第25話ジャルヌ教編4
中は暗く、窓も無い不気味な部屋だった。
果物を保管する部屋にしてはあまりにもボロすぎる、暗くて見えないが隙間風が至る所から入って部屋の温度は教会内とは思えない程に寒かった。
「くそっ……暗いな」
足元も見えない、何かを時折踏むが何を踏んで居るのか分からず不気味だった。
光を付けようにも窓は無いが隙間風があると言う事は光が漏れる可能性がある、暗闇に目が慣れるのを待つしか無い様だった。
足元に散らばって居る何かを手探りで確認して行く、何か……砕け散った様だった。
時々水の様な液体が手に触れる……ふと生贄の事が頭に浮かんだ。
ここにあるのはもしかすると死体では無いのか……その考えが脳裏によぎった瞬間、気分が悪くなった。
だが徐々に暗闇にも目が慣れしたに散らばって居る物が見えてくる、それは祭壇にまつられて居た果物だった。
「果物……か」
死体では無かった事に安堵の溜息を吐く、落ち着いて匂いを嗅げば部屋にはフルーツの匂いが漂って居た。
だが部屋を見渡してもフルーツ以外に家具は何も無い、フルーツがただ転がって居る異様な部屋だった。
「保管庫はあながち間違いでも無いのか……」
この部屋には何も無い、そう思い部屋から出ようとしたその時、ある違和感を感じた。
何故フルーツを床の材質が見えない程に溢れさせて居るのか、幾ら保管庫とは言え雑過ぎた。
そして地面を良く見るとアダムスが歩いて来た部分のフルーツが砕けて居る……まるで侵入者の形跡を残すかの様なトラップ……一気にこの部屋が怪しくなった。
「踏んだのは処分しとくか……」
踏み砕いた果物を腰につけて居たポーチに押し込み果物を踏まない様に足を地面から離さずに移動する、この部屋には何かある……そんな気がした。
果物がゴロゴロと音を立てて転がる、何か隠し扉は無いかアダムスは慎重に探って居るとこの部屋とは反対側に位置する神父の家と教会とを繋ぐ部屋が開く音がした。
その瞬間アダムスはぴたっと足を止めた。
まずい……今動けば足に乗っかって居る果物が落ちて音がなる……アダムスは息を潜めこの部屋に来ない事を祈る、だが足音はどんどんと近づいて来た。
そして扉がギィという音を立てて開く、その瞬間神父の持っていたライトは部屋全体を照らした。
「果物に異常は無いな……」
しゃがみこみ果物を触って何も異変が無いのを確認すると部屋の中央にある果物を端へと退ける、そして他の床と大差ない床を軽々と外すとその下から銀の取っ手が付いた隠し扉が出て来た。
「もう1時か……早く済ませよう」
神父はライトで懐中時計を照らし時間を確認するとボソッと呟く、そして扉を開けると果物を下へ雑に流し込んだ。
そしてあらかた流し終えると扉を閉めずに神父も下へと降りて行った。
階段を下る足音はどんどんと遠くなって行く、それを確認するとアダムスは暗闇から姿を現し大きく息を吸った。
「し、死ぬかと思った……」
限定的だがその場から動かなければ姿を消せる魔法を使い息を潜めずっと待っていた、もう少し下に行くのが遅かければ窒息死する所だった。
「だがこんな所に隠し通路が……怪しいな」
果物の扱いと良い隠し扉と言い……果物が供物とはもう考えられなかった。
そっと隠し階段を覗き込むが暗く先が見えないほどに続いている、通路は神父が引き返して来たら接触する程に狭かった。
「証拠は掴んだ……後は団長に指示を仰ぐか……」
深入りするのも危険が伴う筈……早急に此処から立ち去ろうとしたその時、地下と思わしき場所から声が聞こえた。
「痛い……やめて!」
少女の声、声色から想像するに10歳も迎えてない程の……神父やジャルヌ教の噂は確信に変わった。
だが今向かった所で数が分からない、もしかすると神父以外の人が在中して居るかも知れない、ジャルヌ狂徒は他にも居る、それにクリミナティが関わっているとなればミリアの様な者が居る可能性もある……迂闊に行くのは危険だった。
だがアダムスは耐えられなかった。
微かだが聞こえてくる少女や少年の悲痛な叫び声、一人ではなく複数の……こうしてる間にも彼らは苦しんで居た。
団長には先走るなど言われた……だが此処で行かなかったら彼らは助からない……アダムスは短刀を強く握り閉めると地下へ足を踏みいれようとする、だがその時義手の方の腕を誰かに掴まれた。
その瞬間アダムスは振り向きざまに短刀を突き刺そうとする、だがその腕も止められると腕の関節を蹴られ短刀を落とされた。
まずい……そう思ったその瞬間目の前には見知った顔があった。
「フィルディア……さん?」
「アダムスさん、団長に報告が先です……悔しいですが引きましょう」
そう告げるフィルディアの言葉にアダムスは首を振る、すると頬に鈍い痛みが走り辺りにはパチンと言う音が響いた。
フィルディアの行動にアダムスは呆気を取られる、するとフィルディアはアダムスの手を引いて教会から出ると無言でずっと手を引き続けた。
振り向きざまに見えたフィルディアの顔はとても悲しそうだった。
「フィルディアさん!あの下には子供が……」
「知ってます……だからこそ団長に伝え万全の態勢で行くんです、私達だけでは強敵が居た場合の対処が出来ません……時には、助けられない命もあるんです」
フィルディアの手を振り払い言ったアダムスの言葉にフィルディアは悲しげな表情をして反論をする、その言葉にアダムスはグッと唇を噛んだ。
確かにその通り……だが子供達を救えずして何がアルスセンテ、国民を守り、皇帝を守る……それがアルスセンテの本来の姿、子供も大切な国民の一人だった。
「救えない命は確かにこの世界でいっぱいあります……ただ!!目の前の命だけでも俺は救いたいんです!!」
人が居なくなった静かな大通りにアダムスの声が響き渡る、その言葉にフィルディアは悲しい表情をした。
「不確定な要素が多い任務は無謀です……すみませんアダムスさん」
その言葉と共にフィルディアは素早くアダムスの背後に回ると手刀を首に当てる、その瞬間アダムスの意識は簡単に途切れた。
倒れこむアダムスをそっと抱き抱えるとフィルディアは悲しげな表情をして歩き出した。
「私も……悔しいですアダムスさん」
そうボソッと呟いたフィルディア、アダムスの頬には雫がポツポツと落ちて居た。
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