第2話 ひとときは一瞬
「いや〜、ちょっと疲れたな〜!」
「ホッホッ、ほれ大好物のミルじゃ。」
「おっ、村長ありがと!」
朝から始めた掃除は15時を過ぎた辺りで終わった。俺と村長は用具を持って塔を降り、村長の家へと移動し、ミルを飲んで憩いのひとときを楽しんでいた。
「このコクと甘さの絶妙な深みが病みつきになるんだよな」
「よくこんな甘ったるいものを飲めるのぉ…」
年寄りの爺さんには流石に甘過ぎるようだが、仕事終わりにはやっぱりコレだ。
「報酬はいつもの所でよいか?」
「うす! アンタレス宛に振り込んどいてください!」
「自分の報酬全てを実家宛にとは、お主はどれだけ良い子なんじゃ!!」
「俺怒られてる!?」
「誕生日なんじゃから、自分用に何か買ってみるのはどうじゃ?」
「んー……」
腕を組んで目を瞑り、少し考えてみる。
確か俺の妹であるフィルはミストレア学園に行くために、成人祝いに自分専用の武器を買ってもらうとか言ってたな……。
けど俺は学園に行く予定もないし、冒険者になるつもりもない、なんなら村から出る予定もない。
そんな俺が欲しいもの……。
「……無いっすね、フィルさえいれば何も」
「その年で無欲とは恐ろしいのぉ。別の意味でフィルちゃんが心配じゃわい」
まぁ無いものは無いんだから仕方ない。
俺は3分の1程残ってるミルをグイッと飲み干しジョッキを置いた。
村長はそれを自分のキッチンへと持っていき、手馴れた動きで洗ってしまう。
俺は自分の荷物を持ち、家に戻ろうとしたその時だった。村長の家の扉が慌ただしく開けられた。
「村長! リオードはいるか!?」
「なんじゃモルト? リオードならそこにおるが…」
近所に住んでいるおっちゃんが文字通り飛び込んできた。額を汗で濡らし、表情は明らかに切羽詰まっている。
「どうしました?」
「ハァ…ハァ…あ、アンタレスに戻れ! ミストレアからまたあの2人が!」
「また来たのか、けどウチには父さんと母さんが……って今日ミストレアまで買い出し行くって言っていねぇ!?」
「今はお前の妹のフィルが対応しているが……」
「それはまずいぞリオードよ。いつもはファングとディオネが軽く追い払っておったが、フィル1人では……」
クソッ、2人の留守を狙って来たってのか?じゃないとこんなタイミング悪く来るはずがない。
「村長ミルご馳走様、美味かった!」
俺は手に持っていた荷物を肩に担ぎ、モルトの横を通り抜けた。
「アンタレスは俺が守るからおっちゃんは村長と一緒にここで待っててくれ!」
2人に来られたらちょっと面倒なことになりそうだから、一応ここで待っててもらおう。
後ろから声がかけられているが、俺は一目散にアンタレスへと向かった。
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