刻するぞ、がおー」


 目を薄く開けて確認してみると、幼なじみの紅葉空もみじそらが目覚まし時計の声まねをしていた。


 ショートカットの黒髪に、色白の肌、そして優しげな目元が印象的なこいつは学校でも可愛いと評判で、それが毎朝起こしに来てくれるとなれば、うらやましいと思う男子も多かろう。


 だが、今日は非常に二度寝したい気分なので、正直うっとおしい。


 しばらく無視を続けていると空はくちびるを耳元に近づけてささやいてきた。


はるちゃん、起きてるよね、がおー」


 ちょっと背筋がぞくぞくっとする。


 しかし、この程度では眠気のほうが勝っているので、まだ二度寝への旅路を続けたい。


 しばらく寝たふりを続けていると、段々と眠気が戻ってきた。後少しで、気持ち良い二度寝の世界へ旅立てそうである。


 この程度で僕が起きるはずがないのだ。出直してくるがいい。


「そっちがその気なら、こっちも考えがあるぞ、がおー」


 今度は耳に息をフーッと吹きかけてきた。


 突然、直接神経をなでられたような感覚に襲われる。


 背筋に電流が走った。


「ひゃん」


 つい、声が出てしまった。

 息は卑怯だろ、息は。


「可愛い声だね。次はどうすると思う、がおー」


 空の勢いづいた声が聞こえてくる。ちょっとエッチに起こされたことですっかり眠気が吹っ飛んでしまった。


 だが、もはや素直に起きるという選択肢など選べない。次にどんなエッチなことをされちゃうのかと妄想が膨らむ。どことは言わないが、なめられちゃうかもしれない。


 耳元に空の息遣いがゆっくりと近づいてくるのが分かった。あとちょっとで耳に空の唇が触れてしまいそうになったその時、













「ギャオン、グォォーーーーーン!」


 ゴジラである。この女、僕の耳元で本物そっくりのゴジラの鳴き真似をしてきた。全く予想外の攻撃に脳が混乱する。


 訳わからん、訳わからん、あと訳わからん。


 しばらく続いた混乱のあと目を開けると、


「おはよう、春ちゃん。やっと起きたね」


 空はカーテンを開けていた。


 まったく悪びれた様子がないその顔に、もう一度混乱しそうになる。


「え、なんでゴジラの真似したの。そのありえないクオリティもなんなの」


 人体改造を疑うくらいの出来だった。


「いや護身術に使えるって言われて練習したんだけど、試す機会がなくて」


 確かにゴジラの鳴き声を出す女を襲おうとする奴はいないだろう。


 しかし、練習したぐらいで出せるもんじゃないと思う。


「大体起きない春ちゃんが悪いんだよ。おばさんも春ちゃんになら何してもいいって言ってたし」


 親の許可は、そういう意味の何でもじゃないと思う。いや、そういう意味かもしれない。うちの親ならそういう意味でも不思議じゃないか。


 現実から目をそらしたくなってきた。


「春ちゃん、いつまでもボーッとしてないで学校行く準備して」


 そう言って空はにっこりと笑った。

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