15同志を見つけました
「常識を壊す……。」
女王が我に返り、カナデの言葉を反芻する。カナデは、自分と同じ考えの人間がこの世界にいることに興奮していて、女王の考え込むような表情に気付かなかった。一気に自分の主張を話し出す。
「そうです。この世界の、いや異世界転移・転生物の女性の意識改革を行いましょう。男性優位の、男のための男のために生きている、可哀想な女性たちを救いましょう。私、決めました。」
カナデは、すっかり女神がこの世界に呼んだ目的を忘れていた。いや、忘れることはなかったが、そんなこがどうでもよくなるくらいの目標ができた。
「この世界の女性たちが自由に男のことを気にせず、幸せに、快適に暮らせるような世界を作ります。そのためには、一人でも多くの協力者が必要です。その一人目が女王様、あなたです。」
「は、はあ。」
びしっと、女王を指さすカナデ。人に指を向けるのは失礼だが、そんなことはカナデの頭から抜け落ちていた。しかも、目の前の女性は、この国の王。指を向けるだけで死罪ということもあり得るほどの身分を持っている。ただし、女王は、怒涛の話の展開についていけず、ただあいまいに返事をすることしかできず、カナデを不敬だと罰することは頭に浮かんでいないことが幸いだった。
そばに控えている二人の護衛は、話が聞こえていないのか、カナデが女王に危害を加えることがないことを知っているのか、ただその場に棒立ちになるだけだった。
「トントン。」
「誰だ。」
二人きりの時間が唐突に終わりを告げた。女王は、表情を硬くして、扉の外の人物に話しかける。
「勇者のユーリです。陛下に聞きたいことがあったのですが、お時間はよろしいでしょうか。」
謁見は終わったはずで、いったいユーリが女王に何の用事だろうか。せっかく、女王を自分の味方につけることができると思っていたカナデは、邪魔者の到来にちっと舌打ちする。
「うむ。問題ない。今、カナデとの話が終わったところだ。入ってよい。」
「失礼します。」
ユーリが女王とカナデの居る場所に近づいてきた。途端に表情を思いきりゆがめ、テンションが一気に下がるカナデに、女王は苦笑した。しかし、ユーリの前で、女王の威厳を損なってはならないと、毅然とした態度で、ユーリに話を促した。
「それで、いったいわれに何が聞きたいというのだ。魔王討伐の説明は部下がすると言ったはずだがのう。」
「いえ、個人的な話ですので。いや、魔王討伐と関係ないことはないか……。」
言葉を濁すユーリにカナデが怒りを放つ。ユーリを見ていると、腹が立って仕方ない。思わず、思っていたことが口からこぼれてしまう。
「陛下に話があるなら、とっとと話せよ、このクズが。陛下と私は大事な話をしていたんだ。それを邪魔しに来やがって。話がないなら、とっとと部屋に戻れよ。そして、一人で寂しくベッドで寝てろ。」
「うざいばばあだ。これだから、三次元の女は苦手なんだ。すぐにヒステリックに叫びだす。ああ、陛下。あなたは違います。その麗しの美貌とスタイル。にじみ出る女性の魅力と知性。ああ、この世界に来て本当によかった。」
「われも、カナデとの話を邪魔されて、気分がよくない。話があるなら、さっさと話してくれるとありがたい。」
ユーリの誉め言葉に、女王は反応を示さず、無視し、本題を迫った。女王の言葉には従うようで、ユーリはすぐに本題を話し出した。
「申し訳ありません。つい、調子に乗ってしまいました。話というのは、そちらにいるカナデというくそ、いや、女性のことです。」
びしっと指でさされたカナデは反発する。いったい自分に何があるというのだろうか。自分のことを考えるが、ユーリに対しては、問題しかないことに気付く。そして、嫌な予感がした。ユーリに対しては嫌な予感しかしないとカナデはつくづく思う。この男は疫病神と認定することにした。
「その女性は、本来、魔王討伐にかかわりがないのです。私と同じように女神さまが異世界より召喚したことに間違いはありませんが、女神さまが間違いを起こしてしまったのです。ですから、くそ、いえ、そこの女性は魔王討伐から外して欲しいのです。」
