第12話 サローの森・探索開始

 聞いていた通り、ソルベの町をでてから大体一時間くらいで森の手前までたどり着いた。

 

 こちらからは見えないけれど、この森の向こう側にサロー村があるということなのだろう。今回村は依頼に関係ないので立ち寄ることはないけれども。

 

 「じゃあ、森に入ろうか。私はモンスターへの警戒に集中するからミツバ探しはバッソ君に任せてもいいかな?」

 「うん、ぼくもそれがいいと思う。ノブおじさんも警戒の方をお願い」

 「おう、任せとけ」

 

 中に入るとそれほど暗くはなく、意外と明るい。森とはいっても木々はまばらでそれなりに見通しもきくようだ。

 

 少し歩くとセリエスさんが立ち止まった。

 

 見るとゴブリンが三体、こちらへ駆けてくるところだ。枝を何本か束ねてツタで巻いた粗末なこん棒を振り回している。

 

 「俺が先行してくる二体を斬る」

 「じゃあ、私はその後ろのをなんとかするね」

 「ぼくも後ろで追撃用に魔法を準備しておくから、逃げられても追わなくていいよ」

 

 余裕をもって待ち構えたところへと、先行する二体が前へ出ていたノブおじさんの元まで辿り着いた。

 

 横並びに走りこんでくる二体のゴブリンの右側へと、滑るように一歩踏み込んだノブおじさんは、その勢いのままに細身のロングソードを振り下ろしていた。

 

 ずばっ! ギィィィ!

 

 相手の目線から外れて、近づき、剣を振り下ろす。それを一動作で恐ろしく滑らかに行う攻撃にゴブリンの一体は全く反応もできずに斬り伏せられていた。

 

 痛みに反応して悲鳴を上げたが、斬られたことには最後まで気付いていない、そんな感じすらあった。

 

 そして斬られた一体が倒れたことに気づいたもう一体の先行していたゴブリンは、驚きそちらを見ていた。

 

 そしてその時にはすでに回り込んだノブおじさんが、残るもう一体の視界の外、斜め後ろの位置で剣を振り上げていた。

 

 ずっん! ギャェェェ!

 

 やはりもう一体も抵抗すらできずに斬り伏せられ、あっという間に先行していた二体は消え去り、小さな角を残して跡形もなくなった。

 

 残る一体、少し後ろを走ってついてきていたゴブリンは、この状況に怯むこともなく、踏み込んできたセリエスさんへとこん棒を振りかぶっていた。

 

 「やぁっ!」

 

 かわいいが勇ましい声を上げて、セリエスさんが盾を叩きつけるようにこん棒へとぶつけると、力負けしたゴブリンは右腕ごとこん棒を後方に弾かれ、大きく体勢をくずした。

 

 そして背面に大きく引いていた分厚いロングソードを横なぎに振り払ってゴブリンの胴体へと叩きつけた。

 

 ごっ! ッギ!

 

 衝突音と共にほとんど悲鳴も出せなかったゴブリンは吹っ飛んでいき、そのまま地面へ落ちることなく薄くなり、消えてしまった。

 

 「あぅ。ごめん角がどこかへ飛んで行ったよ」

 「う、うん。ちょっと探せそうにない……ね」

 

 二人して小さなものがきらりと木漏れ日を反射しながら遠くへ飛んでいくのを見送っていると、迎撃するために少し離れたところにいたノブおじさんが、驚いた様にこちらを振り向いた。

 

 「バッソ! もう一体!」

 ギィィィェェエエ!

 

 ノブおじさんが叫ぶと同時、ぼくの近くに潜んでいたらしいゴブリンが、こいつもこん棒を振りかざして飛び出してきた。

 

 「バッソ君!!」

 「このくらい!」

 

 セリエスさんの悲鳴と慌てて駆け寄ろうとするノブおじさんの珍しく大きくたてた足音を聞きながら、しかしぼくは冷静だった。

 

 ぼくには師匠に教えられた戦う術がある。師匠からは魔法使いは魔法しか使えなかったら絶対困ることになる、自分の身を魔法無しでも守れて初めて一人前の魔法使いだ、と口をすっぱくして教えられてきた。

 

 とっさにヒノキの杖へと魔力を流して強度を高めつつ、中ほどを持った杖で掃うような動きで、小柄なゴブリンが振り下ろしてくるこん棒を、その内側から叩いた。

 

 振り下ろす最中のこん棒を魔力強化した杖で横から叩かれたゴブリンは、そのまま何もない地面へと思い切り叩きつけた。

 

 それを確認しながら、放つために準備していた魔法を少し変更していく。

 

 “雷”“纏う”“弾ける”、と準備して、ヒノキの杖へと纏わせるべく意識を集中する。

 

 この“雷”、空属性に分類されるもので、攻撃力が非常に高く、その上放てば弾速が尋常ではなく速い。つまり当然のことながら戦闘魔法になるので、座学ではずっと学んできたけれど、実際に使うのはこれが初めてとなる。

 

 ちなみにこの空属性“雷”こそ、師匠が最も得意とする属性で、現役時代に特大の雷を空へと落として星を打ち砕いたこともあるそうだ。神話の世界みたいな武勇伝があるなんて、さすが師匠神がっている。

 

 「“雷よ杖に伝って”」

 

 ヒノキの杖をくるっと回転させながら言葉を放つと、ばちっと音がしてうまくいったことがわかった。

 

 そしてその回転の勢いをそのままに雷を纏った杖をゴブリンの頭頂部へと叩きつけてやった!

 

 ばちちぃっ!

 

 爆発音とも違う、乾いた木が砕けるような独特の音を発して、接触した杖からゴブリンへと雷が流れ込み、衝撃と同時に電撃を送り込んだ。

 

 目の前でゴブリンが消滅して小さな角を落とす光景を見ながら、ぼくはうまくいったことに安どした。

 

 「バッソ君! 無事!?」

 「大丈夫、ノブおじさんも警告してくれたしね」

 「いやいや、それにしても大した動きだった。魔法もすごいな、ただの棒が恐ろしい武器になってるじゃないか」

 

 少し離れたところで周囲警戒しているセリエスさんから安否を問われ、すぐ近くへと戻っていたノブおじさんからは褒められた。

 

 悪い気はしないけれど、この場合、魔法も魔力による身体強化も使えないノブおじさんが当たり前のように活躍するのが一番すごいと思うのだけれど、まあ今更だから言わないでおこう。

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