俺(♂)の部屋に俺(♀)がいる。

俺(♂)の部屋に俺(♀)がいて

≪俺(♂)の隣に俺(♀)がいて≫ 【SIDE♂】

『いつだって俺らの朝は眠気と一心同体で～♪糞ッたれた未来を呪って～♪』

　…………………………………………………………朝だ。

　くそったれた朝が来た。

　スマホから平日朝の目覚ましアラームにしている、『くそったれな朝のテーマ』が流れて来た。まだ起きる必要はない。あと１０分は横になっていられる。１０分早く起きた所で何になる？どうせ4０分後には電車だ。くそったれめ。

　今日はなんだ？朝礼か？そうか、毎週月曜の朝礼だ。くそったれめ。朝っぱらから無駄に立ちっぱなしで耄碌したじいさんの話を聞いてなんになるってんだ。国家主義でも目指してんのかクソったれ。いっその事仮病で安んじまうか。

…実際、無駄に休むとそれはそれで面倒だから結局は通学するほかないのだが。

　しかし、今日は昨日に比べて温かいな。最近は春だというのに、妙に寒かったからな。あと８分くらい寝ちまうか。

　フニュン…

　寝る姿勢を横向きから仰向けにかえようとし身を捻ると、俺の手に何か柔らかいものが当たった。なんだこれ？

　「なんだこれ？なにかある…」

　サワサワ、ペタペタ。

　それだけじゃない。何かが俺の身体をベタベタ触っている。違う。“何か”じゃなくて、誰かだ。誰か？誰かって、誰だ？

　「え、ちょっと待て。誰かいるの？」

　え、ちょっと待て。誰かいるの？

　………ん？

　今のは、俺の声じゃないぞ。女の声？

　「え、ちょっと。なにこれ」

　「え、ちょっと。なにこれ」

　ガバッ。

　「おぉ！？おわあああああああ!?」

　「おぉ！？おわあああああああ!?」

　オッパイがある。生まれて初めて見る母親以外の生のオッパイだ。白くて、大きい。俺の目の前にオッパイがあった。オッパイ！？なんでオッパイが！！なぜオッパイ！？

　「ちょっと待て！？だ、誰ですかあんた！！」

　「うわああああ！！うわああああああ！！俺が二人いる！！！」

　「え、ここ俺の家ですよね！？え、ちょっとなんで！？」

　「つうか俺の声、なんか変…」

　「てゆうかなんで裸……。え、これって社会的にアウトなあれ！？」

　これってこの前ネットで見た奴か！？巧妙に男の布団に潜り込んで、そういった事実は何もないのに「レイプされた！！」って騒ぎ立ててヤクザみたいな兄ちゃんつれてきて賠償金と口止め料でヤバい金額請求されるっていうあれだ！！つーか俺童貞で今まで一度もチンコを使った事なんてないのに！！

　「え、ちょっと待って。なにこれ、オッパイ…あれ、なにこれ」

　オッパイ…。否、俺の目の前の女性は、自分で自分のお胸を確認するようにしばらく揉んでみた後に、自らの股間(これまた母親以外のは初めて見た)をまさぐると、呆然とした様子で呟いた。

　「俺が二人いて…、俺が女になってる…？」

●〇●

　朝１１時。登校時間はとうに過ぎている。

　学校は仮病で休むことにした。

　俺２…。便宜上、目の前の女になったらしい俺を、俺２とする。

どうやら、１時間近くお互いの話をすり合わせた結果、俺２が、女になった俺だという事に間違いはなさそうだった。自分でもちょっと何を言ってるのか良くわからんが。

……そんなバカな。もう一度、もう一度確認だ。

　俺２の顔は、アイドルのようにカワイイ！！

…という訳じゃないが、それでも実際それなりにカワイイ。それだけじゃなく、確かにどことなく俺に似ていた。俺自身はイケメンでもないし、カワイイわけでもないが、もし俺が女になって、ブサってる部分を全部整形でもしたらこんな顔になるだろうという顔だ。それなりにカワイイ女だ。しかもオッパイのデカい女だ。（F以上か？他を見たことないからわからんが）

　しかし、女が目の前にいるのに童貞特有の緊張がないのは、俺２が俺だからだろうか…。自分で自分を見て興奮するのは相当の変態くらいのもんだろう。

　「もう１度、確認しておいたほうが良くないか？」

　「お、おう。そうだな」

　俺２の声に俺はついつい目を逸らした。

　いくらなんでもオッパイ見すぎだろ、俺！

　俺２は、今でこそTシャツにグレーのスウェットという、いつもの俺って感じのファッションだが、ノーブラに白Tシャツで、谷間は見えるし乳首は浮いてるしで、目のやり場に困る。本当はガン見したいのだが、実際女の人の身体を間近に見るのがこんなに照れ臭い事だなんて思わなかったぜ。だって、俺、童貞だもん。会話はできるけど直視できない。

