好きでも嫌いでも
ガキそのものは別に好きではないのだが、ガキを喜ばせる、というか喜んでいるガキを見るのは嫌いではない。
高校1年生の時、奉仕の授業で保育園に行ったことがあり、私は4歳児クラスのお手伝いをした。本当は2人1組でやるはずだったのだが、ペアの男子が休んだか何かで、私は1人きりだった。
先生たちが忙しかったのか、保育園に着いてすぐ4歳児の部屋に放置され、私は途方に暮れた。小さいガキは若い先生を好む傾向にあるはずだが、陰気な表情のせいか、私の周りにガキは集まらなかった。
しばらくは部屋の出入り口付近に立ってガキたちをぼんやり眺めていたのだが、そんな私を見かねたのか、1人の女の子のガキが私に話しかけてきてくれた。「おはなしよんで」とのことだった。寂しい思いをしていた私は「うん!」と元気よく答え、その女の子のガキが持ってきたシンデレラだか白雪姫だかの読み聞かせを始めた。
はじめは照れもあってかなり棒読みをしていたのだが、そうすると、女の子のガキは目に見えて、かつ半端なくシラけた。しまいには口に出して「つまんない」と言われた。よくよく考えるとあれくらいの歳のガキというのは、毎日毎日Eテレだのニチアサ(日曜朝にやっている特撮・アニメ)だの、エキスパートたちが粋を結集して作り上げた子供向け番組を真剣に観て暮らしているのである。目も耳も肥えていて当然だ。ならば、と私は恥を捨て、本気で朗読に取り組んだ。
声を張り、感情を乗せ、登場人物によって声音を変えるなどして絵本を読むと、その女の子のガキはかなり喜んでくれた。喜んで、テンションが上がり、あぐらをかいて床に座っていた私の膝に乗ってきた。これは結構嬉しかったし、かわいかった。が、その女の子のガキが膝に乗ったことで、周りにいた他のガキたちも私に対する警戒を解いたらしく、数分後、私の体はガキで埋めつくされた。もー背中によじ登るわ肩に縋るわ膝の上にも複数人乗ろうとするわで、すごかった。どうするべきかよくわからなかったが、とりあえず先に約束したのは「おはなしよんで」の女の子のガキだったので、彼女の依頼を完遂すべく5,6人のガキたちに埋もれながらも私は必至に絵本の朗読を続けた。するとその様子がまたウケたらしく、キャアキャアと笑いながらガキたちはさらに私に群がり、私は負けじと絵本を読み上げた。
これが、なんか楽しかった。
ん!?980字も話しておいて、話の着地点がわからなくなってしまった。まぁ、着地が出来ない間は飛び続けるしかない。
上の話に加えて、修士1回生の時に、住んでいた寮の祭りでガキ向けに「デカいシャボン玉」を作るコーナーを出したことがあった。針金ハンガーで作った大きな枠を手作りの特殊なシャボン液に浸してゆっくり動かすと、直径40~50cmくらいのデカいシャボン玉ができるのだ。正直、ただ自分がデカいシャボン玉を作りたいがために提案した企画だったのだが、これがそこそこガキにウケた。たくさんのガキがシャボン液でビッシャビシャになりながら遊んでくれてとても嬉しかったのだが、そのガキたちの親が、もっと嬉しそうに自分のガキを見ていたのがまた印象的だった。「あー、ガキが喜ぶとその親も喜ぶのかー」と、漠然と思った。あぁいうのがまたやりたい、ような気がする。
……未だ、着地点がわからない。普段だったらこの辺でとりあえずひとまとめ、みたくできるのだが、どうも調子が悪い。
それで最近は、そういうガキが遊びに来てくれる系のイベントに参加したいなーと、ぼんやりと考えている。多分町役場とかに行けばそういうイベントの情報は掴めるだろうし、ヨソ者とは言え若くて体力のある私はそこそこ歓迎してもらえるのではないかと思うのだが、あと一歩、勇気が出ない。私が人見知りするタイプだから、というのもあるが、そういうイベントに参加している大人というのは多分みんな、本当に子供が好きな人たちだ。そういう人たちの中に私のような半端者が入ってなんやかやするというのは、なんだか少し、気が引ける。
私は別に子供が嫌いではないのだが、どうにも好きだと自信を持って言い切れない。これにはおそらく、私の母の存在が深く関わっている。
母は、私がこれまで出会ってきた人たちの中で一番、子供好きの人だ。何と言ったらいいのだろうか?子供のために働くことを生き甲斐にしている、っぽい。彼女が実際にそう言ったわけではないけれど、そんな感じがする。仕事中の母を何度か見たことがあるが、子供たちには基本ナメられつつも好かれているようだったし、何より母自身がとても楽しそうだった。
あれと比べると……という感じがするのだ。私は別に子供の発育とか情操教育とかにはそんなに興味が無くて、子供と接したいとも思わない。ただ私が関わり提供した何かで子供が喜び、それを見た親がまた喜んでくれたらそれでいいのだ。絵本でも描いてみようかな。
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