第3話

「さぁ、着いたわよ」


車を降り、門の前に行くと、勝手に門が開いた。センサー式なのか?


「お兄様っ!」


敷地内に入るや否や、小さい少女に抱き付かれた。可愛い…


「お怪我はありませんか?わたくし心配してましたの…」


目尻にうっすらと涙を浮かべてるこの少女は、俺の妹らしい



「あっ!わたくしとした事が…はしたないですわ…」


シャロという、俺の可愛い妹は顔を真っ赤にして俺から離れた。言葉使いからして、マークス家は貴族か何かか



「私はこれで失礼するから。また会う事になるかもね」


何言ってるんだ。もう二度と会う事は無いだろう




「お兄様…大丈夫ですか?顔色があまりよろしく無いようですが?」


俺にはこの可愛い妹が居るから十分だ。ところで…名前とか分からないのだが…


「俺…記憶喪失で何も覚えてないんだ…すまない…」


見え見えの嘘をつくと、妹は泣き出してしまった。申し訳ない気持ちで一杯だ…


「そうなのですか…分かりました。お兄様に思い出してもらうのもわたくしの役割ですわ!」


そう言ってもらえて嬉しい。こんな出来の良い妹が現実でも欲しかった




軽く自分の事について教えてもらった。名前はマークス リベと言って、年齢は18。高校三年生と同じ年齢だ。妹の名前はマークス シャロ、良い名前だと思った


この国、大ギオン帝國は絶賛戦争中らしい。詳しい事は知らないが、相手は人間では無いようだ


そして、薄々気が付いていたがこの世界ではどうやら魔法が使えるみたいだ


その代わりに科学があまり発達してないようだが…魔法が使えるだけ嬉しかった


それに、文字も言葉も全て日本語だったのが救いだ。もしこれが英語だったら俺はここまで辿り着けなかっただろう


とりあえず俺は自分の部屋で休む事にした



真っ先に目に入ったのは、ライフル銃だった。いわゆる小銃と呼ばれる物だろう

棚に飾られているが、その中には拳銃や弾なども置かれていた


「支給されてるのか…それとも自前の物なのか…」


詳しい事はまだ分からなかったが、この体の持ち主は少なくとも銃が扱えるのだろう


「って事は、俺も使い方覚えないとだな」


試しに持ってみると、かなり重かった。ぱっと見、木材が多く使われているようだが、中には金属が詰まっているようだ




「…まずは座学の方だ」


基本的な知識について置いてある本から学ぶ事にした


この世界に来なければ、多分一生使わなかったであろう、銃の構造や扱い方、整備方法などを一通り頭には入れたものの、元々勉強が出来る方では無いのと、大学にすらまともに行かなかったがゆえにかなりの時間が掛かった


だが、知識を身につけても実践出来なければ意味が無い。構えるのが精一杯の状態で、狙いをつけて撃つなど不可能に近かった


「妹…シャロに聞いてみるか…」


正直、女の子が知ってるとは思ってないが、レミルとか言う子は軍に属してるのだから、可能性を信じて聞く事にした




「え?銃の扱いですか…?」


シャロはしばらく考える素振りを見せてからこう言った


「あまり人様にお見せするようなものではありませんが、お兄様がどうしてもと言うなら…」


「シャロのかっこ良い姿を見て見たいんだ。俺にレクチャーしてくれないか?」


「…承りましたわ。では、十分後に小銃を持って庭に来て下さい」


約束通り小銃を携えて庭に行くと、シャロが既に準備を終えて待っていた


だが、先ほどのひらひらの洋服では無く、迷彩柄のポンチョを纏っており、持っている小銃もスコープが備えられた物だった


いわゆる狙撃兵のような格好だったのだ


「えーと…その格好はどうしたの?」


「わたくしは第四魔導中隊所属、マークス シャロ魔導中尉です!」


そう言うとその場で俺に向かって敬礼をした


「おぉ…って、シャロも軍に所属してたのか…」


「当たり前ですわ。マークス家は代々、ギオン帝國の軍隊を率いる存在だったんですから」



マークス家ってそんなに凄い家柄だったのかよ…


とは言っても、シャロ自体はあまり戦闘に関わった事が無いらしい。理由は、両親が戦いに行ってる間、家に誰も居ない訳にはいかないからだそうだ


一応、従者として執事やメイドなどが家には居るのだが、シャロ曰く「自分の事はなるべく自分でやりたい」との事だった


「ん?待てよ?シャロが軍に属してるって事は俺も…」


「お察しが良いのですわね。流石はお兄様、その通りですわ。既に軍部には連絡してありますので、近いうちにお迎えが来るはずですわ」


「マジか…」


「マジですわ」


軍なんか入りたく無い。理由は簡単だ、まだまだ死にたく無いしだるい


それに、誰かの下で働くというのが大の苦手だ。これが今まで生きてきて、バイトすらした事の無い人間の悲しい主張だった


「安心して下さい。最初の方は前線では無く、後方の待機要員扱いですので」



待機要員とはいわゆる、召集を掛けられたら兵士として戦う者の事を指して、普段は自宅で待機する事になるらしい





まぁ、それでも嫌なのは変わり無いがな...

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