第119話 許す努力
もう外の世界を見れないと思っていた。
私はこの世に生まれて早々、アルラとか言う雑な混合種を殺せと言う任務を与えられた。
そして私は確かに殺した……だが彼女は何故か生きていた、そして雑な混合種なんかでは無かった。
私よりも強大な鬼の力を持っていた……そして敗北した。
なんとか命からがら逃げ出したが私には酷いトラウマを植え付けられた、その影響か刀すら握れない時期もあった。
細々と森で生き、そのまま生涯を終える……そう思っていたが人生そう簡単には行かないようで、よく分からない騎士に捕まり孤絶の間へと入れられてしまった。
あの時の退屈さと言ったら言葉に出来ない……だがアルセリスが出してくれた。
彼には感謝している……だがそれと同時に恨みもしている。
目の前で刀を構え今にも襲い掛かって来そうなアルラ、二度と会いたく無かった奴と再び再開するとは……しかも助けてくれたアルセリスの仲間とは皮肉なものだった。
どれだけ恨んで居ようが攻撃出来ない……まぁしても返り討ちに合うのだが。
「アルセリス様……どう言うつもりですか!」
声を荒げアルラは叫ぶ、アルセリスもあたふたしていた。
確かに私は彼女の大切な人を殺したが彼女も作られた存在なら命令だと分かる筈なのだが……見た目通り頭も固いと言う訳だろうか。
だが此処で私が何を発言しても彼女の怒りを増幅させるだけ、今はダンマリ決め込むのが正しそうだった。
「ミリィ……貴女が私に何をしたのか忘れた訳ないですよね」
この世の物とは思えない程の眼光で睨むアルラに怯む、忘れた訳じゃ無いが正直な話、誰を殺したか覚えていなかった。
アルラの事は鮮明に覚えて居る、何せ私を殺しかけた程の女、だが一々殺した奴の事までは覚えていなかった。
「聞かせてください……何故、何故ハネスを、母を殺したんですか」
涙を流すアルラ、彼女でも涙を流すと言う驚きもあるが今は彼女の問い掛けに対する答えをフル回転で考えていた。
間違い無く命令だった、なんて言えば殺されるだろう、殺されると言ってもミンチにされても多分再生するが……だがミンチは痛いしグロい、なるべく当たり障りのない答えを言わなければならなかった。
と言っても私には過酷な過去なんて無い、殺さなければ家族が……なんて言えない、八方塞がりだった。
だが何かを答えなければミンチにされる、必死に考えた結果、口から出たのはあの言葉だった。
「命令されたから殺した」
ミンチ覚悟だった。
だがアルラは刀を地面に落とし、泣き崩れた。
アルセリスの話によればアルラはクールで滅多にアルセリス以外の者に感情を見せないらしい、そんなアルラが泣き崩れたのだ。
その姿を見て初めて、罪悪感と言う感情が生まれた。
私は、命令とは言え……大切な物を奪ってしまったのだと。
感情は無駄な物だと造られた時に言われたが正直感情を無駄と思った事はない、笑うのも怒るのも、泣くのも必要な感情だと思っていた、それの所為で殺しを躊躇った事も無い……だが今日初めて感情が無駄と感じた。
胸を押し潰されそうな程の罪悪感、何故これほど罪悪感を感じて居るのかは分からない……ただ、アルラの泣き顔を見て居るのが辛かった。
意味が分からない、私がした事は間違いでは無いはずだった。
造られた者は命令に従わなければ殺される、ほぼ不死身だが死への恐怖はある、だから従った。
それなのにまるでこの感情は私がした事が間違ってるかのよう……頭がおかしくなりそうだった。
「……済んだ事をいつまで言っても無駄ですね、アルセリス様が連れてきた時は正直殺してやろうと思いましたが……我が主君が仲間とみなした今、過去は敵でも仲間です、完全に許す事はできないかも知れませんが……許す努力はしますよ」
「あ、ありがとう」
涙を拭くとアルラは立ち上がりミリィの目を一線に見て言う、その言葉に思わず何故か礼を言ってしまった。
罪悪感はあれど私が悪いと認めた訳では無いのに……何故か負けた気分だった。
「これからは仲間ですから……何かあれば言ってください」
「わ、分かった……」
その言葉だけを残しレストランの中へと入って行くアルラ、許す努力をする……大事な物が無い私には分からないが、恐らく凄い事なのだろう。
大事な物を奪った本人を許すと言うのだから。
「なんか悪いな、アルラといざこざがあったって知らなくてな」
何故か謝罪をするアルセリスに首を傾げる、何故彼が謝ってくるのか、アルラとの過去なんて知らなくても無理は無い、あの性格は過去を語らない……よく分からない男だった。
アルラと言い、お供の獣娘と言い、彼の周りには不思議な奴ばかり集まる者だった。
私もまた然りなのだが……何故なのだろうか。
何故付いてきたのか、具体的な理由を言えと言われれば言葉に詰まる、ただ面白そうだった……そんな漠然とした理由しか無い……彼からは何故か面白そうな匂いがするのだ。
恐らくアルラ達もそんな理由なのだろう、アルセリスと言う男の下にいるのは。
「よろしくなアルセリス」
アルセリスの胸に拳を当てる、アルラとのいざこざが解決した訳では無いのだが、何故かスッキリした気分だった。
恐らく、無自覚だったが何処かであの事が気になってたのだろう。
アルラの大切な人を奪った事が。
「やっぱ感情って要らねぇなー」
レストランへと入っていくアルセリス達の後ろでグッと身体を伸ばし空を見上げる、やはり久し振りの外は気持ちの良いものだった。
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