第21話 おじさん・オブ・ザ・デッド

 「今回は俺に付き合え、なっ?」

 「んへ?」

 

 魔法ギルドでの一件からしばらくたったある日、冒険者ギルドへ入るとゴラノルエスさんに声を掛けられた。

 

 というか、びっくりすると変な声が出る癖を直したい。

 

 「おいおいゴラさんよ、いたいけな少年を朝から恐喝かぁ?」

 「違うっての、顔で判断するな! ……依頼だよ、パーティ組んでいかねぇかって話だよ」

 

 冒険者ギルド内に人がいつもいるのは、パーティを組んで依頼をこなす相手を探すためが大半の理由らしい。さすがに日をまたぐような長期依頼だったり、極端に難しそうだったりするのは気心と実力が知れた相手としか組まないようだけれど。

 

 ゴラノルエスさんは大柄な上に棘の生えた鎧を着ていて、しかも実は貴族だ。だけど気さくで面倒見のいい人だから、ソルベの冒険者達から慕われているのを日の浅いぼくでも知っていた。

 

 あとおじさん同士で波長が合うのか、ノブおじさんとは妙に親しげだし。

 

 「はい、ぜひお願いします。ゴラノルエスさんは銅ランクですよね、やっぱり上位職なんですか?」

 「あぁん? まあそうだな、俺はエクセキューショナーだ。この背中のバトルアックスでこう、敵の首をちょんっとな」

 「おうゴラ、あんた前に俺の昔話聞いてドン引きしてたくせに、それかい」

 

 ああ、ノブおじさんの人斬り昔話か……。確かにゴラノルエスさんの言い方も十分怖いよ。

 

 「そんなことよりバッソ、パーティ組むんだし堅いのは無しだ。呼び方もノブみたいに略してくれていいぜ」

 「うん! じゃあ今日はよろしくね、ゴラさん」

 

 

 

 まとまった所で、依頼を受けて町の外へと三人で出てきていた。依頼内容は町のすぐ近くにある遺跡の調査だった。

 

 町の入り口である門がぎりぎり見えなくなる程度の距離だというその場所まで、歩いて移動しながらぼくらは今回の依頼について話していた。

 

 「その遺跡って、別に何もないんだよね?」

 「そうだな、なんせ場所が場所だし、内部も冒険者ギルドの訓練場くらいの広さの空間が地下にあるだけだったらしい。魔法ギルドも一応調査はして、大昔の墓だったものが荒らされて、場所だけが残ったんだろうって結論付けてたな」

 

 今回の依頼はその何もない遺跡の調査だけど、もちろん理由があってのことだ。

 

 「近くでアンデッド系モンスターの目撃証言ねぇ。その見つけたモンスターは倒したんだろ?」

 「らしいな、スケルトンだったってよ。で、今回は他にもいないかちゃんと見てこいって依頼だ」

 

 アンデッド系モンスターは古い死体が、長い時間をかけて魔力を吸収してモンスター化した存在だ。今回向かっている遺跡のような場所には人骨のアンデッド、スケルトンがいることがある。

 

 そして状況にもよるけれど、その遺跡がお墓であるならスケルトンの大量発生が起こることもあると、師匠から聞いたことがある。今回の調査もそれを警戒しての念のため、ということなのだろう。

 

 徐々に目指す遺跡らしきものが見えてきたところで、思い出したようにゴラノルエスさんが聞いてきた。

 

 「バッソは戦闘用の火属性魔法はもう使えるのか? スケルトンといえば火が効くからな」

 「一応使えるけど、イマイチかなあ。どうも構成が緩くなるというか……」

 

 火属性の戦闘魔法は苦手とするモンスターも多いから、冒険者登録してから練習はしっかりとし続けていた。けれどどうもぼくは風とか地、あと空属性の方が得意なようで、それらに比べると“使える”と胸を張って言えるレベルではなかった。

 

 「あぁー、なんか苦労してたな、そういえば」

 「まあ、今日はノブだけじゃなく俺もいるしな。使える属性で数を減らしてくれりゃいいさ」

 

 さすが銅ランクの冒険者だ、ゴラノルエスさんはスケルトンなんかまったく恐れていないという様子で言ってくれた。

 

