その3 国王と私の戦場

 議会が始まった。

 でも私はそっちに意識を持っていく余裕は無い。

 いかに国王ルティを守りきるか。

 それが今の私の役目だ。

 

 議場側には危険要素は無い模様。

 吹き矢とか暗殺系の道具を心配していたのだが、それは大丈夫なようだ。

 だが危険予知魔法の弱い警報は未だ鳴り止まない。

 つまり相手はまだ諦めていないという事だ。

 さて敵はどんな手で来るか。


 国王が今回の事案の説明を述べて、判定院真偽官の召致を要請した。

 衛兵が数名、王弟の身柄を押さえる為出ていく。

 更にタシロ議員が議長に指名され意見陳述の為立ち上がる。

 その時だった。危険予知魔法が鳴り響いた。


 咄嗟に空間の歪みを走査する。

 2箇所の歪みを確認、空間軸操作魔法を咄嗟に連射する。

 1人は閉じ込めたがもう1人は僅かに早く抜け出した。

 通常空間へ加速すると共に敵の魔力が膨れ上がる。炎系統の魔法を感知。

 通常空間に出ると同時に議場を焼き尽くすつもりだ。

 やむを得ない。

『分子律速!』

 私の最強冷却魔法をぶつける。

 膨れ上がった炎熱の固まりが術者ごとしぼんだ。


 議場の中心、議長席前の空間に凍り付いた魔道士がゴトッと落ちた。

 勿論絶命している。

 やむを得ないとは言え人間を殺めてしまった。

 これが今回、シェラ達を連れてこなかった理由のひとつだ。

 万が一の際、シェラ達に手を下させない為。

 ただ私自身はそれほどショックを感じなかった。

 歳を取るという事は物事に対する感受性を失う事だ。

 もう私は仕方無いと言う言葉で片付けてしまえる年齢。

 だからこそこういった作業は私の仕事だ。


『何だ、あの男は』

 国王ルティから質問が入る。

『この議場をまるごと炎熱魔法で焼き尽くそうとしました。残念ながら倒すのがぎりぎりになり、通常空間へと出現させてしまいました』

『わかった。後は儂に任せてくれ』

 これで危険予知魔法の反応は……消えたな。


 あとはもう、国王ルティ陛下の演説なり説明なりを聞いているだけだ。

 流石王なんて仕事をやっているだけあって、国王ルティの弁舌はお見事という他は無い。

 私の役割は国王ルティが状況説明の為私の事を呼んだ際、声で返答しただけだ。

 通常空間に出ると私も魔法を使えなくなるので、あくまで声を届けるだけ。

 後は王弟ナールセスの魔法尋問、タシロ議員の魔法尋問。

 更にこれらから出た他議員でアマルテアの手先になっている者の確認と逮捕。

 更にこれからの事件解明と会議の日程を決めて本日の議会は終了。

 時計を見ると午後2時過ぎだった。

 もっと長かったように感じたけれどそんなものだったのかな。


 取り敢えず腹が減った。

 私はアイテムボックスからおにぎりを取りだして口へ運ぶ。

 会議は終了したが国王ルティはまだ議長や何人かの議員等と話している。


『ヒロフミ。襲ってきた魔道士のうち残り5人はまだ捕らえたままの状態だろうか』

 国王ルティが尋ねてきた。

『ええ。多少弱っていますけれど捕らえたままですよ』

『それらの者の引き渡しをお願い出来ないだろうか。彼らを操った者を明らかにしなければならない。それに使用した新しい魔法も確認しなければならん』

 確かにそうだな。

 ただ問題がある。


『わかりました。ただ敵を捕らえている異空間はおそらく私以外には扱えないと思います。あと私の魔法は強力かつ即物的すぎて、人を眠らせる等生きたまま無力化する魔法は苦手なのです。普通の相手を眠らせる程度なら出来ますが、今回の魔道士はそれなりに魔法抵抗力が強いでしょう。ですから、出来ればその辺が得意な魔道士を貸していただけると助かるのですが』

 そう、私はイメージしにくい睡眠とか読心とかの魔法は苦手なのだ。


『ヒロフミなら万能かと思っていたのだが、そうでもないのか』

 国王ルティが意外そうに魔法音声で呟く。

『残念ながら私にも不得意な魔法はあるのです』

『わかった。手配する』

 国王ルティは手を揚げて従者らしき者を呼びつける。

 指示を受けた後、彼は議場を走り去っていった。


『間も無く王宮魔道士を連れてくる。睡眠魔法をかけさせて敵を引き渡せばここは終了だ』

国王ルティの方の打ち合わせ等はどうですか』

『基本的に終わっている。今は王党派の重鎮と軽く挨拶をしている程度だ』

 そんな話をしているうちに従者君が3名ほど同じ黒い服装の者を連れてくる。

 これが王宮魔道士か。

『右側のやや背の高い者が王宮魔道士長のザグロフだ。彼の指示に従ってくれ』


 私は魔法音声で3人に向けて話しかける。

『国王陛下の知人のヒロフミと申します。これから敵の無力化をお願いする事になりますが、どなたにお願いすれば宜しいでしょうか』

『では私が参りましょう。ザグロフと申します。以降宜しくお願いします』

 お、魔道士長自らお出ましか。

『それではこちらの空間にお連れします。お二方はしばしそのままお待ち下さい』

『了解しました』

 という事でザグロフ氏をこの空間へと魔法移動させる。

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