その後の真実
僕たちが姿を現したその日の夜。
リリーちゃんが寝静まった頃を見計らって戸締りまでしたルーニアさんに、「お話ししたいことがあります」と呼び出しを受けた。
だいたいその内容は予想は出来ていたのだけど、本人の口から語られた話の内容は予想の遥か斜め上を行っていた。
「まず最初に、私のような穢れた血が流れる者からの呼びかけに応じて頂き、感謝の念に堪えません。リリーが持つ呪いの件と、そしてそれを見守る事しかできなかった私の無力さも含め、英霊様が激しい怒りに身を焦がしているのは理解しております。しかしどうか、最後まで話を聞いていただきたく存じます」
まるでこれから罰を受ける囚人のように震える声で彼女は懇願し、僕たちの前に跪いた。
……これはいったいどういう事だろうか?
彼女の言い方ではまるで、リリーちゃんの呪いの責任が自身にあるかのように聞こえる。
ルーニアさんは20台半ばくらいの美人にしか見えないし、おそらく100年以上の長い年月をかけて肥大化した呪いの力と関係があるようには思えない。
『だけどそれ以上に、彼女が嘘をついているようには見えないね』
『同感ですが、私達には情報が足りません。なぜ彼女がリリーちゃんの事で負い目を感じているのか、本人の口から聞いた方が良さそうです』
『それもそうだね』
安奈さんの意見に同意し、とりあえず彼女の口から続きが語られるように促す。
「ルーニアさんがどれだけリリーちゃんの事を大切に想っているのかは、短い間でしたが僕たちにも理解できました。ですからどうか自分を追い詰めずに、こちらを信頼して事情を話してください」
「あ、ああ……、ありがとうございます英霊様……」
そしてよろよろと力なく立ち上がり、彼女は語った。
なぜリリーちゃんがあのような呪いに蝕まれているのか、なぜ彼女がとても申し訳なさそうにしているのか、なぜ自分の事を穢れた血などと蔑むのかという事を。
「当事者である英霊様はご存じの事かと存じますが、かの決戦の地において英雄グランは魔族を討伐しました。そして多くの人々を救うために魔族の策を見破り、打ち滅ぼしたあの闘いのあと帝国と王国は和解し、少しづつではありますが国家間の差別も無くなっていったのです。さらにその後、魔族の脅威を知った英雄グランはより多くの人々を救うために各地を旅し、妻であるリリアナと共に多くの伝説を残していったと記録にはあります」
「…………」
へー、グランくんはあの後もずっと旅をしていたのか……。
それに多くの人々を救い数々の伝説を残していくなんて、彼らしいというかなんというか。
どうせグランくんからしたら旅は半分旅行気分で、「通りがかったら魔族が居た。ついでにぶっ殺しておいたぜ」なんてノリでリリアナちゃんと現地の人を救い続けたんだろうね。
なぜだかそう言っている彼の姿が目に浮かぶようだ。
でもそれだけ聞くと、とても良い事のように思えるんだけどなぁ。
だけどもちろん、それだけではないのだろう。
「英雄グランは強かった。当時の時代においては間違いなく世界最強とされおり、類まれなる剣技だけではなく卓越した魔法知識もまた彼の無敵ぶりに拍車をかけていました。そう、それこそ魔族の頂点である魔王ですら迂闊に手が出せないほどに。……しかしだからこそでしょうか、英雄の血に問題が起きたのは彼が若くして寿命で亡くなった、その後からでした」
そんなに強くなっていたのか彼は。
僕と別れた同時はいつか世界最強に手が届くかもなっていう程度だったのだけど、まさか魔王と同格にまでなっていたとは驚きだ。
僕の師匠であるクロードさんとどっちが強いのかなぁ。
ちょっと興味がある。
「英雄の死後、その血には異変が生じました。彼の子孫たちからは夜な夜なうめき声が聞こえ、体からはドス黒い瘴気のようなものが見え隠れするようになったのです。始めは微々たるものだったそうです。ほんの少し体調が悪いとか、目の錯覚として収まる程度の瘴気だとか、その程度です」
なるほど、これには心当たりがある。
そしてここまで聞いた僕は、ある可能性に思い至っていた。
僕は言う。
「徐々に、それこそ100年単位の期間を視野に入れた死の呪い……。あまりにも強すぎる英雄の子孫を断絶させるための苦肉の策、ですね? なぜそんな事をしたのかは簡単で、それは魔王を筆頭とした魔族が天敵となる人間、英雄グランをこれ以上なく恐れていたが、同時に彼自身には直接的に手が出せなかったからだ。だからこそ彼らはグランくんより弱く手が出しやすく、しかしそれでも放置できない程に強いその子孫たちを狙ったんだ」
「…………ぅ。そ、そういう事になります……」
なるほどね……。
そうか、この世界の魔族はそういう事を……。
『テ、テンイさん落ち着いて下さい!! 魔力が、テンイさんから異常な魔力が溢れてますよ! これ以上は教会が倒壊しそうでヤバイので抑えて!』
『…………っ!! あ、ああ、ごめん。ちょっと熱くなり過ぎていたようだね。教えてくれてありがとう安奈さん』
『まったくですよ。魂が消し飛ぶかと思いました』
いやいや、そんな大げさな。
でも気付かないうちにだいぶ魔力の制御が狂っていたようだ。
そうか、僕は怒っているのか……。
「すまないルーニアさん、続けて」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、……はい。そしてそれから────」
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