　まあいい。再確認だ。

　「小学校の時、ポケット妖怪ウォッチャーで捕まえた妖怪につけてた名前は？」

　「小学校の時、ポケット妖怪ウォッチャーで捕まえた妖怪につけてた名前は？」

　お、おう。やっぱり俺なのか？まったく思考回路が同じだ。さっきもこんな風になったんだった。

　「よし。さっきと逆でいこう。窓際に座ってるほうが質問。壁際に座ってるほうが解答」

　最初の確認の時は俺のほうが質問して、俺２…。女の俺のほうが答えた。今回は逆にしてみる。ちなみにポケット妖怪ウォッチャーは俺が小学生の頃に大流行したゲームだ。

　「じゃあ、答えるぞ。ヒトツメーがルッタン」

　「一番遊んでた友達のあだ名だな」

　「ウシオニラスがルヴァス」

　「進撃の兵団のルヴァス隊長の名前をそのままだな」

　「ガッシャードが……………ふみか」

　「……………片思いしてたあの娘だな」

　うあわああああああああああああああああああ！！はずかしいいいいいいいい！！

　だがこれで、やはりこの俺２は100％もう一人の俺だという事が解った。何故なら、ポケット妖怪ウォッチャーのセーブデータは、友達は愚か、家族にすら見せた事はない。だって好きな子の名前をポケ妖につけるなんてイタすぎるだろ！！

　　無意識にグネグネ悶えてた俺を、俺２がジト目で見ている。そうだ。過去を思い出して恥ずかしがっている場合ではない。もっと大事な事がある。

　まずはトイレだ。

　あまりもの非現実的な状況の連続でなかなか言い出せなかったが、実はさっきからトイレに行きたくてたまらなかったのだ。状況確認も済んで気が緩んできた今、思い出したように下腹部が騒いでいる。

　「とりあえず、トイレ行ってくるわ」

　「とりあえず、トイレ行ってくるわ」

　いくらなんでも一心同体すぎるだろ、俺ら。

　俺の住んでいるのは７畳間ロフトつきの安アパート。当然だが、トイレは一つしかない。

　死活問題であるゆえに、互いに同じタイミングでトイレに飛び込もうとする！

　「ちょっと待て！！ちょっと待て！！お前、女じゃないからわからねえんだよ！！多分、女の俺のほうが膀胱がヤバい！！」

　「ちょっと待て！！女のほうがトイレ長いじゃねえか！！」

　「小便だからそんなに変わらねえよ！！たぶん！！だいたい男なんだから最悪電柱にでもすりゃいいだろが！！」

　「夜ならそれもいいかもしれねえが！！朝にそれやったら不審者だろうが！！」

　「女はそれすらできねえんだよ！！つーか、力強いなお前！！」

　最初はドアノブの奪い合いから、段々ともみ合いになってきたのだが、俺が弱すぎる！！女の力は弱いと聞いてたが、これほどとはな！！

　「わかった！！ギブ！！ストップ！！先行けよ先！！」

　俺２は力で勝てないと見るや、戦略的降伏を申し出た。もし俺が向こうの立場でもそうしていただろう。流石だ。

　「へへ、悪いね」

　俺は俺２に申し訳ないと思いながらも。トイレに飛び込みチンコを解放した。

　すぐにジョボジョボと放尿。下腹部が解放される爽快感が背筋を走る。

　ふと、今度はどうも肛門がむずがっている。

　俺２には悪いが、実際なんだかんだ言って俺２もあと１０分は持つだろう。なぜわかるかと言うと、俺だからだ。だいたい、俺はいつも大げさに物を言ってしまいがちだからな。気を付けなければ。

　「おいいいいい…、まだ？まだ？長くね？マジでヤバいって！！」

　外から必死そうな声が聞こえるが、俺のことだから大げさに言って煽ってるだけだろう。

　「ごめん、クソもしたくなってきた」

　「てめえええええ！！ふざけんなああああああああ！！クソ！？クソは約束と違うだろうが！！！漏れる！！マジで、漏れる！！！」

　ドンッ!!

　トイレのドアが乱暴に叩かれる！！俺はその剣幕に少しビクっとしたが、もう先っぽが出てきてしまっている。

　「だって出てきちまったんだもん！！」

　「チンコがなくなって、我慢の仕方がわかんねんだよ！！マジだから！！冗談じゃなくて本気だから！！マジであと１分も持つ気がしねえ！！」

　「わかったわかった。すぐ出るから。」

　「本当だな！？」

　そう言えば、男に比べて女のほうが膀胱が緩いという話をどこかで聞いたことがある。もしかしたら、俺２も冗談じゃなく実際ヤバいのかもしれないぞ。これは、少し急いでやったほうが良いかもしれない。フンッ…!!

　ポチョン…

　脱糞の水音が聞こえた。だが、少し力みすぎてしまった。

　「おい！ケツは外で拭け！！このままじゃ床がマジでヤバいっつーより漏れるから小便がマジでほんとうにだから」

　「………あ、もう一発出そう」

　２発目の弾丸が、肛門から射出されようとしている。すまん俺２。今度はマジで急ぐから。

　「おいいいいいいいいいいいいいいい！！！…………あぁッ！」

　ボタタタタタタ…ジタジタジダジタジタジタ…

　一瞬の悲鳴の後、外から、子供の頃に聞いた事のある音が聞こえた。あれはいつだったかな。小学４年生の遠足の時、バスの中で中根君が我慢できなくて漏らしたんだっけ。それから中根君は学校に来なくなって、俺は人前では決して漏らすまいと心に誓ったんだよな。

　そんな昔の事を思い出しながら、俺は遠い眼でこれからの後処理の事を考えると。なんだかすべてがどうでも良くなってきはじめたのだった。