月見て跳ねる
小バエに悩まされている。
2週間くらい前から妙に家の中で小バエを見かけるなと思っていたら、育てているカポック(観葉植物)の鉢から発生しているらしいことに気付いた。慌てず騒がずめんつゆトラップを設置してみたのだが、ネットで見るほどの効果は得られない。「トラップ液の配合が悪かったのだろうか?」とより詳しく検索してみたところ、そこで衝撃の事実が明らかとなった。
めんつゆトラップは、
①めんつゆに含まれるアルコールによって小バエを集める。
②洗剤の表面張力によって水面に触れた小バエを捕らえる。
という仕組みで作動している。そのためアルコールを好むショウジョウバエという種類のハエ(生ゴミによく湧くやつ)には効果覿面なのだが、観葉植物に湧くキノコバエ、チョウバエには効果が無いのだそうだ。しかも、キノコバエ・チョウバエに効果的なトラップは未だ開発されていない。
であるならば、やるべきことはただ一つ。根絶やしだ。駆除方法は色々あるようだが、薬液を買いに行くのは面倒なので、発生源である鉢の土を丸ごと変えてしまうことにする。それも面倒なことに変わりはないが、ちょこちょこ視界の端に小バエがちらつく現状はそれなりにストレスフルなものであるので、仕方がない。
私はこれまで小学校の授業以外で植物を育てたことはなかったし、育てることに興味も無かった。が、一人暮らしを始めてちょっと経ったときに「少しでも孤独を癒やしてくれたら」と思い、上で話したカポックと、あとパキラを一株ずつ買ったのだ。しかし結局、彼らから癒やしの効果を得ることは出来なかった。(だからこのブログを始めたのだ。)
そもそも何故、動きも喋りもしない植物が孤独を癒やしてくれるだなんて思ったのかというと、友人のビスカちゃん(7話 『一人で(往生)できるもん』参照)が以前、育てているハエトリ草を「友達」と呼んで可愛がっているのを見たのだ。「植物に毎日語りかけると元気にすくすく成長する」という話もよく聞くし、身近に話し相手のいない私でも、家に帰って植物に今日あったことなどを話し、それを受けて植物がグングン育ってくれたら、なんだか会話が成立しているみたいで素敵だと思ったのだ。
しかし、リアクションはおろか相槌すら帰ってこない相手に喋りかけ続けるというのは、なかなかに難しいものだった。「ただいま!今日は結構気温高かったね。家の中暑くなかった?いま換気するからね!……あー、汗かいたし、お風呂入ってこようかなー……………」みたいな感じだった。植物相手に気まずくなって、風呂場へ逃げだす始末だ。どんだけ弱者なのだ、私は。
もちろん当時の自分の行動や思考を思い返すと「大分ヤバかったな」と感じるが、多分その頃の私も、Wordに向かってひたすら独り言を入力している現在の私を見たら「行くとこまで行ったな」と思うことだろう。お互い様なのである。
それはそうと、全然関係ないのだが、私は25年間の人生で一度も、海外へ行ったことがない。MAXで沖縄と北海道までだ。そんな私が今冬、オーストラリア(以下、AU)へ飛び立とうとしている。ニュージーランド(以下、NZ)でワーキングホリデイ中の友人(コミュニケーション力: 鬼)に会うためだ。彼女は以前から「自分の前世はウサギだ」と言って聞かないところがあるので、ウサギさんと呼ぶことにしよう。
それで、なぜ素直にNZで会わないのかというと、日本からNZへは直行便がない(らしい)こと、またコミュ力だけでなく行動力も: 鬼である彼女は既にNZ中の名所を網羅しつつあるらしいことから、お互いにとって落ち合いやすく、且つ新鮮な気持ちで観光できるAUが選ばれたのである。
AUと言えば、珍しい動物がたくさんいることで有名だ。カンガルー、コアラ、ウォンバットetc.…。AU生まれの人気者はたくさんいるが、しかしながら今挙げた動物たちはみな、日本の動物園でも見ることが出来る。けれども、少なくとも1種、現地に赴かなければ絶対に見ることが出来ない動物がいる。カモノハシだ。
カモノハシは、カモノハシ科カモノハシ属をその1種のみで形成する、水棲のほ乳類である。単に水棲のほ乳類ということであれば、クジラやラッコなど仲間はたくさんいるように思えるが、彼らは他の水棲ほ乳類とは一線を画す神秘的な生き物である。
まず、彼らは密な毛皮と平たい尾から成るビーバーのような胴体に、鴨のようなクチバシと水かきのついた手足という、雑コラのような体をしている。そしてほ乳類としては非常に珍しい卵生であり、さらにほ乳類のくせに乳首を持たず、そのため赤ちゃんカモノハシは母ノハシの毛に染みた母乳をしゃぶるのだそうだ。味が薄そうである。
また他にも後脚には柴犬くらいなら殺せるらしい強い毒を持つ鋭い爪を持っている(雄だけ)、クチバシは柔らかくて鳥類のそれとは全く異なる器官であるなど、わけのわからないポイントをたくさん持つ、とっても可愛い生き物なのである。ストレスに弱く輸送と飼育が難しいためAU国外に連れ出すことが出来ず、それ故カモノハシを見たければAUに足を運ぶほか無いのである。あぁ、カモノハシ。冬が待ち遠しい。
ところでそんな脆弱なカモノハシとは打って変わって、NZのウサギさんは、非常にたくましい人物である。彼女はとても愛嬌のある人として周囲にもよく知られているが、私の思う彼女最大の美点は、そのガッツの強さである。とにかく負けず嫌いなのだ。多分、私の出会ってきた人間の中でも1,2を争う。
負けず嫌いというのは一種の才能である。たとえば彼女は修士2回生の頃にポーカーをやり始めたのだが、初心者からの出発であったにも関わらず、半年後には他のベテラン(比較的)たちとも渡り合う実力を手にしていた。生来の負けず嫌い故に何度も何度もゲームを繰り返し、その都度勝つために必要なことを学んでいたからだ。
これが私だったら、どうだろう。私も負けず嫌いの人ではある(というか負け好きの人などいない)。しかし私の場合、負けるのが嫌だから勝つために頑張るのではなく、負けるのが嫌だからまず戦わないようにするのだ。悔しい思いをしなくて済む代わりに、得るものも無い。私が心安らかにぼんやりしている間に、彼女はキイキイ言いながらたくさんのことを修得しているのである。
安穏と無芸でいる私に対し、苦難を乗り越えて一芸を極める彼女はとてもたくさんの特技を持っていて(ピアノ、茶道(免許皆伝)、ドラム、剣道、卓球、横笛、テニス、ポーカーetc.…)、憧れる。憧れるが、しかしそれでも、私は彼女のような負けず嫌いにはなれない。あれは正しく彼女の天性なのだ。尊敬している。
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