言消(げんけし)

言消げんけし」とは、江戸時代、罪人に科せられていた刑罰である。幕府により採用されたのは、十代将軍・徳川家治のとき。対象は町人だけであり、武士には適応されていなかったという。

 さてその「言消」、聞きなれない言葉だが内容はというと、「言消に処された罪人と会話をする際、意味のある言葉を使ってはならない」というもの。つまり、罪人と関わるすべての人間に対してそういった縛りが発生するという特殊な刑罰だったのである。罪人には、言消の受刑者だと一目でわかるように額に赤で「言」の字の入墨が彫られた。(ちなみに、額に入墨を彫る入墨刑は八代将軍・徳川吉宗のときに始まっており、言消はその要素も含んでいたということになる)

 江戸時代の町人の暮らしを記した書物によれば、言消に科せられた者と会話する際は「ああ」「うう」などの無意味な音で済ませることが常だったらしい。一見軽そうな刑罰に思えるが、自分の周りから言葉が消えるという生活が続くことによる罪人の精神的ダメージはかなりのものだったようで、ほとんどの受刑者が三ヵ月も経たない内に両耳の鼓膜を破るか、両耳を剃刀で切り落とすかしてしまったそうだ。自死する者も少なくなかったという。

 かくして言消は、軽度な刑罰として導入した幕府側の想定を超える陰惨なものとなってしまい、そのためか、十三代将軍・徳川家定の頃には廃止になったという。

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