第23話 不穏な予感
「なんとかなったな、二人ともやるじゃねぇか」
「あのマミーは、魔力量はすごかったようだけど、魔法の技量自体は大したことなかったから助かったね」
「動きは良かったけどなぁ、一撃防がれたときは焦った」
口々に言いながら、辺りを見回っていった。
しばらく警戒しながら、調べてみたもののこれ以上はスケルトンもマミーもいないようで、石門の内部も聞いていた通りの何もない空間があるのみだ。
ここからマミーが出てきたのが嘘であったかのようだった。
「結局、マミーの発生原因になるようなものは見当たらなかったね」
「さっきも言ったが、自然発生とは考えにくいんだよな」
何もない石造りの遺跡で、それ以外には何も目立つものも不自然なものも無かった。だけどゴラノルエスさんはやはり引っかかるものを感じているようだ。
「原因になるものは既に持ち去られていた、それか立ち去っていた、ってところか?」
「「!?」」
ノブおじさんの言ったことは一つの予想に過ぎない。けれどその事の持つ意味は重大だ。
「元から調査済みの遺跡だ、持ち去られるようなものが残っていたとは考えにくい。てことは、だ」
「誰かがここで何かをした?」
もちろん、本当の所はただの偶然でマミーは自然発生でした、ということも考えられる。しかし誰かの意図による可能性の危険さの前には楽観的過ぎると思えた。
「いやだねぇ、町の近くで強力なモンスターが発生するように仕向けて立ち去るとか。狂人の暴走か悪党の計画か……」
「どちらにせよ、ソルベに危害を加えようとした、あるいはしている奴がいる可能性があるな」
最悪の場合の被害を考えると見過ごせないけれど、現状で何ができるわけでもない。
「不安だけど、可能性だけだと何もできないよね?」
「そもそも動くにしても手掛かりが何もねぇんだよな。今してるのは全部仮定の話だ」
「まぁよく言うなら推理だな」
ノブおじさんが言うように、これはあてずっぽうの話ではなくて、ある程度筋の通った“推理”だ。だから根拠が無いとしても、ここだけの話としてしまうわけにもいかないだろう。
「でもせめて冒険者ギルドと魔法ギルド、あと衛兵詰め所に伝えておくくらいはした方がいいよね?」
ぼくが言うと、しかしゴラノルエスさんは難しそうにうなっている。
「……いや、衛兵詰め所はいい。さすがに噂程度の話をいちいち言いに行ったりしてると、いざという時に信じてもらえなくなりそうだ。そっちは決定的な証拠をつかんだ場合に、だな」
「冒険者ギルドの方はどっちにしろ今回の報告に戻るとして、魔法ギルドは次にバッソが稽古をつけてもらいに行った時にでも話しておくか」
ノブおじさんの言う通りで問題ないだろう。前回はニトさんとの顔合わせで終わってしまったようなものだから、近々デルゲンビスト様を訪ねることになっていた。
「ん? なんだそれ? バッソとノブは魔法ギルドにも出入りしてたのか?」
ゴラノルエスさんは不思議そうにしている。
「うん、デルゲンビスト様からノルストさんとのもめ事の謝罪ってことで、稽古をね。聞いてないの?」
「そりゃあ、とっくの昔に実家は出てるしな。それに俺は魔法使いの才能はないから魔法ギルドに滅多に出入りしない」
ゴラノルエスさんはあれほどの身体能力を発揮するのだから、体内魔力量はおそらく相当に多い。けれど魔力を身体能力に変換するのはどちらかというと運動神経が問われるから、いくら魔力による身体強化がうまい人でも魔法使いとしての才能は全く別の話になる。
要するに魔法使いの才能とは、魔力を魔法として使う器用さ、と言い換えることができる。そしてこの場合ゴラノルエスさんには、その類の器用さは備わっていなかったのだろう。
「まあなんでもいいさ。魔法ギルドにいく用事があるなら、そっちは任せた」
「うん、じゃああとはスケルトンとマミーが落とす素材を拾って帰ろうか……」
言いながらテンションが下がってきた。さっき見まわった時は警戒していたから素材回収はしていない。つまりそこらじゅうに砕けた人骨と共に散らばった魔石、アンデッド系モンスターが落とす魔力を帯びた石、を探して拾う作業が待っているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます