第71話 関張の後継者
劉封の指示で韓玄が整えた援軍が樊北方に築かれている魏延の陣地に到着した。
「魏延将軍、お久しぶりです。」
「君達が援軍で来てくれたのか。」
「はい。韓玄様より魏延将軍の下で学んでこいと送り出されました。」
「二人が加わる事で敵援軍も苦労する事なく押し返せるだろう。」
「ご期待に沿えるよう全力を尽くします。」
援軍に来たのは張苞と関興である。張苞は張飛の長男、関興は関羽の次男である。前世の二人は呉討伐時から劉備麾下に加わり諸葛亮指揮の下で活躍したが張苞は北伐時の怪我が原因で亡くなり、関興もその直後に病死した。二人共若くして亡くなったので話を聞いた諸葛亮は衝撃の余り気を失い、魏延も訃報を知らせた使いに対して嘘を言うなと詰め寄る一幕があった。
現世の二人はそれぞれ実父に鍛えられた後、一般の兵士として数度の戦いに参加した。その後は江陵に居た韓玄に預けられ兵法や将軍としての在り方を教えられた。そろそろ一軍の将として実戦経験を積ませる段階になったと韓玄が思っていたところ劉封から要請があったので魏延の応援に向かわせる事が決まった。
*****
「申し上げます!魏軍が新野から南下しているのを発見致しました。」
「敵の規模は?」
「およそ十万。」
「分かった。」
魏延の幕舎に居た将兵は言葉を失った。自軍は魏延、張苞、関興の三人合わせて約四万のみ。樊城が落ちない限り関羽や龐統の援軍は見込めない状況だった。
「魏軍の気勢をそぐ為にも打って出るべきです。」
「いや、守りに徹して樊の落城を待つべきだ。」
「今は援軍を頼りに出来る状況ではない。魏軍の数を一人でも多く減らす事だ。」
「それでは必然的に我々も数を減らしてしまう。」
将兵は激論を戦わせたが結論は出ず最終判断は魏延に委ねられた。
「我々は打って出る。魏軍に一撃を加えた後は守りに専念して反撃の機会を窺う。」
「某に先鋒をお任せ下さい。」
「先鋒の役目は某に。」
魏延が出撃すると伝えたところ間髪を入れず張苞と関興が先鋒を志願した。二人は初陣なので本来なら魏延の指揮下で戦うのが無難である。しかしそのように悠長な事を言える状況ではなかった。
「二人には先鋒としてそれぞれ五千ずつ預ける。」
「有難うございます。」
「感謝致します。」
「一撃離脱を厳守してくれ。私は一万を率いて後詰めを務める。」
「承知致しました。」
魏延は二人の才気に賭けて先鋒を任せた。不測の事態に備えて魏延が後詰めを務める事でそれに対応する。二人の身に何かあれば多大な恩を受けた関羽と張飛に対して合わせる顔が無いと魏延は思っていた。
「厳しい戦いになるが自分の身を賭すなど早まった真似はするな。」
「心得ました。」
「各自準備が済み次第出撃する。」
軍議を終えた将兵は各々の陣に戻り指示に従い準備を整えた。
*****
魏延は張苞と関興の後方を進んでいた。しばらくすると二人の動きが慌ただしくなった。
「張苞将軍より伝令です。魏軍発見、これより攻撃を行うとの事。」
「先鋒が魏軍を発見した。周囲の警戒を怠らず密にせよ!」
魏延は指示を出した後、前方に視線を移した。敵の大将次第で魏延はある事を考えていた。
「関興将軍より伝令。敵の大将は夏候楙、副将は夏候覇です。」
「承知した。」
魏延は報告を聞いた時、一瞬口元が緩んだ。夏候楙が前世と同様なら軍略に疎い人物で大軍を率いる器では無いからである。しかし副将を務める夏候覇が夏候淵の息子という以外の情報は記憶に無く不気味な存在に感じた。
「場合によっては打って出る。いつでも動けるようにしておけ。」
「承知致しました。」
「夏候淵の弔い合戦のつもりか。それなら長安から漢中方面に攻め込むのが筋だが包囲殲滅を恐れて矛先を変えたと考えるべきなのか・・・。」
魏延は敵の思惑を考えていたが確固とした結論を得る事が出来なかったので頭の片隅に追いやった。考える事で目の前の戦いに支障をきたすわけにはいかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます