第37話 近衛軍大将
魏延は成都城外の巡回を終えて城内に戻ろうとした時、北方から早馬がやってきた。早馬に乗っていた兵士は魏延の姿を見つけたので馬を止めた。
「魏延将軍、お久しぶりです。我が君に張飛将軍より至急の知らせを預かってきました。」
急使を務める兵士は荊州からの古参兵であり魏延もその顔を知っていた。
「それなら私が直接案内しよう。」
魏延は数名の兵士と共に急使を伴い宮城へ向かった。通常なら衛兵を介して劉備に取り次ぐ形になるが魏延が先導しているので早々と対面することが出来た。
「魏軍が漢中に侵入、南鄭は陥落致しました。」
「張魯殿は?」
「張飛将軍が保護しております。詳細はこちらに記されております。」
劉備は急使から書状を受け取り目を通すとため息をついた。
「流石は曹操だな。張魯と馬超双方を同時に攻めて漢中を奪い取った。」
「我が君、江州の黄忠将軍に急使を送り閬中を警戒させるべきです。漢中から瓦口関を経て閬中に抜ける道がありますので。」
「軍師の言う通りだな。江州に急使を出してくれ。」
劉備は法正の進言を受けて黄忠宛に急使を手配した。
「加えて張飛将軍と黄忠将軍に増援を出しましょう。両将軍共に血気盛んですので魏軍の迎撃に出た時の守将が必要です。」
「許可しよう。人選は軍師に任せる。」
「それでは江州には呉蘭将軍、梓潼には雷同将軍を向かわせます。」
張飛と黄忠は共に敵が来れば籠城策は二の次で最初は迎撃という考えを持っているのでそこを狙われたら城を奪われる危険性が高い。法正はそれを想定して増援を向ける提案を行った。
「魏延、話があるので少し残ってくれ。」
会合の終わり間際に劉備から声を掛けられ魏延は広間に留まった。広間には魏延の他に劉備・諸葛亮・法正も残っていた。
「魏延には成都太守を外れてもらう。」
劉備は唐突に太守罷免を伝えた。
「何か不手際でもあったのでしょうか?」
魏延は罷免される事に思い当たる理由が無かったので普段とは異なり理由を尋ねた。
「そうではない。法正からの要請なのだ。」
劉備は魏延の誤解を解きつつ法正を見て早く説明しろと暗に急かした。
「魏延将軍には成都駐留の遊軍として巴陵方面の変事に対応して頂きます。」
法正は魏延に目配せをした。事前に話をしなかったことを謝罪する意味合いである。魏延もそれを察し手小さく肯いた。
「法正の話を聞いた時は私と諸葛亮は難色を示したのだ。特に諸葛亮は将軍の施政を評価していたからな。」
「それを聞いて安堵致しました。」
魏延は法正の目配せで理解したので何の蟠りも無かった。それとは別に諸葛亮が自身の施政を褒めた事に少々驚いていた。前世のように自己顕示欲の塊になり功を焦るような真似をしていない事で諸葛亮に評価されるようになっていた。
【近衛軍を創設し劉備直属軍とする。左将軍魏延を近衛軍大将に任じる。牙門将軍関平を成都太守に任じる。】
数日後布告が出された。魏延は正式に成都太守を外れて後任には関平が任命された。関平は前世と異なり荊州に戻らず益州に留まり劉備の護衛役を務めており、義父関羽と同様に内政にも対応出来るので無難な人事である。
新たに創設された近衛軍の大将を任された魏延は益州兵と新兵の強化に目を向け、傅士仁に訓練を任せていた。
「練度は上がっているか?」
「ようやく荊州兵と肩を並べるかどうかという感じです。まだまだ鍛えなければなりません。」
「上々だと思うが鍛える余地があるということだな。引き続き頑張ってくれ。」
「お任せ下さい。」
魏延は太守から外れた事で時間に余裕が出来たので益州兵と近衛軍編成時に配属された新兵の訓練を徹底的に行った。魏の主力である青州兵は黄巾賊上がりの精鋭であり、にわか仕込みの兵士では相手にならないからである。
傅士仁は練兵の手腕に長けており、兵士は練度を高めていった。前世では自身の職務怠慢が原因で関羽を裏切り呉に降伏した後、悲惨な最期を遂げた傅士仁だが現世ではそのような素振りを一切見せず任務に忠実な武人である。性に合わない事を任されたのが原因で神経をすり減らし精神的に追い込まれた結果、関羽を裏切る事に繋がったと魏延は考えていた。
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