その3 事案の舞台裏
王宮内の執務室、謁見室、休憩室等執務場所をまず確認。
いずれも誰もいない状態だった。
「この時間に国王陛下が公的場所にいないのは異常です」
「誰か代行しているという可能性は?」
「国王陛下は健康には問題無い筈でした。やはり何らかの政変が起きている可能性が高いようです」
「国王がいない場合誰か代行するんだ?」
「普通は皇太子殿下が代執行します。そうですね、国王代理室を確認してみます」
謁見室隣の部屋を見てみる。
この部屋には40代の男が二人、何らかの会話をしていた。
「あれは?」
「上席に居るのはナールセス叔父、王の弟になります。もう片方は議員の徽章を付けていますが名前まではわかりません」
なるほど。あまり良くない想像が色々出来てしまう。
「話の内容を聞いてみよう」
「ええ」
伝声管のように空間の一部をねじ曲げて声が聞こえるようにする。
「……議会の方の多数派工作は進めております。ただカルテール公爵をはじめとする国王派は相変わらず一枚岩で、なかなか切り崩すには手間がかかるかと」
喋っているのは恰幅のいい40代の男だ。
王弟ナールセスが男の台詞に頷く。
「国王が既に崩御されたと確認出来るまでは動かないか」
「左様で。陛下及び皇太子殿下が転送事故で行方不明と言えど、それ以下の直系継承権者が誰も姿を見せないとなると騒ぎは収まりませぬ。失礼ですがナールセス様が代行を行う正当性も疑われかねないと」
この辺はこの国独自の王位継承制度が絡んでいるのだろう。
この国では通常、王位継承可能なのは王の直系子孫のみとなっている。
万が一直系子孫が全員継承不可能な場合は、
① 王が侯爵位以上の者3人以上の前で継承者を指名する
必要があり、それが無い場合は、
② 王の血縁に近く適格と思われる者を
③ 公爵、侯爵から成る選定会議で選んだ上で
④ 選ばれた者が王位に関する不正な手段を取っていない事を魔法宣誓する
という手続きを取らなければならない。
つまり目の前の王弟の様に後暗い事をやっていると④の時点で欠格となり、処罰される事になる。
つまり一度は直系の子孫に継がせた上で、その者に次の国王継承者として指名させるのが安全確実な訳だ。
「そんな事はわかっておる。現在王宮付き魔道士を手配して四方手を尽くして捜索している最中だ。幸い第三王女と第六王女は王宮外、パルティア学園で保護されている。遠方だが護衛と移動魔道士の手配がつき次第お迎えする予定だ」
これは嘘だとすぐわかる。
何せ第三王女と第六王女は今、私の横にいるから。
「了解致しました。この件に関してはムッターマ大使の方へも連絡させていただきます。それでは引き続き、私めは議会活動と、かの国への連絡とを進めて参ります」
ムッターマ大使というのは知識の中に無い。
後でシェラに聞いておこう。
「あいわかった。頼んだぞ」
王弟の台詞に男は一礼して、部屋を出て行った。
それと入れ替わりに今度はやはり40代位の貧相な男が入ってきた。
「失礼致します。タシロ議員はいかがでした」
「アマルテアの犬めが、さっさと直系の継承者を出せとの事だ」
王弟は非常に不愉快そうな顔でそんな台詞を投げる。
でもこれでさっきの議員の名前と立場がわかった。
名前がタシロで、親アマルテア帝国側の議員なのだろう。
あとは以前シェラに聞いた事で大体の流れがわかる。
「それで第三王女の方はどうなった」
「移動先の世界が確認出来ましたので、明後日の再捜索で捕捉の予定です」
なるほど、シェラが敵の反応と言っていたのはこいつかこいつの配下の訳か。
「何分時間があまり無い。前回のように高速移動されて捕捉不能だったというような事は無いだろうな」
「はい。次回は向こうの世界にある程度とどまり、移動を追えた後に捕捉する予定です。移動魔道士を今回は六人確保したので確実に捕捉出来るかと」
「あの”反逆の王女”なら今の王や古い貴族共に思うところもあるであろう。ワシュティ王妃亡き後後宮から追い出され、今もパルティアで平民並みの生活を送らされていると聞いている。そうでなくともまだ50歳以下の小娘、幾らでも言う事を聞かせる方法はある」
なるほどな、この件の背景はほぼわかった。
あとは国王以下の身柄の在処がわかればこの件は解決だ。
ところで”反逆の王女”とはシェラの事なのだろうか。
どうも物静かなシェラのイメージに似合わない。
ただシェラやアミュがこの王宮では遠ざけられていたのは確かなようだ。
そんなシェラやアミュはこの件の解決を望むだろうか。
それとも放っておくべきと判断するだろうか。
その辺はシェラと一度話し合った方がいいだろう。
私としてはシェラとアミュが幸せになれる方を選びたい。
シェラが何を望むにしても。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます