243 同行と家馬車で過ごす配置
互いの近況報告を兼ねた情報交換が終わったところで、クリスは二人の行き先を聞いた。すると、驚きの答えが返ってきた。
「遺跡都市に行くつもりなんだよ」
「えぇっ? わたしたちもアサルに行くんです!」
「そうなのかい?」
二人も驚いた。それもそのはずだ。フォティア帝国にある都市からギュアラを抜け、ペルアに入って、更にエリミアの南部にある都市を目指すなど大移動も過ぎる。そこまでの何がアサルにあるというのか。驚くと同時に、その理由が気になったようだ。
でもそれはクリスたちにも言える。クラフトとイフェは何故、わざわざ南部のアサルへ行くというのか。二人の里はエリミアの王都を通り過ぎた西にあって、アサルからも今の街道から見ても北にあるのだ。遠く離れている。
クリスの疑問が顔に表れたようだ。二人は顔を見合わせ、話してくれた。
「以前、親族を捜していると話したよね。実は彼女たちが行方不明になったのはアサルに通じる街道沿いだったんだ。だから真っ先に調べた場所もアサルの都市だった」
「そうだったんですか……」
「二度三度と調べたけれど、今回は別の観点からも調べ直そうと思っていてね。里からの連絡も、些細ではあるけれど新たな情報だった」
「あそこは遺跡都市だからね。何度調べても新たな場所が見付かるほど複雑なんだ」
二人は以前も地上を調べ、地下も調べたという。それでも遺跡の内部の全容は判明しない。一縷の望みであっても縋り付きたい。だから彼等は何度でも調べる。
「それにね、この気球の家のおかげで体の調子がとても良いんだ」
「え?」
「わたしもなんだよ。お互いにスキルのレベルが上がったのではないかと思うほどでね」
「だから、今なら探査士スキルをもう一段階上げて調べられるのではないかと考えたんだ」
「それはすごいけど、でも、家のおかげ?」
「そうだとも」
キラキラとイケメンが微笑む。クリスは思わず胸を押さえて顔を赤くした。イサが肩の上で「ピルゥ」と鳴くが、黙っていてほしい。もちろんエイフもだ。何故かニヤニヤしているが、それはどういう意味だろう。
クリスはハラハラしながら口を開こうとして、先を取られてしまった。
「そうだろう、クリスの家は『特別』だからな」
何故エイフがドヤ顔をするのか問いたいけれど、クリスが顔を赤くした理由に気付くといけない。ホッと胸を撫で下ろし、クリスは横に見えるカロリンとカッシーを睨んだ。
誰だって好みの相手に微笑まれたら心臓がドキドキするし体温だって上がる、はず。クリスは照れもあって顔を背けた。もちろんイサと顔を合わせないよう反対側にだ。
行き先が同じなら一緒に行動してはどうか。そう言い出したのはカロリンだったか、エイフだったか。ともあれ、旅の仲間にクラフトとイフェが加わった。
二人ぐらい増えようと、ペルとプロケッラには問題ない。以前も女性二人を追加で運んだけれど平気だった。今回は大柄な竜人族の男性二人だけれど誤差の範囲だ。ただし、それは昼の移動の間だけである。
夜は、気球の家で寝てもらった。昼間はエイフの収納袋に入れてある。彼等の持つ収納袋では入りきらないと言うから、エイフが提案した。
ちなみに冬を迎えた現在、家馬車での宿泊ルールは変更されている。御者台に寝袋で大丈夫だと言い張るエイフを怒って止めたのはクリスだ。最初はきょとんとしていた。どうやら遠慮でもなんでもなく、彼は本当にどこででも寝られるタイプらしい。しかし、それは見ている方がつらいので禁止した。
エイフとカッシーは家馬車の居間で寝ることになった。一人はハンモックベッドである。並んで寝てもらう案もあったが、共に微妙な顔をしたのでクリスが急いで改装した。これなら斜め上の視界に入るとはいえ「並んで」はいないから問題ない。
