10ハーレム能力発動中です

「ドラゴンって、この世界じゃそんなに数が多いのかな。」


「まあ、異世界の定番モンスターだよな。ちょうどいい、くそ女、見ておけよ。オレの雄姿を特別に見せてやるよ。」


「勇者様が出る幕ではありません。ここは私にお任せを。」


 ドラゴンはやはり、爬虫類のうろこにおおわれていた。口から炎を出して、村を焼き払おうとしていた。あわや口から炎を出す寸前に、イザベラの剣がドラゴンを両断した。カナデが異世界に最初に降り立って出会ったドラゴンと同じ末路をたどった。哀れなドラゴンの死体がそこには転がることとなった。



「ファイアーボール。」


 エミリアがすでに死体になっているにも関わらず、追い打ちをかけるように魔法を使った。ドラゴンの死体は青白い炎に包まれて、炎が消えるころには、ドラゴンの姿は跡形もなくなっていた。



「跡形もなく燃やしているけど、前はそこまで徹底的に燃やしてなかったよね。確か、ドラゴンを丸焦げにしただけだった気がするけど。」


「勇者様、わたしってすごいでしょ。」


 エミリアは自分の技を披露したかっただけのようだった。ユーリに褒めてと言わんばかりに顔を紅潮させて話しかける。イザベラも同様でこちらも頬を紅くしてユーリの言葉を今か今かと待っている様子だ。


「ふむ。ほめて遣わすぞ。イザベラ、エミリア。よくやった。そこのくそ女と違って、お前たちは有能だ。これからもよろしく頼むぞ。」


『ハイ、勇者様。』




 カナデは、ユーリと彼女たちの茶番につき合いきれずに、辺りを観察する。ちなみに、ソフィアもユーリたちの茶番につき合う気はないようで、カナデと一緒に辺りを確認していた。村は焼かれずに済んだようだが、ドラゴン以外にも村を襲ったものがいたようだ。家はところどころで火がくすぶっていたり、崩壊したりとひどい有様だった。



「手をあげろ。」


 観察していたら、村を襲ったものがまだその場にいたようだ。全身を黒いローブで覆った謎の集団がいつの間にかユーリたちを取り囲んでいた。



「そのまま、武器を下ろせ。抵抗したらどうなるかわかっているな。」



「うわあ。いかにもなシチュエーションだけど、どう、す。」


「馬鹿か。オレが誰だと思っているんだ。てめえらこそ、オレをどうかしようとしたら、どうなるかわかっているのか。オレは勇者だぞ。」



 ユーリは、この状況を楽しんでいた。勇者として、女神からチートな能力を与えられていたため、誰を敵に回そうが勝てると思っていた。実際に、魔王を倒すための力を与えられているため、大抵の敵は彼にとっては朝飯前で倒すことが可能である。


「な、お前が勇者だと。嘘をついても無駄だ。」


「嘘じゃない証拠でも見せてみようか。」


 ユーリは黒いローブ姿の集団の一人を指さした。そして、命令する。


『オレに従え』


 命令された一人がユーリの言葉と同時に光りだす。


「これで、こいつはオレの言葉に従うしかなくなったわけだ。どうだ、オレのチート能力、言霊の力ってやつだ。」


「ば、バカな、そんな都合のいい魔法があるわけな、」



『この場にいるお前の仲間を捕縛しろ。』


「かしこまりました。マスター。」


 ユーリの命令に従い、次々と自分の仲間を捕縛していく。数分後には10人ほどの仲間がユーリの目の前で縛られて転がされていた。


「それで、お前らのボスは誰だ。」


 嬉々として、捕縛した一人に話しかけるユーリ。先ほどの言霊の力を使われることを恐れてか、すぐに情報を話し出した。



「お、おれたちを痛めつけると、痛い目を見るぞ。俺たちのボスは魔王様だ。」


「お、おれたちがこんな目に遭っているのを見たら、助けに来てくれるはずだ。今に見てろ。お前なんか魔王様にぎったぎたにやられるに決まっている。」


 自分は魔王に守られていると思っているのか、ユーリを挑発するような発言をする謎の集団。案の定、ユーリは簡単に挑発に乗っていた。



「そうかそうか。おまえらのボスは魔王かよ。だったら、なおさら、ここで倒しておくべきだろう。さっきのオレの力見たよな。それでも逆らおうというのなら……。」


 再度、ユーリは言霊の力を使おうとしたが、それは叶うことはなかった。ユーリが話し終える前に、黒いローブ姿の集団の周りに黒い煙が突如現れ、煙が晴れるころにはすでに黒の集団は跡形もなく消えてしまったのだ。まるで、彼らの危機を救うかのようなタイミングの良さだった。



「おそらく、あの集団は本当に魔王の手先なのでしょう。魔王は、この国を侵略する前に一度、手下に下見をさせると聞いたことがあります。」



 誰もいなくなった空間を見つめ、イザベラが不安そうな顔でユーリに話しかける。イザベラの言葉に一同の空気がどんよりと重くなる。しばらくの沈黙が続き、耐え切れなくなったカナデが声をかけようとした時だった。若い女性の声が沈黙を破った。









