第48話 曹操死す

魏延は曹操を捕らえた後、降伏した魏軍兵士と共に益州軍本陣へ送り届けた。


「我が君、魏王曹操を連れて参りました。」


「よくやってくれた。」


「我が君・・・。」


劉備が魏延の肩に手を置いて労いの言葉を掛けた直後、魏延は感極まり涙を流した。


「魏延、泣くのはまだ早いぞ。漢朝復興を成し遂げた時に私と共に泣いてくれ。」


劉備も万感の思いだったが帝を助けるまで涙を流すわけにはいかないと必死に堪えながら魏延を諭した。


「我が君、取り乱しまして申し訳ございません。」


「気にしなくて良い。」


「それでは曹操が居る場所に案内致します。」


劉備は魏延を伴い曹操を拘留している場所に向かった。


*****


曹操は許緒と共に縛られた状態で地面に座らされていた。その二人を取り囲むように法正、張飛、黄忠、胡車児ら益州軍諸将と馬超、韓遂ら西涼軍諸将が立っていた。


「曹操、面と向かって会うのは洛陽以来だな。」


「天下に覇を唱えるのは儂か貴様だと言った時だな。」


「そうだな。」


「あの時のお前は食卓の下に身を隠したな。雷が怖いと怯えていたが実際は儂の言葉に驚いたからか?」


「それは貴殿の想像に任せよう。」


曹操は洛陽での出来事を振り返った。劉備は曹操の問い掛けに答える事は無かった。帝を差し置いて天下に覇を唱えるなど恐れ多い上にあってはならないと考えていた。


「魏軍が降伏すると約束出来るのなら貴殿を解き放つが?」


「儂が居なくても子桓が居る。奴は儂以上に冷淡だ。帝もどうなるか保障出来んぞ。」


曹操は劉備の提案を拒否した。大軍を失った上に敵の捕虜になった自分が戻ったところで生き恥を晒すだけだ。後継者の曹丕からすれば自分は迷惑極まりない存在になってしまう。それなら自分の死を以て国の混乱を回避する方が良いと考えた。


「貴殿に心配されなくても帝に害が及ぶまでに助け出す。」


「精々頑張ってみるのだな。」


「話は終わりだ。連れて行け。」


劉備は曹操が生き延びる気が無いと判断して説得を止めた。劉備は魏延に目配せをした。魏延は劉備に一礼すると曹操に近付いた。


*****


本営内の広まった場所に簡易の刑場が設けられ、曹操は魏延に連れて来られた。曹操は既に覚悟を決めており穴の近くに跪いた。


「言い残した事は無いか?」


「劉備!漢中を取ったと良い気になっていれば足下を掬われるぞ!」


曹操は劉備に対して忠告とも取れる事を言うと不気味な笑顔を見せた。


「?」


劉備は怪訝な様子で首を傾げたが魏延は思い出したように薄ら笑いを浮かべて曹操を見た。


「劉備様が足下を掬われないように手は打っているぞ。」


「何だと?」


「あの世で精々悔しがると良い。」


「どういう事だ?貴様、何を知っているのだ!」


魏延の言葉に曹操は動揺した。この男は親征前に打った一手を察知して何らかの策を講じているのか?何を知って何をしようとしているのか曹操には分からなかったがそれを考える時間は残されていなかった。


「斬れ!」


劉備の合図で魏延は刀を振り下ろした。乱世の奸雄と評された曹操は位人臣を極める目前にして命を落とした。前世とは異なり漢中の地で敗死という無残な最期を遂げる結果となった。


「我が君に訪れた不幸な出来事を全て知っているのだ。魏や呉の思い通りにはさせん。絶対にな!」


魏延は曹操の遺体を見つめながら劉備にとって最大の転機となる荊州失陥を潰す為に全力を尽くす事を改めて誓った。


「魏延、曹操に何を言っていたのだ?」


「帝は我が君が必ず救い出すと言いました。」


劉備はようやく笑顔を見せて魏延の肩を数回叩いた。





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