九十七.リリック
通り抜ける風がおどろおどろしい音を立てて辺りに鳴り響く。
その音はまるでここに住んでいるという亡霊達が怨嗟(えんさ)の念を生きている者達に伝え、恨みを晴らそうとしているかのようだ。
既に日は暮れているため墓地一帯は闇に包まれ、闇の住人達がいつどこからか現れるとも知れない。
あちこちに建ててある石碑や十字の墓の下には、その住人達の器である遺体があるのだろう。
もしかしたら現世に未練が残るあまりに暗闇から這い出て彷徨っているかもしれない。
ほら、今もあなたの後ろに………
「「い……いやぁぁぁぁぁぁっ!!」」
「イシハラさんっ! 意地悪しないでくださいっ~!! ぐすっ……」
二人の騎士とムセンの泣き叫ぶ声が荷車の中から聞こえる。
俺は『怖い』という理由で焼き鳥から降りて荷車に隠れただもん騎士の代わりに焼き鳥に乗っていた。
その焼き鳥も『怖い』という理由で目をつむり、俺に誘導を任せる始末。
何だこいつら。
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<シュヴァルトハイム『慰霊墓地』>
木々に囲まれたその墓地は広大で、ここに来てから30分ほどゆっくりとことこ歩いてはいるが未だに同じような景色が続く。
一応墓などは区画されてはいるが、荒れ果てた道や木々などは整備されてはおらず非常に歩きにくい。
『慰霊墓地』とか名がつけられているにも関わらず、荒れ果てている。
「……魔王軍が現れてからこの地の管理が難しくなったと聞いている、そのせいもあるだろう……」
だもん騎士が呟く。まったく、これじゃあ死人も浮かばれないな。
「ぴぃ……けど魔物の気配は感じないっぴよ……」
「魔物達もここには近寄らないのですわ……何でも身体を乗っ取るという悪霊達は魔王軍さえはねのけているとか……」
悪霊って魔物とは別枠なのかよ、面倒くさい。そこは一緒でいいだろもう。
「それからここは手付かずの場所となっているのだ……この先には地下墓地というエリアがあり、そこから河川の向こう側まで行けるらしいが……」
「べ……別のルートはなかったのですか……?」
「あの河川はウルベリオンから続いていてシュヴァルトハイムをほぼ分断しているのですわ……ここ以外には更に上流へ向かって山を越えるルートしかありませんの……そんな大回りをしている時間の猶予はないんではないですの?」
「……確かにそうです……怖いですけど……頑張らなきゃですよね!」
「うむ、悪霊などに恐れを為している場合ではない」
「そうですわよ、まぁわたくしの手にかかれば余裕ですわ。霊魂など樹剣『グリーンセイバー』が退治してくれますわよ」
三人は強気にそう言いながら荷車から出てこない。なんなんだこいつら。
「だったら道案内くらいしろ、暗い上に同じような区画ばかりだから方角もよくわからん。このままじゃここで夜を明かす事になるぞ」
俺は『夜眼(ライト)モード』で道を照らし、マップも使い周囲を確認する。しかし、マップが何故か上手く作動しない。そのせいで周囲の道さえよく確認する事ができない。
まるで霊的な何かに阻(はば)まれているようだ。
「怖い事言わないでくださいっ!……イシハラさんはこういった事も全然平気なのですか……?」
「何がだ?」
「その……霊とかそういった類いのものは……」
「見えた事ないからな。見えないからたとえ霊が隣にいようが後ろにいようがどうでもいい。俺の人生には何も関係ない」
『こっち』
「ん?」
突然、何か声が聞こえた気がする。
「……流石としか言いようがありません……イシハラさんが怖いものなどこの世にあるのでしょうか……?」
「ふっ、見当もつかないな。だが、何かに物怖じするナツイなど想像もできん」
「本当ですわね、ま……まぁ騎士として当たり前の事ですわ」
『こっち、来て……』
「断る」
何か誰かに呼ばれているが無視した。
俺は人が敷いたレールを歩くのが大嫌いなんだ、自分で行きたいところは決める。
『こっちに来い』
「しつこい」
どこから聞こえるんだろうなこの鬱陶しい女の声。ムセン達には聞こえてないのか?
『来ないなら……お前の大事なものを……奪う』
俺の大事なもの? なんだ? 食糧か? 確かにそれは困るな。
じゃあ奪われる前に飯にしよう、そろそろ腹減ったし。
俺は幌(ほろ)を開き、ムセン達に飯にするよう提案する。
「そろそろご飯。ほかほかご飯。幽霊ご飯奪う気許さねぇ、ユーロ五万貰っても渡さねぇ」
俺は何となく思いつきでラップ調で想いを伝えてみた。特に意味はない。
やはり韻を踏むのは難しいな、と思った。
【魔法剣技一級奥技『水翔波斬』】
【緑の騎士+令嬢オリジナル技術『創生(ユグドラシル)』】
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・騎士についた貴族ツリーの技術。草木を自在に操る事ができる。
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「おっと」
幌を開いた途端、飲み水と木造りの荷車が斬擊となり俺に襲いかかってきた。
寸でのところだったがそれを避けて俺は荷車から離れる。
そして、俺に攻撃を仕掛けた二人の騎士が荷車から飛び降り俺と向き合った。
今の技術はいうまでもなく、同行している二人の騎士の技術だ。
何があったんだ? ご乱心か?
「お前ら何やってんだ? 俺に攻撃してどうする。腹が減ったのか?だもん騎士、ですわ騎士」
「「……………」」
俺に剣を向けた二人は問いかけに答えず、ただ虚ろな眼をしてボーッとしている。
すると、草葉を掻き分けるような音が横から聞こえた。
「無駄ネ、その二人は既にぼくの操る霊魂に心を乗っ取られたネ」
なんか暗闇の草葉の裏から人間が出てきた。キョンシーみたいなコスプレをした変な女だ。年は17.8歳くらい。
「ぼくは『死霊術師』のリィ・シャンシャン。きみが来ないからいけないネ。久々に人と話すネ。ぼくと話そう?」
女なのにぼくぼく言ってるキョンシーは俺にそう言った。
こーゆーやつの事をなんて言うんだっけ? 地球では○○っ娘とかなんとか言った気がする。
考えるのが面倒なので骨っ娘でいいや。
俺は骨っ娘にライトセイバーをぶん投げた。
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