第109話 公孫淵と対面
龐統と法正は呉の大都督である陸遜と連絡を取り合い、急進的な攻めを行わず徐々に支配地域を拡げていく事で同意した。
西から法正率いる蜀漢中軍、南から龐統率いる蜀荊州軍、東から陸遜率いる呉軍が黄河南岸地域を攻める形で晋軍を河北に封じ込めようとしていた。
◇◇◇◇◇
勢いづく蜀呉連合軍に対して晋軍は混乱していた。司馬師戦死の一報を受けて司馬懿が倒れた為、次子司馬昭が自ら太子を名乗った。
司馬昭は司馬懿に了承を得たので濮陽に遷都した上で事態収集に努めようとしたが、河北西部失陥を聞いた文武百官の一部から抵抗を止めて降伏するべきだという意見が出たので議論は平行線を辿った。
河北東部は旧魏軍が呉軍との合流する為に空白地になった事で奪還したものの味方である公孫淵が極秘裏に蜀と手を結んでいたので晋の支配領域は事実上河北沿岸地域だけになっていた。
◇◇◇◇◇
魏延は司馬師と晋軍兵士の亡骸を弔った後、中山に留まり残務処理に追われていた。
龐統と法正に中山制圧の知らせを送ったところ、指示があるまでその地に留まり地域一帯の混乱収拾を命じられた為である。
魏や晋の支配が長期に及んだ地域であった事から長期化も予想されたが馬謖と馬忠が内政面、傅士仁と姜維が軍事面で補佐役を担った上に魏延自身も精力的に動いたので短期間で落ち着きを取り戻しつつあった。
「申し上げます。東方にて敵軍発見!公孫淵の旗印を掲げております。」
魏延が主だった者を集めて話し合いをしている最中、敵襲を知らせる偵察隊の兵士が部屋に飛び込んできた。
「数は約ニ万。戦闘可能な状態でこちらへ向かっております。」
兵士は報告を終えると足早に部屋から出て行った。
「公孫淵が出てきたか。」
魏延は周囲の目を気にしようとせず、顔を天井を見上げながらため息をついた。
「公孫淵は我が君と手を組むと言って臣下の礼を取ったはずだぞ。なぜ戦闘準備をしているのだ?」
「大方自分の力を誇示したいだけだろう。気にするだけ損するだけだ。」
「傅士仁殿、我々が全力でぶつかれば公孫淵など相手になりません。不審な動きを見せれば即座に対応出来るようにしておけば向こうも手出し出来ないでしょう。」
公孫淵に対して傅士仁は苛立ちを隠さなかったが馬謖から冷静さを失うなと諭されていた。
傅士仁を始めとして配下の多くは公孫淵を嫌っており、馬謖や馬忠など割り切った考え持つ者が少なかった。
魏延自身も公孫淵に対して良い感情を持っていないが世を生き抜く為に敢えて裏切りを重ねているのだと考えれば理解出来ない事はなかった。
「傅士仁、私も君と同じく奴の態度には不信感を抱いている。馬謖と馬忠の言う通り即時対応出来る態勢を取りながら会えば問題無いだろう。」
魏延は傅士仁の顔を立てつつ馬謖と馬忠の面子も潰さない言い方をして場を収めた。
前世なら傅士仁に同調して公孫淵と一戦交えようとしていたかもしれないと冷静さを欠きかけた自らを戒めた。
◇◇◇◇◇
魏延は馬謖と傅士仁を両翼に従え、馬忠を伴い出陣した。
燕の旗印が見えた所で軍を留めて魏延は単騎で歩を進めて公孫淵率いる燕軍に向かった。
燕軍は魏延が単騎で向かってくるのを見つけると進軍を止めて、その中から大将らしき武将が単騎で現れた。
「吾は燕の公孫淵である。貴殿は蜀の魏延か?」
「その通り、私は蜀の魏文長である。」
「漢中王劉備殿との約定に則り援軍として参陣する。」
「援軍は感謝する。しかし我が君との約定では切り取り自由とされていた筈。我々の援軍となれば旨味は無いと思うが。」
公孫淵はしばらく無言になったが、意を決したように魏延に馬を近づけた。
「貴殿になら本音を伝えても良かろう。私では司馬懿には勝てないのだ。司馬一族以外なら汚い手段を使えば何とかなった。奴等だけは小細工したところでどうにもならんのだ。」
公孫淵は苦笑いしながら魏延に本音を話した。
魏延は公孫淵という人物の一端が見えた気がした。
「確かに司馬一族相手に小細工は通用しない。貴殿の言う通りだ。手を組んで戦うのがお互いにとって良いだろう。」
「そう言ってもらうと助かる。」
提案を魏延に拒絶されると思っていた公孫淵は安堵した様子で大きく息を吐いた。
魏延は公孫淵が味方に付いたので戦力的に助かる事になったが頭を悩ませる事態も起きつつあった。
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