第8話:隠された研究所
研究所に隠された場所へ通じる為の隠し通路が姿を現したのを確認した静。問題の地下1階に隠されているのは、とても狭く通路程度の広さしかない。一人で歩くには十分だが、二人並んで歩くには狭い。静を先頭に一列に並んで進んで行く。資料室裏を突きあたりまで進むと下に進む梯子が現れた。ただ、この梯子を見た静は違和感を覚えた。捜査通り、非人道的活動が行われている場所の入り口にしては不便すぎると。この入り口とは違う場所にも出入り口が存在している可能性を危惧する。
「外の待機組に、半径1キロを目途に監視を強める様に伝えて。それと、空間移動の監視強化も」
「はい。分かりました」
既に自分達の侵入が悟られている事を考えると相手側も行動を起こす筈。今進んでいる場所もどこで人と相対するか分からない。自分達が相手にされている間に別ルートから逃走を許してしまえば全てが水の泡となる。それだけは避けなければならない。
長い梯子を下りるとそこは薄暗い通路になっていた。降りた長さを考えるとそこは表向きには存在しない施設。静は自分達が待ち伏せされていない事を気にする。はっきり言って、梯子を下りている間に攻撃されることも念頭に入れていた。
全員が降り終って通路周辺に監視カメラの類が無いか確認する。
「いいか、既に私達のここへの侵入はバレている。その事を頭に入れておいて」
全員が頷き通路の奥に目を向ける。不気味な機械音が聞えて来る薄暗い通路。こんな施設を目の当たりすれば、ここで何が行われていても不思議はない。
前後をしっかり警戒しながら通路を進んで行く。通路を真っすぐ進み、角を右に曲がった場所に再び扉が構えている。触った感じで静には分かった。それがどんな物で出来ているのか。魔法世界で製造されている、魔法や特殊能力では破れない特別性の物だと。基本的には重要施設などに利用される。さらにこの扉は特別製で設置する時に届け出が必要になる。静は扉に印字されている管理番号を照合するように命じる。
静の指示を受けて扉の管理番号を照合した結果ある事実が浮上した。
「この扉の管理番号、抹消されてますね」
「抹消?」
「はい。既に破棄されたことになってます。」
「前はどこにあったの?」
この扉がまともなルートで納品されていない証拠である。こんな場所にある物が全て正規のルートで入って来たとは考えにくいのでそこまで驚く内容ではない。非正規に持ってきたか違法品かのどちらか。そもそもこの場所自体が既に違法の可能性が高い。
「以前はヒュームの政府施設にあったようです。その施設が新しいタイプと交換する時に破棄されてますね。」
「回収はされなかったの?」
「設置する時に回収します。ただ、回収した物は廃棄物なので盗まれても気付かれないのではないでしょうか?」
ゴミの数、量にまで気を使っていない事か。静は戻ったら業者にも話を聞く事を考える。もしもここ以外にも違法所持している場所があるかも知れない。そんな場所、まともな場所ではない事など静にはすぐに検討が付く。
「このこと、第二級対策室にまわしといて」
「了解です」
「さて、この向こう、どうなってると思う?」
扉を開ける為のスイッチを押す準備をしている静。ここまでの間に誰も居なかったのはこの扉があったからだろう。この奥がどうなってるの。静の部隊の人間ならいくらでも想像できる。
「一番楽なところで、人が銃器構えてる、ですかね」
「他は?」
「なんでもあり、じゃないですか?」
ここまで手が込んでいるのだ。何が出て来てもおかしくはない。各世界の手練れが居てもおかしくはない。その為の準備もしっかりしてきている。
静は持ってきた物を出して行く。それは広域時空警察の研究機関が新たに開発した道具で、1分だけあらゆる力を無効化する物。ただし、特別な力に対してしか聞かないので通常兵器には通用しない弱点がある。その程度の弱点は静にとってないに等しい。その道具の大きさはピンポン玉より少し小さい位。静はそれを1人5個ずつ配って行く。
「これは半径20mをカバーできる。だから1人投げたら暫くは投げないでなるべく温存することを忘れずに」
