百.設定を掘り下げてみよう


「……本当に面目ない……まさか護衛する側の私達が敵の術中にはまるなんて……」

「……えぇ……言葉もありませんことよ……」


 骨っ娘に操られていただもん騎士とですわ騎士は正気に戻り、俺達に謝罪をした。


「特にナツイ……ごめんなさい……私は貴方に敵対心があったわけじゃない……ただ……いつか貴方とは全力で戦ってみたいって……そういう気持ちがあったから…………」


 だもん騎士は珍しくしおらしく俺に頭を下げた。


「別に気にしてない、気にするな」


 いつか全力で戦ってみたいって要望は勿論却下だが。俺は食事と睡眠と通勤(帰宅時)にしか全力は出さない。


「それより飯にしよう」

「イシハラさんっ……それよりもその子はどうするのですか? 怯えながらぴぃさんに隠れていますけど……というかこんな暗闇の墓地のど真ん中で食事をしようなんて度胸があるのは世界中であなた一人だけですよ! 別の場所にしましょう!」


 ムセンが食事の却下をした。

 ふむ、確かに昨今はコンプライアンス的に問題があるような行為はすぐに写真におさめられてSNSにアップされてネットに出回ってしまうからな。

 『お墓でご飯食べてみた』、なんて炎上しかねない。


 仕方あるまい、さっさと墓地を抜けよう。


「おい、骨っ娘。町へ案内しろ」

「は、はぃぃぃぃ! しますアル! だから許してアル! その滅茶苦茶な精神をボクに見せないで!」

「………負の力に慣れている死霊術師がこんなに怯えるのを初めて見ましたわ……貴方、一体どんな精神をしているんですの……」


 俺達は骨っ娘に墓地を案内させながらご飯に向けて歩きだした。


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<地下墓地.通路>


 骨っ娘の案内で俺達は地下墓地の通路を進む。


 通路には石壁に埋め込まれているランタンの灯りがあり、真夜中の外よりは多少明るいがそこはやはり手入れのされていない墓地。

 ジメジメしているし、通り抜ける風が冷たく薄暗い通路に不気味さの拍車をかけている。

 まるで遺跡のような地下墓地は荒れ果ててはいたが広大で荷馬車で通過するのは充分な広さだ。

 余談だが荷車をどうやって地下へ運んだかというと、ですわ騎士の木を操る『技術』だ。



 それでどうやって荷車を地下へ運搬したんだという質問は受け付けない。ファンタジー世界の事なんだから魔法的な力でどうとでもなるだろう、自分で想像しろ。


「ぴぃ、だけど灯りがついているのはなんでっぴ?」

「ボクはここに住んでるアル、ここのオトモダチは家族と会えなくて寂しそうだったから」

「オトモダチ達って……何でしょうか……?」


 ムセンが骨っ娘に恐る恐る質問をした。


「オトモダチの幽霊ネ、ほら、今もみんなの後ろをぞろぞろついてきてる」

「「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(ぴぃぃぃぃっ)!!」」」


 ムセンと騎士達と焼き鳥が叫んだ。

 どうやら骨っ娘は見えるちゃんらしい、死霊術師なんだから当たり前だけと。


「何故幽霊がオトモダチなんだ?」

「ひっ……ボ……ボクは生まれつき霊と意思疎通できるアル……です……霊には悪い霊もいるけど…優しい人達がいっぱいいて……」

「ここの霊もか?」

「はぃ……ここのオトモダチはかつての『職業大戦』とかで無念の死を遂げた人達が多いアル……です……自分の職業のランクをあげられずに自分に恨みを抱いて死んでいった人達ネです……真面目な人達なのです……」

「そうか」


 なんか職業大戦だの職業のランクだの伏線みたいなワードが多く出てきてわけがわからないが、ここはあえての余裕でスルー。

 興味ないし、そんな世界観を掘り下げている暇などない。


 余計な事に首を突っ込むのが生き甲斐のムセンも幽霊に怯えてか耳を塞いでいるから突っ込みも飛んでこない。

 なんて素晴らしい、これでサブクエストも起きないだろう。


 と、いうわけで俺は余計な事を聞かないためにそれ以降黙々と歩いた。ムセン達も怯えて会話をしなかったから沈黙の一行はすぐに地下墓地の出口へと辿り着いた。


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<慰霊墓地.出口>


「あとは……ここを真っ直ぐアル……です……半日歩けば『ムキリョクの町』に着くの……です。あ……案内はここまででよろしいなの……でしょうか……? ボクはここを離れたくないアル……ですが……」

「ふむ、案内ご苦労様。助かった、ありがとう」


 俺は骨っ娘に礼を言った。

 さて、もう墓地は抜けたから食事にできるな。飯にしよう。


「も……もう幽霊はいないのか……? 良かった……ところで、だ。リィ君と言ったか? 君は何故この墓地に住んでいるのだ? なにやらナツイに話があったようだが……」


 墓地を抜け、気を取り直しただもん騎士が骨っ娘にたずねた。

 OIOI、骨っ娘の事情に触れるんじゃない。せっかく余計なイベントが起きないようにしてきたのにバカかこいつ。

 事情なんて聞いたら『新たなサブクエストが発生しました』的なアナウンスが出てきてしまうだろう。


「そうですわね、民草を救うのは騎士たる者の務め……何故死霊術師という【悪職】に貴女が陥ったのか……何やら理由がありそうですわ。食事にしながら聞いてあげてもいいですわよ」


 だもん騎士に続き、ですわ騎士もバカな事を言った。


「ツリーさん、そういえば異界に来てからこれまで【悪職】というのを話の節々に聞いてきましたが……一体何なのでしょうか? 死霊術師というのはそれにあたるのですか?」


 ムセンがお馴染みの余計な事をですわ騎士に聞いた。


「えぇ、そうですわよ。異界人であるあなた方には説明が難しいのですけど……」

「大まかな説明はアマクダリさんやジャンヌさんから聞きましたが確かにあまり理解できてはいません……だけど、全て知りたいです。この世界における【職業】について……それがシューズさんを救う事にもなると……そんな気がするんです」


「……わかりましたわ、それらをあなた方にもわかるように教授してあげますわ。いずれ必要になる事かもしれませんから」

「いらん」

「心配する事はない、私はウルベリオン王国の騎士だ。何か事情があるのだろう? 話すといい」

「やめろ」

「……聞いてほしいネ……ボクは『ある上級貴族』に復讐がしたいのアル……そのために」

「知らん」

「イシハラさん……お話を聞くだけですから……ほらっ! とびっきり美味しい料理を創りますから!」

「ならば良し」


 まったく仕方ないな。何故、女子というものは無駄話が好きなのか。まぁしかし飯だから良しとしよう。


 こうして散りばめられていた設定を掘り下げる事にした。




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