3話

 街はバレンタインで騒いでいる。そんな頃。


「申し訳ありませんでした。」


 加波子は部長に深く頭を下げている。席に着く加波子は少し疲れていた。隣から友江が声をかける。


「どうしたの?あんたが仕事でミスするなんて。熱でもあるんじゃないの?」

「あ…そういえば最近熱っぽいんですよね…。でも先輩には迷惑かけないように頑張りますから、大丈夫です!」

「私のことはいいから、早く治しなさいよ!」


 加波子は体調を崩していた。


 バレンタインの日。加波子の部屋のテーブルには、デパートで買ったチョコレートの紙袋。亮が来る。


「ごめんなさい。本当はケーキ焼いたり色々したかったんだけど、なんか力が出なくて。」


 加波子はテーブルに、気だるそうに寄り掛かっている。そんな加波子の背に亮は手を当てる。


「そんなことどうだっていい!それよりお前大丈夫か?具合悪いとは聞いてたけど…。お前がそんなに体調崩すの初めてだろ。病院行ったか?」

「病院に行くほどでもないの。多分、軽い風邪か、軽い胃腸炎…。それがちょっと長引いてるだけだと思う。だから大丈夫。ありがとう、亮。」


 そう加波子が言うと、亮は心配そうに加波子の頭をなでる。やさしい目で、いつもの目で、いつもの亮で。安心する加波子。ホッとした加波子の表情を見た亮が言う。


「やっぱり病院へ行こう。俺も一緒に…。」


 加波子はクリスマスに贈った亮のニットを引っ張る。


「いいの。それより今…そばにいて。」


 どこかぼーっとしている加波子の目。


「お前、布団入れ。」


 亮は加波子を布団に寝かせる。そして亮も布団に入る。布団を掛ける。


「寒くないか?」

「うん。亮がいるからあったかい。」


 ふたりは向き合う。手を顔の前で握り合う。


「今日はずっとこうしていよう。」


 加波子は素直に甘えた。やさしい亮と、ずっと一緒にいたかった。


「うん。ありがとう、亮。」

「無理すんな。」


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