第92話 佞臣に訪れる結末
諸葛誕は諸葛亮と胡車児によって捕らえられ上庸に連行された。副将の郝昭は魏延と関興の挟撃を受け必死の抵抗も虚しく最後は関興に討ち取られた。
「兄弟、大手柄だな。」
「胡車児!来てくれたのか。」
「諸葛丞相から同行を命じられたのだ。」
魏延と胡車児は再会を喜び合った。魏延は諸葛亮に書簡を送り晋による大攻勢を伝えると共に南鄭の守りを厳重にして欲しいと要望していたがそちらの方から援軍が来ると思っていなかったので驚いた。
「魏延将軍、ご苦労さまでした。」
「丞相、援軍感謝致します。」
「将軍の書簡を我が君に見て頂いたところ、将軍に大事があってはならないと出陣を命じられました。」
「丞相は敵将が西へ逃げると?」
「その通りです。上庸から東へ向かっても漢水を渡る必要がありますが傅士仁率いる水軍によって厳重に警戒されているので不可能。襄陽に向かったところで我々の勢力圏内、即座に捕らえられるでしょう。残るのは西へ抜けて南鄭から士午谷を通り長安東方へ抜ける間道を使うしか手はありません。」
魏延は諸葛誕が西方へ逃げた理由を聞いて納得した。龐統が加わるまで劉備の軍師を務めていた智略に何ら衰えが無い事を改めて知らされた。
「その間道も厳顔に守らせているので通る事は無理でしょう。」
諸葛亮は詰めの一手を魏延に伝えると笑みを浮かべた。
「こうやって戦場に出て普段とは異なる策を巡らせる事も大切なのですよ。」
入蜀以来政務に専念していた諸葛亮は良い気分転換になったと本音を漏らして魏延たちを驚かせた。
「我々も上庸に入り後始末を済ませましょう。」
諸葛亮から指示を受けて魏延は胡車児や関興と共に上庸へ向かった。
◇◇◇◇◇
「このような愚者に内通を命じるとは司馬懿殿の目は節穴なのか?」
「愚者とは何だ、愚者とは!」
「貴様にそれを説明する義務は無い。ましてや語る気も無い。自身の頭で考えれば良かろう。」
政庁前の広場に捕虜となっていた二人が連行された。諸葛誕は既に諦めており平然と構えているが黄皓は未練がましく誰かに縋るような目をしていた。二人共厳重に縛られている上に魏延、胡車児、関興の三人が剣の柄に手を掛けながら監視しているので逃げる事は出来ない状況である。
「公休殿、申し開きしたい事はありますか?」
「有りませぬ。強いて言うなら勝敗は兵家の常と申しますが諸般の事情があるとはいえ、某を一軍の大将にした事が大いなる誤ちだったと思われます。」
「諸般の事情?」
「某は文官として魏に仕えておりましたが政変後は野に下っておりました…。」
諸葛誕は常日頃から諸葛亮や諸葛瑾に比べると無能だと馬鹿にされていた。宮仕えに嫌気が差していたので政変収束後に辞官して野に下った。しかし諸葛誕の能力を買っていた司馬懿から再三に渡り出仕を乞われたので止む無く晋に仕えるようになった。
「政変の影響で武官が少なくなり軍の編成にも支障をきたしていた事もあり某も将軍に据えられました。」
復帰後は前職と同じく文官として務めていたが武官の多くが政変の際に亡くなるか行方不明になっていた影響で軍の運営に支障をきたしてしまった。司馬懿らは文官でも能力のある者を将軍として抜擢する事を決めて諸葛誕はその一人として軍に身を置く事となった。諸葛誕は司馬懿に対して自分は将軍として不適格だと再三に渡り申し入れを行ったが聞き入れて貰えなかった。
「貴殿の言い分は理解出来ました。適材適所で無かったと言うならば貴殿もある意味被害者でしょう。」
「孔明殿に理解して頂いたので心残りはない。」
「貴殿の処分は後程伝えましょう。」
「ん?」
諸葛誕は諸葛亮の発言の意味が分からず首を傾げた。しかし衛兵によって牢屋に連れて行かれたので真意を聞けずじまいになった。
「黄皓、何か言いたい事は?」
諸葛亮は時間を置かず黄皓の取り調べに入った。普段と変わらない無表情のまま黄皓に話し掛けた。
「某は司馬懿に騙されていただけで何の罪もありません。」
「楊儀に対して晋軍を上庸に引き入れると言っていたと聞いていますが。」
「上庸に引き入れて殲滅しようと…。」
「貴様、それを費禕殿や関興に話したのか?」
魏延は諸葛亮の質問を遮るようにして黄皓に迫った。
「話しておりません。咄嗟の判断で何とか出来るのでは?」
「ならば貴様がやってみろ。」
「そんな事、私に出来る訳ございません。」
「何だと?もう一度言ってみろ!」
魏延は剣を抜いて黄皓に刃を向けようとした。
「ひーっ!」
「魏延将軍、この男に何を言っても意味がありません。」
諸葛亮が魏延を手で制した。魏延は諸葛亮に頭を下げると渋々といった表情のまま元の位置に戻った。
「今ここで斬れば将軍の名を汚す事になります。愚者らしく罪を償えば良いのです。」
諸葛亮は急に冷めた眼つきで黄皓を睨み付けた。
「黄皓、貴殿は反逆罪で斬首となる。当面の間城外で晒し首となり一族全員同様の処分となるます。」
「お待ち下さい!某が居なくなれば後宮が立ち行かなくなります。どうかご再考を。」
黄皓は青ざめた表情で諸葛亮に懇願した。
「何を言うかと思えば。碌に働かない者ほど自らを高く売り込もうとする典型的な形です。皆もこの愚者のような最期を迎えたくなければ己を律しなければやりません。黄皓、貴殿は冥土で迷惑を掛けた者達に詫びを入れると良いでしょう。」
諸葛亮は持論を述べると手に持っていた白扇を振って黄皓の刑を執行するよう命じた。その後、遠くの方から断末魔の叫び声が響き渡った。
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