「おことわりします。私は、絶対に此度の魔王討伐に参加させていただきます。勇者の旅をサポートするために私は呼ばれたのです。陛下、勇者様は私を追い出して、女性と自分だけのハーレムを作りたいだけなのです。私が勇者に惚れることは絶対にありませんが、彼女たちは違う。だからこそ、私が勇者のそばにいることが必要です。先ほどの話を思い出してください。」
勇者の申し出を受け入れることはできない。受け入れるということは、イザベラたちが勇者の餌食になるということに他ならない。カナデが魔王討伐に参加しないとなれば、一緒に魔王討伐に行く女性陣が、ユーリにどんな目にあわされるかわからない。いや、わかるからこそ阻止すべきだ。
カナデとユーリの意見は真っ向から対立している。互いに自分の主張を譲る気配は微塵もなかった。互いに睨み合う時間が続いた。二人のあまりの剣幕に女王は戸惑っていた。どうやら、二人は仲がとても悪いということはわかった。女王は、カナデと話していたことを思い出す。そして決断を下した。
「それは無理だ。勇者ユーリ。彼女は異世界から来た。異世界から来たものは、女神からの使命を全うせねばならない。拒否することは許されない。よって、カナデが魔王討伐メンバーから抜けることは許すことはできない。」
「その通りです、陛下。わかったか、このクズ野郎。私が一緒に居る限り、お前にハーレムエンドが来ることはない。どうだ、うれしいだろう。」
「このくそばばあ、調子に乗りやがって。」
「まあまあ、二人とも落ち着くがよい。それから、勇者ユーリ。いくら同じ世界のもの同士だと言っても、礼儀というものがあるだろう。女性に対して、くそばばあはいかがなものか。」
「いいんですよ。オレはこいつを女だとは思っていません。それに、前の世界では、年上の女に対しての扱いはこんなものです。ああ、陛下、この世界の女性と、オレがもといた世界での女性の扱いは違います。この世界の女性は年上でも年下でも敬愛すべき、愛しき存在です。間違ってもくそばばあなどとは呼びません。あくまで、前の世界の話です。この女性はオレと同じ世界の住人なので、いいんです。」
「特別扱いということか。となると、二人の関係も特別ということか。」
『違います。』
叫び声に近い二人分の悲鳴が部屋に木霊する。
「陛下、その話は不毛です。無駄です。」
「そうかのう。それで、勇者ユーリ。話はそれだけか。われはまだカナデと話したいことがある。それだけなら、下がるがよい。」
「ええと、くそお、いえ、このくそ、いえ、カナデが魔王討伐メンバーから外すことができるまで粘ろうと思うのですが。」
「くどい。」
女王の一蹴で、ユーリはすごすご部屋から退出していった。再びカナデと女王は二人きりとなった。近くに護衛は控えているが、話に加わるつもりはないらしい。黙ってそばに控えている。カナデはユーリの後姿にべーと舌を出していた。
「さて、カナデ。お主が魔王討伐に参加することは確定だが、一つ頼まれごとをしてもいいかのう。」
女王は、ユーリのぶしつけな視線が嫌だったのだろう。他の女性陣も同じ目に合わないことを願っていた。
「カナデは、あの男のことをなんとも思わないのだろう。ぜひ、女性陣を勇者ユーリから守ってほしい。お主の話に乗ってやるのはそれからだ。」
「わかってくださるのですね。やはり、私たちは同志です、大丈夫です。私にお任せ下さい。異世界転移・転生物は女性の描写をのぞくと大抵好きなのです。だからこそ、異世界物をすべて好きといえるように私は頑張っていくつもりです。敵を倒すために敵を知ることは重要ですが、私はすでに知り尽くしていますから。ご安心ください。」
「うむ。では、魔王討伐と勇者から女性を守る任務、しっかり励んでくれ。そして、とっとと魔王を倒し、その後の計画を聞かせてくれ。」
こうして、魔王討伐前に、カナデと女王は同志となり、二人は初対面とは思えないほど打ち解けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます