第69話 新野に報せは届かず
満寵は城壁から漢水の暴れる様を目の当たりにして嫌な予感がした。これが荊州軍に仕組まれていたとすれば于禁の身に何かが起きたとしてもおかしくない。襄陽を守っているのは智勇兼備の猛将で劉備から絶大な信頼を得ている魏延である。泥酔状態になっているという情報を得ていたが我々を城から引き摺り出す為にやっていたとすれば合点がいく。満寵は最悪の事態を考えて新野を守る曹仁に救援を求める使者を送った。
しかし満寵が送り出した使者は新野に辿り着けなかった。堰を切った後、樊城に急行した鄧芝によって捕らえられたからである。鄧芝は魏延から戦力が揃うまでは無理をせず樊城を遠巻きにして動きを見張るように指示されていた。鄧芝は満寵が機転の利く知恵者だと費禕から聞いていたので異変に気付いて新野に知らせると考えた。それなら少々の危険を冒しても新野に向かう道沿いを警戒すれば良いと兵士を配置したら直ぐに捕らえる事が出来た。しばらくすると漢水の流れが落ち着いた事に加えて魏の水軍が見当たらなくなっていたので鄧芝は船を使って魏延に状況を知らせた。
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鄧芝からの知らせを聞いた魏延は今後の事を費禕と話し合うため上陸した。
「街道遮断は鄧芝将軍の好判断でした。」
「その通りだ。しかしこの状態が続く事は無い。新野から敵援軍が来れば鄧芝と鮑隆は挟撃される事になるから我々が窮地に立たされる。」
「それなら樊を攻めましょう。ここが攻められる危険性は少なくなりましたので将軍は守備兵の半数を率いて渡河して下さい。某は江陵の劉封様に知らせを送り援軍を要請致します。」
魏延は襄陽守備兵の再編成を行った上で半数の兵を自軍に加えて漢水を渡った。費禕は劉封に対して現状報告と樊攻撃の援軍を要請した。
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費禕からの知らせを受けて劉封は龐統と関羽を召集した。
「費禕のいうように新野から敵援軍が来れば厄介な事になる。機先を制する為に我々も援軍を出そうと思っている。」
「呉も陸遜と徐盛を中心に戦力回復に努めているから荊州に目を向ける事は無いと思いますので援軍は出せますな。」
劉封と関羽は援軍を出して樊攻撃を援護する考えである。関羽の言うように呉は大都督陸遜と水軍都督徐盛が中心となって荊州侵攻で失った戦力の回復に努めている最中で出兵出来る状態ではない。ましてや孫劉同盟を再締結しているので再び裏切る事は万に一つもあり得ない状況だった。
「そうだね。劉封様が江陵で構えて陳到と趙雲が監視しておけば心配ないよ。交州の士州牧にも一言伝えておけば上手くやってくれる筈だよ。」
龐統は二人の先を行っており、樊だけでなく新野も奪って荊北を押さえて中原進出の足掛かりを作る考えだった。新野の曹仁だけなら魏延一人で何とかなるが魏の精鋭が来るとなれば関羽にも動いて貰う必要があった。
「おそらく夏侯惇や徐晃も現れる筈だよ。」
「あの二人が来るなら某にお任せ頂きたい。」
新野が落ちれば宛や許昌が怪しくなる。新野が危なくなれば夏侯惇以下魏の精鋭が大挙して押し寄せる可能性があったので関羽に主力軍を任せて自らも出撃する事を決めた。
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魏延は鮑隆に合流すると少数の兵士を連れて鄧芝の陣に向かった。
「鄧芝、君のお陰で樊城攻略も上手く行くだろう。」
「しかし軍令違反をしているのは事実です。」
「いや、君には樊城の監視を命じていた。監視の為に包囲したと私は見ているから軍令違反は無い。」
「有難うございます。」
鄧芝は軍令違反を詫びたが魏延は理由を付けて咎めなかった。前世の街亭のように軍の根本を揺るがす事なら仕方ないが敵援軍を防ぐ好判断を軍令違反だと罰すれば将兵は萎縮して命令以外の事をしなくなる。また魏延自身が前世で功を挙げる為に軍令違反を度々犯していたので強く言わなかった事も一因である。
「君には樊城攻撃をお願いする。鮑隆には襄陽からの増援を預けているから君の麾下に加えてくれ。私はここで敵援軍を足止めする。」
「承知致しました。直ちに樊へ向かいます。」
鄧芝は魏延に将兵を引き継いで樊に向かった。樊に着くと鮑隆が城を包囲しており睨み合いがはじまっていた。
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