最期のターゲットは異世界にあり ~高校生になった39歳父、我が子へ遺す宝を探す~

和成ソウイチ@書籍発売中

第1話 一ヶ月後のプロローグ

 緊張してもいい。

 ビビったっていい。

 失敗しても構わない。

「そんときは、俺が全力でフォローする。必ず無事に帰してやる」

 筋肉質で大柄な身体から発せられた、よく通るバリトンボイスが後輩の胸に響く。この一年生の後輩は、今日がハンターデビューであった。

「だから心配すんな。エリュシオン探索を全力で楽しめ」

「おっさん先輩――あ。す、すみません! つい」

「ははは。おうよ、このオッサンに任せなさい。さ、行こうぜ」

「はい!」

 後輩の目に輝きが戻る。他のメンバーも触発されたように気勢を上げる。

 大剣、長槍、弓――各々のを握る手が、ぎゅっと引き締まった。彼らをさらに鼓舞するため、おっさん先輩――三阪みさか永慈えいじは自慢の声を張り上げる。

「Go! エリュシオン!」



 ――林の中で、慎ましやかに口を開けるひとつの洞窟。

 ここが異世界エリュシオンへの入口だ。

 修羅場をくぐったハンター――それも――が後ろに控えている安心感からか、最初は緊張で固まっていた一年生の足取りは、ずいぶんと軽くなっていた。


 永慈は、最後尾を歩く女生徒に並んだ。

明依めいも、準備はいいか」

 もう一人の実力者である小柄な少女は、円らな瞳でちらりと永慈を見た。普段は威厳を出すために精一杯作っている強面こわもてが、今は不安そうに沈んでいる。

「私は大丈夫。だけど、永慈君は本当にいいの?」

「ああ」

 うなずく。

「今俺が、やりたいことだからな」

「そっか……。うん、そっかそっか」

 何度もうなずき、表情を緩める明依。見慣れた笑顔が弾けた。

「さっきの格好良かったよ永慈君。ううん、!」

「こら。そう呼ぶのは禁止って言ったろ」

「あれ、そんなこと言っていいのかなあ? じゃあこれからもずっと下の名前で呼んじゃうよ?」

 永慈は苦笑した。

「まあ、好きにしろ」

「……え?」

 からかうつもりが予想外の返事が返ってきて、明依は狼狽ろうばい羞恥しゅうちで固まる。


 小さな洞窟に光が差し込んできた。輝きの向こう側には異世界の大地が広がっている。

 まぶしさに目を細めながら、永慈は晴れ晴れとした表情でつぶやいた。


「あれからもう一ヶ月、か」

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