第181話 本当の目的

「寒い……」



甲板から身を乗り出し前方を眺めながらボソッと呟く、先程より天気は良い……だが不自然な事に真冬の様な寒さだった。



急激な気温の変化に日向ぼっこをしていたユーリはそそくさと船室へ退散し、オーフェンも休憩、甲板にはアルラと二人きりだった。



「リカは大丈夫でしょうか」



「分からん……ただ、精神状態が心配だな」



死を覚悟したと言っていたがあれは覚悟では無く諦めの様な表情に見えた……助からないのならせめて人の役に、そんな感じがした。



命を捨てる様な真似はして欲しく無い……そう思っていた時、不意にアルラが立ち上がり甲板から身を乗り出し前方をみて言葉を発した。



「あれは……氷、でしょうか?」



そう言い指を指す、その方向に視線を向けると岸まで凡そ50km程の距離を残し、周辺の海が凍り付いていた。



船は氷にぶつかるとゆっくりとスピードを落として止まる、船体に傷は出来なかった様だった。



「寒くなったとは思っていたがまさか海が凍ってるとは……これはリカが?」



「氷から感じる魔力……確実にリカの物です」



氷に覆われた海に一足早くアルラは降りると魔力の性質を見極めそう伝える、だがそれと同時に険しい表情を浮かべた。



「ですが……それと同時に他の人物の魔力も感じます」



「他の人物……」



それ程驚きはしなかった、まだ見ぬ大陸、リカ以上の実力者が居ても不思議ではない……ただ、彼女の安否が心配だった。



「戦闘があったという事は明白……リカの無事が心配だな」



「はい、これ程に大規模な戦闘……両者ともかなりの手負いの筈です」



かなりの手負い……それならばそう遠くへはいけない筈だった。



「よし、船の奴らを連れて降りる、アルラは先に周囲の安全を確認してくれ!」



船の上から大声でそう叫ぶと船内のオーフェン達を呼びに行く、その言葉にアルラは頷くと辺りを見渡した。



約50km程先に陸地及び街が見える、人影は無し……一先ずは安全だった。



「それにしても……危なっかしい大陸見たいですね」



海を覆う氷に触れながらアルラは呟く、地面に残る微かな足跡……かなりの数だった。



これを見る限りリカは上陸する事を知られていた……どう言う理由で知られたのかは分からない、だが待ち伏せされ戦闘になった、数から行って数百は超えている……恐らく国が絡んでいた。



リカを上陸させたくない連中がやったのか、もしくはこの大陸は閉鎖的で他者を受け付けないのか……どちらかは分からない……ただ、はっきりしているのは友好的では無いと言う事だった。



「隼人さんは私が守り抜く……」



刀の柄を握るとそう呟く、なんとしても……彼は守り抜が無ければならない、例え自分が命を落とそうとも。



「なに怖い顔してるんだアルラ?」



オーフェン達を呼び終え下ろされたロープから降りて来た隼人がアルラに声を掛ける、怖い顔……無意識にそんな顔をしていたのは気が付かなかった。



「いえ、なんでもありません」



私が不安を感じていては隼人さんは守れない……弱気にはなって居られなかった。



「これからどうしますか隼人さん」



「そうだな……取り敢えずあの排気ガスがわんさか出てる街にでも言って聞き込みでもするか、この大陸の事は何も知らないしな」



そう言い隼人は少し先に見える街を指差す、煙突から吐き出される黒い煙、かなり技術的に発展した国と言うのは一目瞭然だった。



もしかしたら自身を強化できる機械があるかも知れない……そんな淡い希望も微かに抱いて居た。



「お、やっと着いたねー、因みにあの国はアイルツェラト、行くのはオススメしないよー」



ユリーシャの拘束魔法から解放されてノビをしながらアルテナが隼人の隣に立ち告げる、そう言えば彼女はこの大陸の人間、情報なら彼女から引き出せば良かった。



だがそれよりも……行くのはオススメしない、その言葉が引っかかった。



「オススメしないってどう言う事なんだ?」



「あそこは一年前に来た異国の魔法使いに国を滅ぼされかけてねー、それから異国の人間を嫌う閉鎖的な国になっちゃったんだよねー」



そう言い周りをうろちょろと歩くアルテナ、異国の魔法使い、一年前……ウルスで間違い無かった。



ただ、どう言う理由で国を滅ぼそうとしたのか……ウルスは考えなしに何かをする様な奴ではない……あの国には何かある、そんな気がした。



「そうか……忠告感謝する」



「いえいえー」



礼を言われ照れるアルテナを他所に隼人はアルラ達に視線を向けた。



「常に戦闘準備を、今から行く国はかなり閉鎖的な国らしい、白い目で見られる程度なら良いが……場合によっては戦闘になるかも知れないからな」



忠告をしたにも関わらず国へ行こうとする隼人にアルテナは苦笑いを浮かべた。



「あはは、物好きな人だねー」



「それが隼人さんの良い所です……それよりも貴女と話したい事があります」



そう言いアルラは少し離れた位置までアルテナの手を引き移動させる、そして声が聞こえないであろう場所まで移動すると手を離した。



「貴女……嘘をつきましたよね」



「嘘?何のことかなー?」



アルラの言葉にアルテナはわざとらしく首を傾げた。



「とぼけても無駄です、リカの頼みで来た……そう言い貴女は私達を信じさせる為に傷まで見せましたね」



「うん」



「傷から感じた魔力は明らかに別の人物……リカに付けられた傷では無いですよね」



その言葉にニコニコして居たアルテナの表情は一変した。



「へぇ、そこまで魔力探知に優れた人が居るなんて意外だったなぁ」



その言葉を吐きめんどくさそうにため息を吐いた。



「大丈夫、安心して、私は敵では無い……これだけは言い切れるから」



真剣な眼差しでアルラの目を見るアルテナ、信じられない……隼人さんへの脅威は少しでも減らして置きたかった。



「そんなの信じられるとでも?」



「まぁ……無理よね、分かった、一つだけ真実を伝える、私の目的はアンタ達の力を借りる事……言えるのはそれだけ」



「力を借りる……?どう言う事ですか?」



「言えない……ただ、貴女達の味方だと言うのは信じて」



そう言い再度瞳を見つめる、正直信じられない……だが彼女の力が必要な状況がこの先やってくるかも知れない……実力は恐らくかなり高い、それにこの大陸の事も知っている……敵では無いと言っている内は……利用しても良さそうだった。



「分かりました……ただ、隼人さんに、仲間に少しでも敵意を見せたり不審な行動をした時は……問答無用で殺します、分かりましたね」



その言葉にアルテナは無言で頷く、そして隼人達の方を見ると先程までの表情からまた笑顔の彼女に戻った。



「アイルツェラトに行くなら案内するよー!」



そう言い駆けて行く、悩みの種がまた増えてしまった。



だが私のやる事は決まっている。



「隼人さんを命に変えても守る」



再度覚悟を決めるとアルラは皆んなの元へと戻って行った。

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