第6話 秘密の地下室

 道中は特に会話することもなくアンタレスに着いた。

 看板は入口横に立て掛けられており、扉には営業中の札がぶら下げられている。


 父さんはいつもならひっくり返して準備中の札にするのだが、どうやら本当に店を閉めるようで札そのものを取り外し家に入った。


「帰ったぞー、ディオネ」

「ただいま、母さん」

「ただいまです、お母さん」

「おかえりなさい、ファング、リオード、フィル」


 女神の如き笑顔と包容力で俺たちを迎えてくれる。

 母さんは部屋の片付けをしているようで、机を拭いていた。そして眉を下げて口を開く。


「リオード、ごめんね内緒にしてて。ファングがどうしても秘密にしたいって言うから……」

「いいよ、いつもの事だし。たださすがに事が事でビビったけど」

「ドッキリだドッキリ。こいつの驚いた顔ディオネにも見せたかったわ」

「兄さんのあんな顔、中々見れませんので新鮮でした」


 驚かされたことに腹が立つが、フィルが笑ってくれているので全て許す。どんな事でもフィルの笑顔を見れば些事だ。


「ところでフィル、何か心なしかテンション高くないか?」

「そうですか? ふふ、そんな事ないと思いますけど」


 本人はそんなこと言っているが俺にはわかる。フィル検定準1級の資格を持つ俺にかかればフィルの目を見るだけで何を考えているか読み取るくらい御茶の子さいさいである。


 その割に確証持ってないだって?

 それはご愛嬌だ。


「まぁフィルは嬉しいだろうな」

「そうね、夢が叶うも同然ですもの」


 両親揃ってわかったような口ぶり。

 あれ、また俺だけ知らされてないの? それがデフォルトなの?


「さ、ついてきなリオード。お前に誕生日プレゼントをやる」

「え、マジ?」

「行きましょう兄さん。きっとまた驚きます」


 本当に楽しそうだなフィル。

 俺はフィルに手を引かれ奥の部屋に連れていかれる。そして立ち止まった所は父ファングの部屋。そういえば今まで父さんの部屋に入ったことあったっけ?


「お前はここに入るのは初めてだな、フィルは2回目か」

「え、フィル入ったことあるの?」

「ええ、昨日入りました。そして私も驚きました」

「なんなんだ…」


 何が起こるか楽しみなような怖いような…。

 今は3対7で恐怖心の気持ちが勝っている。父さんに促され、俺は部屋に入った。


 中は書斎のような部屋で、壁1面に本棚が並んでいて、紙が散乱した机に椅子。少し間隔をあけてシングルベッドが置かれていた。

 特に変わったものは無いようだが…。


「こっちだ」


 俺の横を通り抜けてベッド横の引き戸を開ける。そこは衣類やベッドシーツなどを収納する場所であるはずだが、1箇所変わったものを見つけた。


「それ、地下室の扉?」

「正解だ」


 収納の中の床に、違和感しかない扉が取り付けられている。扉の大きさは大の大人が1人入れるくらいだろうか。その地下には何が続いていて、何があるというのか。


 今の気持ちに恐怖心は無かった。

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