コミュ障になった俺とコミュ障だった彼女の不可解な生活

第54話 同類のロリコン

「さて、ロリコンの潤平よ。早く話してもらおうか」

「……待て。俺はロリコンじゃないぞ」

「ん？そうなのかい？茜ちゃん」

「し、知りません！」

　顔を赤くしてぷいっとそむけた茜は今、俺の足の上に座っていた。もう片方には瑠璃が乗っている。何でも俺を逃がさないように、との理由で。俺としてはただ莉櫻が自身の憎悪（ヘイト）を溜めて、俺に八つ当たりをしているようにしか思えないのだが。

「羨ましい景色に居て。いいですね～」

「莉櫻兄ちゃん怒ってる？」

「……ほっとけ。すぐ直る」

　瑠璃が近づいただけで簡単に笑顔になるだろう。彼はロリコンなのだから。

「お兄さんはどうしてそんなに話そうとしてくれないのですか？」

「そうだよ。莉櫻兄ちゃんはすぐに教えてくれたのに何で？」

　裏表のない純粋な瞳というのを俺は初めて見た気がした。

　人間は心を持っている。当たり前の事だが、あえてもう一度言う。しかし、そこに俺の考えを込みでとすると人間はいい心と悪い心を持っている、となる。

　良い心。すなわち、興味の心。知りたいという思いだけを持っている心。

　大して悪い心とは、他人への損害を考える、自分の得になるように誘導するときに現れる。

　陽キャラ時代にもそれは何度か感じていたが、陰キャラになってからは更に詳しくわかるようになった。

　この2人の悪魔には、そんなものがなかった。

「……それは俺一人の問題では無いからだ」

　だが、それとこれとは別である。

「それはどういう事ですか？」

「あ！ボク分かったよ！」

　双子は反対の事を同時に言った。

「なんだと思うんだい？」

「兄ちゃんには彼女が居るんだよ」

　え……と固まる莉櫻。その様子から“言ってなかったのかい”と言っているのが分かった。

　彼女が居る、などと血族に報告するか？取り敢えず両親には伝えたが、従姉妹にそこまでする義理は無い。

「そ、それは本当ですか？！」

「そうに違いないよ。うん！」

「瑠璃には聞いていません！お兄さんに訊いています」

　茜が俺に確認を求めてくる。辺りの雰囲気と俺が何も言わないことから決定なのはわかると思うのだがどうやら決定打が欲しいらしい。

「……あぁ、本当だ。だから俺は話したくない」

「潤平、それは……」

「分かりました。もういいです」

　茜は急に怒りだすと、俺の部屋へと降りて行った。なんとなくだが、部屋に行くという確信があった。

「兄ちゃんって恋人いたんだね」

「そうだよ。仲良しの彼女が居るよ」

「茜は可哀相だね」

「……お前らは何を話しているんだ？」

　彼女バレはともかくとして茜が可哀相とは一体、何の事なのだ居るか。

　蒼い眼を向けてきた瑠璃は茜を追いかけに行くためか、同じように階段を下りて行った。

「今はロリコンの敵だよ？」

　完璧に姿が見えなくなってから莉櫻は俺に話しかけてきた。

「いや、もう人間の敵かも知れない」

「……何が言いたいんだよ」

「茜ちゃんを見て、瑠璃ちゃんの言葉を聞いて何も思わなかったのかい？いつもの潤平なら、俺が言わなくとも簡単にわかることだろう？」

　莉櫻は明言を指せ、俺に気付かせようとしている。しかし、俺の頭で繰り返されるのは俺の恋バナ拒否と茜の突然な行動のみ。

「……俺は変わらない。いや、もう変えられない」

　俺は答えた。昔に縛られてしまっている俺はもう変わることなど許されない。

「いや、変わるさ。人を変えられる人は自分だって変えられる」

「……お前は俺の何を知ってるんだ？」

　俺は怒りを含んだ声で訊き返していた。鋭いナイフのように尖った俺の声が莉櫻に突き刺さる。

　変わる？ふざけるな。俺の心のふちにずっと引っかかって取れないものを知らないくせに。

　分かることだ？俺は俺自身をよくわかっていないのに、どうして他人の頃を分かることが出来る？

「……すまない。忘れてくれ」

　しかし、それを全て莉櫻にぶつけるのは間違っている。最初はただの恋バナだったのだ。ここまで渋ってきた俺の落ち度でもある。

「俺の方こそごめん。潤平に頼りすぎてた」

「……あいつらのせいで少し疲れてるんだ」

「少し寝なよ」

「……飯の用意をしないとな。それから寝るよ」

「ちなみに飯は？」

「茜希望のカレーだ」

「なら俺でも作れる。潤平は寝な」

　客人に料理をさせるのはどうかと思ったが、疲れているのもまた事実。莉櫻はロリコンだが、手を出すような奴ではない。安心して任すことにした。

「……自由に使ってくれて構わないから」

「了解。じゃあおやすみ」

　俺はすぐに寝た。

　眼が覚めると時計は既に7時を回っていた。カチャカチャという金属音でもうが戻った俺は目の前の悪魔たちに声を掛けた。

「……莉櫻は？」

「帰りましたよ。カレーを食べてすぐ」

「おはよー。莉櫻兄ちゃんのカレー美味しいよ」

　ご満悦そうで何よりです。

　莉櫻はもう帰ってしまったようだ。今度、何か礼をしないといけないな。俺は伸びを一つしてから立ち上がった。

「お、お兄さん！」

　すると、呼びとめられた。

「……何だ？」

「さっきはすみませんでした」

「……気にするな」

「あの！……それで彼女さんを連れてきてほしいのです」

　は？え？彼女？って美玖の事だよな。ふぇ？

　寝起きの俺は深く考えることなどできない。

「……まぁ、呼んでみてもいいかもな」

「あ、ありがとうございます！」

　俺がカレーを入れていると瑠璃の「えらいえらい」という声と「妹扱いしないでください！」と怒った茜の声が聞こえた。