四章 殺人ゲーム 三幕 2—5
うーん。今さらながら思いだした。昨夜、ベランダで話したときのこと。
三村くんは旅費をかせぎたいと言い、蘭さんはおぼえておきますよと答えた。あのときから、すでに二人は結託していたのだ。失神させたのは蘭さんだが、ハートをうばったのは、三村くんというわけか。
だから蘭さんは、わざと速水くんに、誰が襲ったのかわかるようにして『殺した』んだ。
蘭さんは涼しい顔で言う。
「速水さんは気絶してるあいだのことは知りようがないですからね。目をさませば、とうぜん、失神させた僕がハートをとったと思うでしょ?」
僕は気づいた。
「でも、ということは、大塚くんもそばで見てたんじゃないの?」
大塚くんは、あっけなく、うなずく。
「見てましたよ。でも、僕、蘭さんの同志ですから。蘭さんが不利になることは言いません」
いつのまに同志になったんだ。
それにしても、なんとなく妬けるのは、なぜ?
(蘭さんと一番、親しいのは、僕だと思ってたんだけどなあ)
蘭さんは趣味がアレだし、ちょっと怖いと思いつつ、いつのまにか親友のように思っていた。
同性愛的傾向とか、そういうのをぬきにしても、蘭さんには周囲の人たちに、彼を独占したいと思わせる何かがある。
やはり、美しすぎるせいかな。
これだけ人間離れして麗しいと、それだけで特別な存在だ。傷つけたり、手放したりするのは、ゆるされないことのような気がする。
赤城さんが、蘭さんに質問をなげかける。
「だけど、湯水くんが、君を訴えるとはかぎらなかったじゃないか。もし、トリックを見やぶられて、三村くんが告訴されてたら、三村くんは敗退していた」
「そのときは、三村さんを倒して、有頂天になって出てきた湯水さんを、僕が『殺す』つもりでした。さっきの三村さんのように、出口で待ちぶせて。そうなれば、東堂さんとの一騎討ちだから、もう告訴はできません。相手を自首させるか、殺すしかない」
すごい。どっちにころんでも、蘭さんの意のままだ。
階下から、三村くんが問いかけてきた。
「おーい、どないするんや。九重。おれ、このまま自首しょうか?」
それだと、猛の告訴が封じられる。
猛は最終的に勝者になるつもりないから、イヤでも最後は、蘭さんに勝ちをゆずることになる。
蘭さんは、はたして、そこまで読んでいるのか。
「東堂さんの行動はよくわからないんですよね。賞金が欲しいだけなのか、勝つ気でいるのか。なんだか別の目的があるようにも思えるし……」
猛は断言する。
「本業だよ。おれの本業」
「本業って、カメラマンでしょ?」
猛は笑って、蘭さんにカメラを向けた。フラッシュが光る。
「そう。カメラマン」
まあ、ウソじゃない。念写探偵だからな。
「肖像権の侵害ですよ」
憤然とする蘭さんと、出てきた写真を、猛は見くらべる。
「……まあ、そうだよな。今日のあんたは大忙しだ」
「東堂さん」
「わかった。これでいいだろ」
猛は撮ったばかりの写真を、こまぎれにやぶりすてた。
「見てのとおり、ポラだから、ネガはないよ」
「いいでしょう。あなたと一騎討ちします。三村さん、自首していいですよ」
三村くんはジャッジルームへ入った。
まもなく、館内アナウンス。
「自首するわ。速水と湯水、殺したん、おれや」
「三村さんの自首を認めます。三村さん、湯水さんは敗退です」
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