もし気になるのなら互い違いになる仕切り壁を設置してもいい。普段は天井に設置してある板を下ろし、床にある突起に嵌めて組み立てたら簡易の壁になる。これは、ナファルで奴隷たちの部屋を作った時の案を参考にした。もっとも、二人はそこまでする必要はないと言って使っていない。壁があると圧迫感もあって、その方が嫌らしい。
せっかく作った仕切り板は、今後お客さんが来た時に使えばいいだろう。結局、ハンモックにはカッシーが寝ている。「こういうの憧れてたんだー」と言うのでエイフが苦笑で譲った形だ。
元々あった屋根裏の寝室はクリスとカロリンで使う。精霊組とイサは居間だ。男性と女性に分かれた。
カロリンは前世が男性だったと告白したばかりだったので、クリスに対して「本当にいいの?」と気遣った。でもそれは杞憂だ。クリスはカロリンが好きだし信頼もしていた。もっとも、同じベッドで寝るというのなら別の意味でお断りだけれど、布団を並べて寝るぐらいなら平気だ。
「クリスは女の子同士で同じベッドに寝るって経験がないのね。わたしは前世では人恋しくて、誰かしら一緒じゃないと寝られなかったのよ。今生だと貴族の生まれだから問答無用で独り寝させられるの。赤ん坊の頃からだから慣れちゃったわ」
「わたしも小さい頃から一人だったよ。前世でもそうだったかな。それもあるけど、基本的に神経質なんだと思う。パーソナルスペースも人より広いし。だから、誰かと一緒って苦手なの」
とは言うが、毎晩のように昏倒寝をしているから布団に誰か入ってきても気付かないだろう。
「あ、だけど、ペルちゃんと旅をするようになってからだな、そういうのが減ったの」
「そういうの?」
「ハグとか、実は苦手だったんだ。お母さんがたまに抱き締めてくれたけど、普段は寝込んでいたから」
「そうだったのね」
「前世でも、それは日本人だったからかもしれないけど、親子の触れ合いがなくて」
恋人との甘い空気も苦手だった。恋人はベタベタするのが好きだったのだと思う。だから同じように返さない仁依菜の愛を疑った。二股を掛けられた上に婚約破棄されたけれど、その時の言い訳にもあった気がする。愛されていなかったと罵る彼に、捨てないでと縋るほどの愛はなかった。そもそも相性の悪い二人だった。流されるままに付き合った仁依菜も悪いのだ。両親にも嫌と言えず、いつも何かを我慢していた。
今は違う。嫌なら嫌と言えるし、触れ合いたいと思えば言葉にもできる。
「寒い中、ペルちゃんと体温を分け合ってね。生きてるって感じたんだ。ペルちゃんの愛情も伝わってきた。それでね、段々と触れ合いが平気になってきた、ところかな」
「ふふ。いいわね、そういうの」
ヴィヴリオテカではイザドラという友人ができた。彼女はとにかく抱き着く人だった。そうすることで好きだと表現してくれた。彼女自身が良い人だったというのもあるけれど、クリスはイザドラのハグを嫌だと思ったことはない。
今はエイフに抱き上げられるのも、カロリンと並んで寝るのも気にならなかった。もちろん、イサやカッシーだって抱き締められる。
クリスは「うん、いいよね」と笑って、カロリンに手を伸ばした。
「おやすみなさい。いつものやるから、後はよろしくね」
「ええ。おやすみなさい」
手を繋がれたまま、クリスはいつもの昏倒寝をした。
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「家つくりスキルで異世界を生き延びろ」のコミカライズ版3巻が明日、3月26日に発売です
原作にはないエイフ視点が描かれた回など、見所満載です
ぜひ、お手にとってみてください!
家つくりスキルで異世界を生き延びろ3 (電撃コミックスNEXT)
日向ののか(先生) / ISBN-13 : 978-4049143041
よろしくお願い申し上げます♥
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