「はい」
「それじゃ、全員突入準備」
捜査員全員が武器を構える。今回は通常の武器しか使えない。その代わりに大量に持って来ている。入って最初に気をつける点は2つ。待ち伏せが居た場合は攻撃。待ち伏せが居なかったらセンサー類。センサー類は感知系と攻撃系を見極める必要がある。
全員に緊張が走る中、静が扉のスイッチを押す。ゆっくりと扉が開いていく。扉は天井に収納される形で開いていく。
床と扉の間に僅かに隙間が空いた瞬間だった。何かが放り込まれる。
「まずい、全員下がれ!」
捜査員が叫びながら放り込まれたそれを蹴り返す。投げた方は返されるとは思ってなかったらしく扉の向こうから慌てる声が聞えてくれる。
捜査員の声により、静達は通路の曲がり角まで急いで退避する。完全に退避し終わる前に、扉の奥で爆発が起こる。開きかけの扉から爆風と煙が流れ込む。
「ラディッシュ、大丈夫か!?」
「ええ、大丈夫です。足もちゃんとついてます。それより、撃ってきます」
放り込まれた爆弾を瞬時に蹴り返したラディッシュ。すぐに全員に警戒を呼びかける。爆発が起きて5秒しないで銃撃が始まった。今も通路先は銃弾が止むことなく飛んでいる。静が閃光弾を投げつける準備をする。
「閃光弾投げたら一気に行くわよ」
全員が頷き、静が閃光弾を思いっきり投げる。激しい閃光が辺り一帯を包み込む。その光の中を一気に静の部隊が突き進んで行く。閃光が続くのはせいぜい5秒程度。急いでこの場を駆け抜け一気に先へ進む。
第一集団を抜けた直後に、武装したドローンが姿を現す。ドローンは容赦なく発砲してくる。そのドローンに対し反撃し全て撃墜して行く。それでもわらわらと湧いて来るドローン。ここでドローン対処組と後方の反撃に備える組に分かれる。すぐに戻ってくるに違いない。
「あのドローン、どっから出て来てるか分かる?」
「あ、はい。あの天井からです」
捜査員の1人がドローンを送り出している場所を指さす。静はその天井付近はダクトの様な構造になっているのではないかと推測する。その通りならその部分は破壊してしまっても問題ないはずだと。
しかし考える時間は与えられない。すぐに閃光弾を使って避けて来た部隊が戻って来て銃撃戦になる。
「全員、息を止めて」
静は睡眠ガスが入っている容器を敵に向かって投げつける。案の定、その容器を撃ったことで頭上から催眠ガスが降って来る。ガスをすった敵は次々と倒れて行く。その隙にドローンを一掃する静の部隊。
あらかたドローンを片付けると先を急ぐ。通路は一本道。その一本道を進んで行って少ししたところで道が分かれ始めた。そしてそのフロアからは天井の明かりも通常の物になって居る。
「どうやら、ここからが本拠地の様ね」
「静けさが気になりますが、どうします?」
ここで静は部隊を2班に分ける。1班は静と一緒にこのままこの施設のどこかにある違法装置を見つけ出す部隊。もう1班はこの施設にある全ての部屋を調べ、片っ端から研究所の人間を逮捕して行く部隊。それぞれ専用の端末で連絡を取りあう事で一致。分かれての行動がスタートした。
静が今気になっているのは、この施設ではまだ研究員らしき人間を見て居ない事。たとえ表に出来ないような事を研究しているとはいえ、普通研究員の一人や二人居てもいいはずだ。その研究員が侵入者の報告をすると言うのであれば、まだ理解はできる。だが、先程現れたのは武装した人間とドローン。まるで研究員は隠されているかの様にも思える。
そしてもう一つ。この研究所の所長が所長室に居た事も謎だ。時間が経過しているとはいえ、一度侵入を許した。それなら普通はこういう裏の場所に居るのではないかと。様々な考えが静の中に浮かんで来る。
「あそこ」
行く先には、明らかに覗けるようになって居る窓がある。静達はそれぞれの通路に背中をつけ、ゆっくりと前進する。通路の出口で左右を警戒し、姿勢を低くした状態でその窓から顔を覗かせる。そのうち二人は左右を警戒。攻撃してくるようであれば直ぐに撃てる準備をしている。