「助けていただいてありがとうございます。あなた方のおかげで、死者を出さなくて済みました。私は、この村に住むエルフ族の長の娘、シーラと申します。村人を代表してお礼申し上げます。」


 バッとユーリが声のした方を振り向くと、そこには異世界おなじみの種族の娘が立っていた。異世界転生後の世界でよく見かける種族である。耳がとがっていて、金髪、緑の瞳、森の守護者とも呼ばれる、魔力が強い種族だ。



『本物のエルフだ』


 カナデとユーリの心の声がここでも見事にはもりをみせた。



 女性の後ろには、女性と同じような容姿のエルフがたくさん並んでいた。皆一様に感謝の意を示しすように、深々と頭を下げていた。


エルフ族の代表として、挨拶をしてきたのは、美女と言われるにふさわしい巨乳の若いエルフだった。例によって、服が発達していないのか、単なる露出狂なのか、布を身体に巻き付けただけのような簡素な格好をしていた。


ただし、巨乳であるにも関わらず、胸周りの布が明らかに少なく、大きな胸が丸見えである。大事な部分だけが隠されているだけで、完全に、カナデたちがいた世界では、痴女として逮捕されるだろう。下半身も同様で、何とか大事な部分だけは隠されているようだが、艶めかしい足はほとんど露わになっていた。


 ユーリの目はすでに、エルフの胸にがっつりと視線が集中している。なんとも現金な人間である、それをカナデはごみを見るような冷たい目つきで睨んでいる。ユーリの視線に気づいたのは、カナデだけではなかった。イザベラとエミリアも珍しく、カナデと同じ視線でユーリをにらんでいた。ただし、当の本人はにらみつけられていることに気付いていない。ただひたすらエルフの胸を見つめていた。


 ソフィアだけは、いつもの聖女らしい、ほほえみを崩さずにニコニコとほほ笑んでいた。そのため、何を考えているのかまでは表情からは読み取ることはできなかった。



「いいえ、お礼などとんでもない。ただ、目の前に敵がいたから倒しただけのこと。それに、私は旅の道中ですので、お気になさらず。」


 視線は胸に向けつつも、爽やかに礼などいらないと謙遜するユーリ。爽やかで誠実な男を演出しようとしているが、すでに目線のせいで、下品さがあふれ出てしまっている。



「勇者様のおっしゃる通りです。我々は、魔王討伐に選ばれしメンバー。ドラゴンを倒すことや村を守るために敵を追い払うことは当然の義務です。お礼など、滅相もありません。」


「そうだよお。エルフさんが気にするようなことはないから、とっとと村の復興を始めちゃってよ。」



 イザベラとエミリアは不機嫌さを隠す気はないようだ。声にとげがあり、不愉快この上ないと態度で表していた。



「そうですか……。」



 しかし、シーラと名乗るエルフは、どうしてもお礼がしたいようだ。とはいえ、こんなことでいちいち足止めをくらっていては、いつ首都である名古屋、いや、ネームオールドハウスにたどりつくかわからない。


 そうは思ったものの、カナデは嫌な予感がした。お礼がいらないといって、その後に考えられる展開といえば……。


「しかし、どうしてもお礼がしたいというなら、気持ちだけ受け取っておきます。我々は先を急いでいるので。」


 なおもユーリはお礼はいらないと断っていると、カナデの予想通りの展開となった。




「それならば、私を旅のメンバーに入れてください。お役に立てると思います。」


 女性のエルフは勇者に向かって頭を下げる。その拍子に胸が上下に揺れていた。



「いや、申し出はありがたいが……。」


 顔を赤くする勇者だが、これはだんじて断らなければならない。カナデの本能が叫んでいた。



「ダメです。あなたは絶対にこのメンバーに入ってはいけません。自分を安売りする必要はありません。それに、あなたは見たところ、この村の大事な人でしょう。そんな簡単に村を離れていいと言っては……。」



「いいんじゃない。別に。仲間は多いほうがいいでしょう。まあ、わたしより役に立つかはわからないけど、カナデよりは役に立つでしょうし。」


「私は勇者様の指示に従うだけです。勇者様が同行させるというのならば、それで構いません。カナデは何を向きに断っているのですか。もしかして、カナデは勇者のことが……。」



『それは絶対にない。』


 カナデとユーリが同時に叫んだ。見事なハモりが森に響き渡った。


「そこまで言うなら、よろしく頼みましょう。御心配には及びません。この勇者であるユーリがエルフのお嬢さんに傷一つつけることはありません。」




 勇者のハーレム能力が発動した瞬間だとカナデは悟った。その後、エルフのシーラとともにネームオールドハウスに向かうこととなったのだった。



「これは、この後の道中が楽しくなりそうですね。」


 ぼそっとつぶやいたソフィアのつぶやきは誰にも聞かれることはなかった。

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