 そうこう言う内に、もう石造りの門のようなものがかなりはっきりと見えている。大柄なゴラノルエスさんでも余裕をもって通れる程度の幅で高さもそれ相応だ。

 

 門の扉部分はとっくに無くなっているようで、ぽっかりと黒い空間が地下へと続いているように見えるけれど、当然内部はほとんど見えない。

 

 地上部分は瓦礫が点在してはいるものの、見通しはよくモンスターは近くにはいないことが確認できる。

 

 「なんかいるとしたら、やっぱ地下か?」

 

 ゴラノルエスさんが確認するように言った。

 

 「そうだね、そっちを確認しに……、ん?」

 「いたな」

 

 返事をしている途中で、石門からひょこりと顔を出す存在が見えた。くすんだ白い人骨の頭、スケルトンだ。一緒に埋葬でもされていたのかボロボロの剣を手に持っている。

 

 「地下から出てきたし、発生源は決まりだな。――ってぅおおおお!」

 「なっ!!」

 

 ゴラノルエスさんが雄叫びの様な悲鳴を上げ、ぼくも驚愕していた。というのも石門から出てきたスケルトンが一体じゃなかったからだ。

 

 ざっざっざっ

 

 足音を響かせながら、ぞろぞろと無数に、際限なくスケルトンが外へと出てきている。すでに外にいるだけでも二十は超えているけれど、打ち止めになる気配はない。

 

 「まあ、あれだ。俺はもう突っ込むから。バッソはノブとこの辺りに陣取って数を減らしてくれ」

 「雑な作戦……、って言いたいけど、それしかないね」

 

 ヒノキの杖を何度か回転させて具合を確認していると、ゴラノルエスさんがこっちに頷き、バトルアックスを両手で構えて突進していった。

 

 「どぉぉぉおお、らぁぁぁぁああああ!」

 

 勇ましい声を上げてゴラノルエスさんが走り抜けると、進路上にいたスケルトン達がバトルアックスで打ち上げられ、次々と吹き飛んでいった。もちろん頭と胴体は別々に、だ。

 

 「魔法に集中するから、もし近くに来たら対処お願い」

 「おう」

 

 短くノブおじさんとやり取りすると、杖へと意識を向けて準備を始める。スケルトンだしやっぱり火属性で、それもある程度の範囲を継続的に攻撃できるように大きな火柱の魔法、かな。“火”“上がる”“留まる”で構成して。

 

 「“火よ吹きあがる柱で焼き払って”」

 ひぃぃぃゅゅぅううう

 

 高い音を響かせながらスケルトンの群れの中心直上に火が収束していき、その魔力を高めていく。やっぱりうまく制御しきれてなくて、発動のタイムラグが……。

 

 「って、ああ!」

 「どうした? 問題か!?」

 

 魔法が発動しつつある中、急に声を上げたぼくにノブおじさんが驚いている。

 

 「ゴラさん、魔法失敗した! 避けてぇぇぇ!!」

 ひゅごごごごごおおおおおおお!

 

 叫ぶと同時に巨大な火柱が発生し、スケルトンもろ共燃え上がった、に。

 

 「あぶねぇぇぇっ!」

 

 良かった、ギリギリのところでゴラノルエスさんは、長大な横倒しの火柱を避けられたようだった。

 

 「ごめんっ、ゴラさん!」

 「ちくしょうっ! 構成が緩いってこういう意味か。頼むからもう火は使うなよ!」

 

 あとで、ちゃんと謝らないと。

 

 けれどゴラノルエスさんの突撃と、今の魔法でいつの間にか追加が止まっているスケルトンの三分の二ほどをせん滅できた。残るは数で言えば、三十くらいだろうか。

 

 このまま押し切れる、と考えていたところで石門からさらに一体のアンデッドが歩み出てきたのが見えた。

 

 「新手か……?」

 

 ノブおじさんが呟いた通り、今度はスケルトンではなかった。全身を包帯で覆い、ところどころの隙間からその乾ききった皮膚が垣間見えるアンデッドモンスター、マミーだ。しかも厄介なことに黒ずんだ大きな杖をしっかりと握りしめている。

 

 「魔法使いタイプのマミーとは、こんなのが町の近くにいたってのか」

 

 ゴラノルエスさんが元より厳つい顔をしかめて、乾いた声で言ったのが聞こえてきた。

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