「下のあれ、何だと思う?」
「処置室、或いは手術室」
下に見えるのは、この複数の寝台。それは見るからに怪しく、まともな使い方をするための物ではない事が想像される。
この研究所は、洗いだせばかなりの埃が出て来そうだと、静は感じる。
「第2班聞こえる?」
「はい、こちら2班」
「下の階に怪しい場所があるわ。そっちを調べて」
「了解しました」
静は部屋の捜査を別動隊に任せるとその場を移動する。
「ここの監視カメラ、上で管理していると思う?」
静は、監視カメラを見ずに答える様に訊ねる。当然、このフロアにもカメラは設置されている。
「それはないかと」
ここの監視システムが上の階と同じであれば、警備室を抑えた段階で何かしらの連絡が入るはず。上の研究所はあくまでも普通の研究所と言う位置づけ。そこに居る職員たちの中には、この場所の存在さえ要らない人も居る。そんな人が居る場所で一緒に管理するのはまず考えにくい。
「あのカメラ、どこっ!」
今来た通路から大勢の人が銃を持って迫っているのが目に付いた静は、
「全員伏せろ!」
静の咄嗟の叫び声にも驚くことなく指示に従う捜査員たち。静は、向かってくる連中に向けて手投げ弾を投げる。投げられたものが何か分かると、向かって来た方も慌てて避難して行く。その隙に静達は移動を始める。それと同時に別動隊にも警戒を呼びかける。
今の爆発で事態は悪い方向へ傾いたことを考え、静は地上部隊に連絡を入れる。地上に、逃走する人が居るかも知れないと。
「結構面倒なことになりそうね」
「そうですね。まだこの場所の全体像を掴めてませんし」
通路を走り続けたところで下の階へ向かうための階段を見つける。別動隊が先程見かけた謎の部屋に向かっているのは分かってるので、あえて下に向かう必要はない。静達はこのまま先へ進む。
「あそこの、扉」
通路の突き当りに扉があった。かなり頑丈に作られているようで簡単には開きそうにない。扉の横にタッチパネル式でパスワードを打ち込む部分がある。そこに機器を接続して解析を進める間、他の捜査員たちで追手をくい止める。
パスワードの解析を行ってる間も平気で研究所の警備員と思われる人たちは撃って来る。だだの警備員が銃で撃ってくるなど、まともな研究所ではない。そもそも、この研究所にはその許可が下りていない。それにも関わらず、この場所では平気で撃って来るし、爆弾も投げて来る。
「向こうからも来ましたよ」
L字型に曲がった通路の別の方からも迫って来る。そこにもしっかり対応していく。
「ここ、何があると思う?」
「ちょっと大事なものでしょうね」
パスワードを解析している捜査員が口にする。侵入者が居るのに、後からやってくると言うことは、そこまで重要な場所ではないという事。それでも、両サイドから攻撃を仕掛けると言う事は、何かあると言う事。
静達は応戦しながら、自分達も守っていく。装備しているジャケットの胸ポケットには、小型の盾が入れられており、取り出すと、人1人守れる大きさに変化する。
「解析完了です」
「了解!」
静ともう1人の捜査員がそれぞれの方向に爆弾を投げつける。かなり近距離まで迫っていたので、向こうが受けたダメージも大きかった。
中に入るとそこにあったのは、研究資料を置いておくための資料室のようだった。棚には色々な資料が保管されており、この資料だけでも十分に証拠になり得る。
「これは・・・」
「現在行われている研究の資料のようですね」
「他にも、ナメた事してるようですね」
この研究所内で行われていることが徐々に明らかになって行く。今見てる資料が本当なら、これ以上なりふり構っては居られない。優先順位が静の中で出来上がっていく。
最優先は、被害者の命。これ以上のんびり構えていると、被害者ごと、どこかへ逃げられる可能性が高い。
そろそろ次の追手が迫って来る頃合。静達は資料室を出ると、先へと進んで行く。この研究所で行われている事全てを、明らかにするために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます