聖剣の聖剣による聖剣のための魔王

ウッズ0358

第1章

1話 魔王登場

 暗黒の雲が空を覆い雷の音が鳴り響く。沼地からは有毒なガスが絶えず発生しており周囲に生物は見当たらない。昼か夜かも分からない程にこの地は暗い。

 悪魔の墓場と呼ぶに相応しいこの地には大きな城があった。


 門前では二体の羽根の生えた鬼の銅像が来るものを拒む。整備がいき届いた庭に街灯はなく、ただひたすらに荒野が広がっているようである。


  庭を抜けると高さ100mを超える古城が大地を見下ろしている。

 城のタイルは漆黒色で統一されており、明度の高い色は何一つとして存在していない。


 城の主はかつて最強の勇者を討ち滅ぼしこの世界を統べた魔族の王。


――魔王である。


 とても一人では開けることができない大きな城の扉を通ると、大理石で覆われた玄関ホールが客を迎える。

 天井からはダイヤを惜しみなく使ったシャンデリアが悠々とぶら下がている。

 城の外見とはうって変わり、城内では赤を基調としたコーディネートで統一されている。


 二階に上がり吹き抜けの廊下を5分程歩くと玄関扉よりさらに大きな扉が待ち構えている。

 扉を支える左右の柱には悪魔の顔らしき彫刻がされており、禍々しい空気が扉の内側から放たれている。

 百戦錬磨の強者をもってしても命と引き換えにやっと踏み入れることができる。

  そう覚悟させるには充分な扉である。

 この扉を抜けるとそこはもう魔王の居間であった。

 居間の天井には悪魔達が写実的に絵描かれており、悪魔が人間を蹂躙している場面が大胆に表現されていた。

 音の反響を計算されて設計されたこの居間に、魔王の低い声が響き渡っていた。


「おい!お主……、誰に物を言っているのか分かっているのか!?」

 身長2m近くある男が黒いフードを被っているが、長い朱色の髪はフードから飛び出ている。

 男に華やかな装飾はなく、攻撃、防御に特化した黒い鎧を身につけている。

 武器は身につけておらず丸腰のように見えるが、生物を絶命させるに武器など必要ないということを誇示するためであった。

 一見すると普通の成人男性のように見えるが、この男こそが魔王であり、この世界の支配者である。

 魔王の鋭い赤い眼光が魔王の部下達に向けられている。


 魔王の前には魔王軍の幹部4名、召使い1名が直立不動で待機していた。

いずれも百戦錬磨の者達であるが、魔王の前ではその力もちっぽけなものであった。


「私は魔王……。自身の脅威となり得ることは全て熟知している!召使いの“アイ“よ、お前は今しがた何と申した?」

 黒のローブを着た老爺。指までやせ細っているが、その指には大きな宝石の指輪がはめられている。

「わ、私はただ魔王様が当然知っていることとお見受けして、何かお役に立てればと思考を巡らせただけでございます。一介の召使いが差し出がましい真似を致しましたことをどうぞお許しください」

 魔王が召使いに再度尋ねる。

「アイ……、もう一度問うぞ。貴様は先ほど何と申したのだ?」

 アイは恐怖で魔王と目を合わせることができなかったため、失礼を承知の上で魔王の首元に目の焦点をあてて返答した。

「恐れながらも復唱させて頂きます。私めは先ほど『勇者復活に呼応するように、聖剣エクスカリバーから度々光が放たれました。聖剣は魔王様に匹敵する力を秘めております。今のうちに破壊するのが得策かと存じます』

とお伝えいたしました」

 魔王は黙ってフードを取った。

 魔王の頭部からは白い光沢のある一角が生えているが、上部が折れており痛々しい傷が刻まれている。

 アイと幹部達は思わず息をのんだ。

「そうだ。あの忌々しい勇者からの一撃は我の角を粉砕しこの傷跡を残した。聖剣エクスカリバーの力は計り知れない。だから勇者を討ち滅ぼし、聖剣をこの城内の武器庫に封印しているのであろう!」

 アイは「おっしゃるとおりです」というほかなかった。

「アイよ、何のためにお主を聖剣の研究担当者に任免したか理解しているか?聖剣を調べ上げ、我の脅威を破壊するためにお主はいるのではないのか?その行動に私の許可がいるのか?」

 アイは大粒の汗が背中から足にかけて流れ落ちるのを感じた。

「いいえ、私目の役目は聖剣を一日も早く破壊することでございます。研究担当者になり早10年、目的を失念しておりました。偉大なる魔王様、どうかこの愚かな召使いに今一度、名誉挽回のチャンスをお与え頂きたく存じます。」


 魔王はアイをしかと見つめていた。

そして魔王の声が少しばかり明るくなる。

「アイ、お主の言葉、そしてその態度からは確固たる決意を感じる。私はもう一度、お主を信用し、ここに聖剣エクスカリバー破壊の命を与えるとしよう」

 支配者からの直々の命令。それは魔王軍に使える者にとって最高峰の言葉であった。

 アイだけでなく、この場にいる幹部達を奮い立たせるには充分な言葉でもあった。

 アイは震える声を抑える。

「魔王様の寛大なるご慈悲、感謝してもしきれません。必ずや、このアイ、ご命令の下、聖剣エクスカリバーを破壊すべく方法を見つけ出ししてみせます!」


 アイの明るい表情とは反対に、魔王の顔は険しくなっていた。

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